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31 聖女の不養生

 久しぶりに熱を出した。


 これまでの疲労に加え、戦闘に旅に王族との謁見の緊張。とうとう身体が悲鳴をあげ、結構な高熱が数日続いた。

 魔法でサラッと治そうとしたら、サンドお爺ちゃんに、しこたま怒られた。疲れた時は身体を休めんか!身体が休みたいと熱を出しとるのに、魔法で回復して働いたら意味がなかろう!と怒られ、苦いお薬と口直しの甘い飴を沢山もらった。

 

 寝込むなんて小さい頃以来で落ち着かない。何度も起き上がろうとするわたしを、キリと侍女さん達が怖い顔で止める。キリと他の侍女さん達はすっかり仲良くなったようで、わたしを休ませるために見事な連携プレーを見せてくれる。


 そういえば王城の料理長さんは、カイラット街の料理長さんの息子さんだった。名前はナリトさん。お父さんは筋骨隆々だったのに、ナリトさんはヒョロリと縦に長くて細かった。でもすっごい食べるらしい。お父さんからザロス(お米)の調理法を伝令魔法で教えてもらったナリトさんは、熱を出して寝込んでいるわたしのために、大鍋一杯に雑炊を作り、味見と称してそれをペロリと食べ切ったらしい。美味いなーって言いながら、あっという間の出来事で誰も止められなかったとか。

 後からちゃんとわたしの分も作ってくれました。鶏の出汁が効いた洋風の雑炊で、大変美味しゅうございました。鍋一杯食べた気持ちは分かる。チーズ混ぜて胡椒をきかせたリゾットにして次は食べたい。


 ジンさんは毎日どころか毎時間ぐらいの勢いで見舞いに来る。わたしが寝ている時も来ているらしい。

 本当はずっと付き添っていたいと言っていたが、仕事が忙しいらしく、怖い顔のバリーさんにとっ捕まっては引きずって連れて行かれる。頑張れ、仕事しろ。


 他にも、リュート殿下やアラン殿下、王様に王妃様にサンドおじいちゃん、ザインお爺ちゃん。かわるがわる誰かしら顔を出して、侍女さん達にこれじゃあシーナ様がゆっくりお休みになれませんと怒られて追い出されてる。余りに皆が顔を出すので、今では全く緊張しなくなった。賑やかで楽しい。


 グラス森にいた頃、働いている以外の時間はキリと一緒か1人ぼっちだったかどちらかだから、構ってもらえるのは恥ずかしいけど素直に嬉しい。そう言ったら皆居座りそうだから言わないけどね。


 ウトウトと微睡んでいて、目を覚ますとジンさんがベッドの傍の椅子に座って何か書類を読んでいた。目を覚ましたわたしに気づき、頭を撫でてくる。絶妙なヘッドマッサージ。気持ちいい。


「ゔぁー、腕を上げたね、ジンさん」


 最初は痛いだけだったのに、力の入れ具合が、ツボがっ…。


「侍女達に教えてもらっているからな」


 君は何を目指しているのかね。王子がマッサージ店でも開くのかね。


「退屈だよ、ジンさん。本も読み飽きた。何かしたい」


 熱が下がって数日。そろそろ起きてもいいと思うんだよね。

 貧乏性なわたしとしては、いつまでもゴロゴロしているのは落ち着かない。快適すぎるのよ!ここの生活。ちょっと欲しいものを呟くだけですぐに出てくるの!キリと侍女さん達が嬉々として準備してくれるのよ!恐ろしい。庶民生活に戻れなくなったらどうしよう。


「もう起きたい。まだ王都の観光もしてないのに」


 ジンさんの手をグーパーさせて遊びながらワガママを言ってみる。ジンさんが眉をへにょりと下げた。


「まだサンド老の許しが出ない。サンド老の許しが出たら侍女達の、侍女達の許しが出たら侍女長の、侍女長の許しが出たら王妃の、王妃の許しが出て、最終的にキリさんの許しが出たら起きていいことになっている」


