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間話 アラン殿下視点

「さて、どうするかね」


 眠るシーナ殿を連れてキリ殿が退室した後、王様(親父)がイイ笑顔でそう切り出した。相当怒ってるな、ありゃ。


「潰す」


 短くそう言ったのはジンクレットだ。おい、目が据わってるぞ。シーナ殿が関わると本当に我を忘れるな、このバカ弟は。


「よし、殺ろう」


 もう一人のバカ弟のリュートが、朗らかに同調する。腕が治ったばかりで無理するな。気持ちは分かるがお前も落ち着け。


「ふふふふふ」


 扇子で口元を隠し、王妃(おふくろ)が笑っている。ウチで一番怒らせてはいけない人が、ガチギレている。


 私も同じくキレてはいるが、1人ぐらいは冷静な者も居なくてはならんだろう。怒りに任せていたら、潰し漏れが出る可能性もある。


 マリタ王国(ウチの一家)が、ガチギレしているのは、彼のダイド王国に対してだ。シーナ殿に対する仕打ちもさることながら、再生魔法の隠匿という、王国共通法にも反し、協力体制をとる我が国に対しても不義理をはたらいている。


 うちのリュートが魔物討伐で腕を無くしたのは3年前。キリ殿に確認したが、その頃にはシーナ殿の開発した再生魔法の存在は、ダイド王国内では広く知られていたはずだと。

 マリタ王国はリュートのことがあってすぐ、他の国に対して失くした腕の再建法がないか問い合わせている。それこそ、どれほど遠方の小国であろうと、あらゆる国へ確認した。もちろんダイド王国にも治療法がないか問い合わせた。答えは否だった。


 再生魔法は、ウチの騎士団付き魔術師イーサンが、シーナ殿の指導があったとはいえ一度で再生を成功させているところから見て、魔力量は使うもののそれほど難しいものでも無さそうだ。イーサンとサンド老曰く、考え方や意識の転換で行使できるというもので、ある程度の腕のある魔術師ならば習得可能であると。

 グラス森討伐隊の中でも、緊急時やシーナ殿が他の治療に当たっている時は、シーナ殿から再生を学んだ別の魔術師たちが、再生を施していたという。

 

 王国共通法では、新しい治療法など、人道的に広く世界に知らしめた方が良いと判断される魔法や回復薬が開発された場合、開発国には開示の義務が課せられている。

 恩恵を受ける他の国は、この魔法や回復薬にかかった費用を補填したり、使用に関して使用料を開発者に支払うなど、各国で協議して決定する。

 失われた腕や脚の再建法など、まさに開示対象の魔法にあたるが、ダイド王国は何を思って秘匿しているのか。選民思想が強く、閉鎖的な国であるから、優れた技術は己の国だけが恩恵を受けるのに相応しいなどと思っていそうだ。


「我が国は、あの少女に、数え切れぬほどの恩がある」


 国王(親父)の言葉に、皆が頷く。


「俺は腕を治してもらった。腕だけじゃない。大事な側近の心も救ってもらえた。弟との仲まで取り持ってもらった」


 リュートが右腕を撫でながら言う。


「私も命を救われました。カイラット街もあの子とキリ殿に救って貰った。そしてあの魔物避けの香で、これからどれほどの命が助かるでしょう」


 助けてもらったお礼をしたいのだが、もう他の人からも沢山もらったから、いらないと言われてしまった。あの少女に涙目で、これ以上貰うのが怖いと言われたら、引かざるをえない。


「わたくしは息子を2人も救ってもらったのよ。あの謙虚で可愛い子を傷つけた輩を、簡単に赦せそうにないわね」


 王妃(おふくろ)が、背筋の凍りそうな冷たい声で呟く。


「俺はシーナちゃんに出会ってからずっと、助けられっぱなしだ。あの子がいないと、生きて行けない」


 ジンクレットがしみじみ呟く。いや、お前はあの子に依存し過ぎだ、どうにかしろ。囲い過ぎて嫌われるぞ。

 その気持ちは全員同じだったようで、家族揃って引きつった顔になる。


 微妙な空気を変えるように、国王(親父)がゴホンと、咳払いをした。


「最優先にすべきはシーナちゃんの身の安全。その為ならば、我が国は盾にも剣にもなろう。良いな?」


 王の言葉に、一同、力強く頷く。


「さて、今ちょうど、ナリス国にサイードが行っておる」


 国王(親父)が急に、別の話題を出した。

 王太子のサイード兄貴と、王太子妃ルーナは、王の代理でナリス王国の建国の祝いに出席している。隣国のナリス王国は、長年マリタ王国と良好な関係を築き、王族同士も仲がいい。国王同士もツーカーで、2人が話していると、国の代表者による会談というよりは、幼馴染同士の悪巧みに見える。


「先程、サイードとナリス王国に伝令魔法を送った。ナリス国のカナン殿下が、我が国で暫く滞在したいと申し出があったため、サイードたちが帰国する際は、共にお越しになるだろう。サイードにはカナン殿下が気持ちよくお過ごし出来るよう、ナリス国王とよく相談するよう伝えている」


 カナン王太子殿下。ナリス国王の一粒種の、まだ御歳8歳の利発な少年だ。ウチのサイード兄貴の息子、シリウスとも仲が良く、今回の訪問にもシリウスは同行しているので、また2人で子犬が転がるように遊びまわっていることだろう。

 そこで気づいた。そう、カナンだ。3歳の時、落馬事故で左足首から先を無くしてしまった。あんな小さな子が、杖をつき、動かぬ足を引きずって懸命に歩いている。あの子の未来も、救える!