 序列がおかしくない?サンドお爺ちゃんは主治医だよね。主治医の許可が出てるのに、何故そんなに延々と高い壁があるの?でも最後がキリなのは納得。心配性さんだからな。


 王様やリュート殿下、アラン殿下、ジンさんはまだ微熱のある時におねだりしたら許可してくれた。チョロ過ぎて王妃様に揃って怒られてた。なんかゴメン。




 熱も引いて身体も起こせるようになった時、ジンさんがゆっくりわたしに話してくれた。


 わたしが作った再生魔法は、絶対に悪い魔法ではないと。事故や病気で脚や腕を失った人にとっては、希望をもたらす魔法だって。

 騎士や兵士の中には、脚や腕を失って泣く泣く軍を去った者もいる。己の仕事を、剣を、誰かを守る事に誇りを持つ者にとって、もう一度剣を持って戦えることは、幸せなのだと。


 もちろん、脚や腕を失って、二度と軍に戻りたくない者もいるだろう。魔物と戦う恐怖が身体に染み付いてしまえば、剣を捨てる選択をするのも仕方ない。でもそういう者たちにとっても、後の人生を考えたら、やはり脚や腕が元通りになることは喜ばしい事だろう。

 

 軍を率いて戦うということは、己の命をかける事だが、同時に部下の命を預かる事だと思っている。魔物と恐怖で戦えないものを無理に戦場に送り出すことは、大事な部下の命を危険に晒すことだ。根気よく部下と話し、どうしても無理ならば、引かせるのも指揮官の役目であって、無理に戦場に戻した兵士を死なせたのは指揮官の落ち度だ。断じて再生魔法のせいではないと。


 ジンさんはわたしに分かる様に、一生懸命に話してくれた。話が前後したり、同じ話を繰り返したりしたけど、自分の言葉で何度も話してくれた。


 うん、ありがとうジンさん。


 正直、罪悪感がなくなることは無いと思う。

 再生魔法がなければ、死なずに済んだ兵士がいたことは事実だから。これからもあの国では、わたしが作った魔法のせいで死んでいく兵士がいるであろうことも。


 でも、それだけじゃないんだよね。

 再生魔法のお陰で、幸せになる人もいる。これから、幸せになれる人もいる。それもまた事実なのだと。


 良かったと思う。

 わたしが作った魔法が不幸をもたらすだけじゃなくて、幸せも作ることが出来ると知って。

 あのまま、グラス森にいたら、きっと気付けなかった。


 そう言ったら、ジンさんは頭を撫でてくれた。

 辛くなったらちゃんと言え。俺ならいつでも聞くから、俺が嫌なら他の誰かでもいいから、1人で抱え込んで泣かないでくれって。

 こういう所は頼れるお兄さんなのに、時々残念なのは何故だろう。勿体ない。


 再生魔法はサンドおじいちゃんとイーサン君を中心に研究が進められている。怪我が元で退役した軍人の中で、希望者を募り臨床を繰り返すのだとか。

 わたしは何にも考えず、リュート殿下に使ったけど、考えたら王族にいきなり試すのはダメよね。考えが足りなかったと青くなってたら、リュート殿下に「もし事前に説明があれば、誰よりも率先して俺が臨床に名乗りをあげる。それが民を守る王族の役目だ」と言われた。カッコイイ。


 あと、もう1人再生魔法を試したい子がいるんだって。隣の国の王太子様と聞いて驚いたけど、マリタ王国とは大の仲良しの国なので心配ないし、万が一、ダイド王国がわたしを探していたとしたら、身元を隠すのに複数の国が関わっている方がいいらしい。お手間かけます。


 隣国ナリス王国の王太子カナン殿下はまだ8歳で、左足首から先が動かないらしい。杖をついて懸命に歩く練習をしてるんだって。女の子みたいに可愛い顔してるのに利発で負けず嫌いなんだとか。とても良い子らしいから、会うのが楽しみだ。


 カナン殿下を連れて、サイード殿下達が帰国するまでに、サンドおじいちゃんを始めとする過保護軍団ボスはキリを納得させ、早く床上げするぞー!と、わたしは気合いを入れた。




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