 俺は思わず国王(親父)を見つめた。


「我が国だけでも充分だと思うが、シーナちゃんの護りは厚い方がいい。ナリスには奴らの目眩しになってくれぬか打診をしている。我が国だけが再生魔法の開発者の後ろ盾になるのではなく、ナリスにも担って貰おう」


 我が国が再生魔法を公表すれば、シーナ殿が我が国にいることがバレる可能性が高い。出来れば、シーナ殿の立場が確固たるものになるまで、安全の為にも彼女の居場所は出来うる限り秘匿しておきたい。キリ殿が以前に話していた予想が当たっていれば、グラス森討伐隊はシーナ殿が抜けて以来、圧倒的な戦力不足に陥っているだろう。厚顔無恥なあの国のことだ。彼女を何らかの口実を付けて取り戻そうとするに違いない。今も、躍起になって探していることだろう。


「魔物避けの香も同じだ。ザインを通じ、既にナリス王国に販売ルートを作った。ふっふっふっ、ザインのやつ、忙しすぎて窶れておったぞ」


 ザイン商会は今、てんてこ舞いになっていることだろう。魔物避けの香の販売は、マリタ王国内だけでも大変だろうに、ナリスにまでとは。いや、案外、大儲けで笑いが止まらんかもしれんな、あのタヌキ爺だったら。


 国王(親父)は笑みを引っ込めると、じっとジンクレットを見た。


「ジンクレット。お前はあの子をどうしたい?」


 空気が切り替わる様に、国王(親父)は施政者の目をしていた。息子を見ているとは思えぬ冷徹な目に、ジンクレットの背筋が自然と伸びる。


「あの子は多くの才能を持ち、その価値は計り知れぬ。ダイド王国のように、あの子を利用し搾取しようとする輩は、今後増えるであろう」


 国王(親父)は椅子にもたれ、溜息をついた。


「あれを見てどう思った、ジンクレット。本来ならば誰もが讃える偉業を、罪と思い込まされていた、あの子を。偉業は功も罪も併せ持つ。使い方を誤れば、害にもなろう。だがな、幼き子どもにその罪を背負わせるようなやり方は、私は許せん。我が国の大恩人であるあの子を利用し、あそこまで歪め苦しめた彼奴等を許すことができん」


 いつもの温厚さは形を潜め、苛烈で獰猛なマリタ王の顔が現れる。


「ジンクレット。お前はあの子を守れるか。幼き頃から痛めつけられ、傷つけられ、身も心もすり減ったあの子を、守り、癒し、慈しみ、愛し抜くことが出来るか。それが出来ぬなら、あの子の傍に居ることは許さぬ。潔く身を引け。それが出来る男を、あの子にはわたしが責任をもって添わせる」


 国王(親父)の言葉に、ジンクレットは動揺した。国王(親父)の顔から、本気と分かったんだろう。

 しかし揺らいだのは一瞬だった。ジンクレットは獰猛な笑みを浮かべ、国王(親父)を睨みつける。


「誰が他の男になど渡すか。シーナちゃんは俺が幸せにするんだ」


「腑抜けてあの子に叱られてばかりだというのに、よく言うわ。わたしはあの子の幸せのためなら、お前が泣いたところで容赦はしないわよ」


 王妃(おふくろ)にまで冷たく言われ、ジンクレットはギリリと歯を噛み締める。まあ、気持ちは分からんでもないが、あれだけヘタレを露呈していれば仕方ない。リュートとの仲直りすら、シーナちゃんに背中を押されていたからな。


「父親として、お前と添わせてやりたい気持ちはあるがな。国王として、我が国の恩人の夫として、今のお前に及第点はやれぬ。励めよ、ジンクレット」


 厳しい王と王妃(親父とおふくろ)に睨まれ、ジンクレットはそれでも視線は落とさず睨み返している。


 ふむ。甘ったれの末っ子も、少しは大人の自覚を持ったか。


 可愛い弟の成長を喜びながらも、これから忙しくなるなと気を引き締める。


 さっさとジンクレットがシーナちゃんを射止めることが出来れば、マリタ王国の王子妃として彼女の身分も立場も確立し、安全性は高まるのだが。あのヘタレな弟がシーナちゃんの王族不信を治し、あの子の支えになる事は出来るのか、前途多難だ。

 

 近い将来、(親父)が用意した完璧な男に彼女を掻っ攫われたジンクレットが、荒れに荒れ狂いマリタ王国が内部分裂などとならないよう、俺は神に祈った。





 




 


 

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