3 備えは万全に
「そーだ。キリ、寝る前にキリの剣の強化と防具を作っちゃおうか」
「強化ですか?」
キリが戸惑ったように聞き返す。
「うん、キリは火魔法が得意だよね。それと、防御と身体強化の補助がしたいんだよね」
さて取り出しましたのは、グラスの森で拾ったミスリル鉱石。鑑定魔法では純度高めの良品質です。森の奥にはこんなにいいものがあるんですね。加工がしやすいので結構人気のある鉱石ですよ。拾えるだけ拾っちゃいました。軽トラック一杯分ぐらい?まだまだ落ちてたからイイよね。
「これを熱でぐーんと伸ばして、表面に火魔法の魔術式を刻みます。そして昼間倒した魔物の魔石を埋め込んで、ぐるーんとして、はい、出来たー」
「み、ミスリルをこんな簡単に加工を?こ、これは何ですか?」
私の手の上にある魔石付きのバングルを見て、キリは目を丸くする。目の前で石の塊と魔石がバングルになったらビックリするよね。しかも表面に魔術式を組み込んでいるので、装飾品としても一流よ(当社比)。太めのバングルは、キリの褐色の肌に映えるわー。
キリの腕にバングルをあてると、シュルルっと縮まり、自動的にサイズ調整する。これも魔術式に組んでみた。キリはもう言葉もなく見守るばかり。
「キリ、魔力をここに込めてみて」
わたしの言葉に、キリは慌てて魔力を漲らせる。バングルの表面に刻まれた魔術式が光りながら浮かび上がり、キリの魔力を馴染ませる。
見た目ファンタジー!めっちゃファンタジー!
やがてバングルに埋め込まれてる魔石が、キリの魔力に満たされて、美しい赤を纏う。ヤバイ、想像以上にキリに似合ってるー!
「これは、魔力が…上がってる?」
「うん、魔力ブーストと身体能力ブーストと防御力もね。もう一個はこれかなぁ」
わたしはもう一つミスリルと魔石を加工し、今度はアンクレットを作った。一見するとアクセサリーにしか見えないよね。これもキリの足に当て、自動でサイズ調整する。
「今みたいに魔力を流すと起動するから。普段は一個だけ使って、ヤバイ時は二個使いね。明日から魔物狩りで練習しようね。はい次は剣出して」
慌ててキリが腰の剣を差し出す。兵士支給品用の安い剣。几帳面なキリらしく、丁寧に手入れがされているが、やっぱり強度が無いなぁ。
わたしはミスリルを出して加工を始める。魔石はバングルとアンクレットに使ったものよりは大きめ。ミスリルで刀身を覆い、慎重にバランスを取る。時々キリに試しで振ってもらい、キリの手に馴染む重さとバランスに調整した。納得のいく調整ができたら、柄の根本に魔石を埋め込んでもう一度キリに振ってもらい、再度重さとバランスを調整。最後に刀身に魔術式を刻んで、はい出来上がり。
今度は何も言わないうちに、キリは魔力を剣に込めた。剣がキリの魔力に染まり、魔術式が輝く。魔石が淡い赤に染まると、はい完成。キリ専用の魔石剣。
「刀身が、火魔法を纏っている?!」
ほのおの剣だよ。ファンタジーだね。
「し、し、シーナ様?これは、国宝級の御宝では?」
動揺して震えるキリの声。わたしは即座に否定する。
「いやいや、ただの落ちてたミスリル鉱石と魔石、支給品の剣だよ。見てたでしょ。ちょっと加工しただけだよ」
「あんな術式、見たことありません!!」
わたしも無いよ。今作ったからな。
だって鑑定魔法が言うんだよ。魔石とミスリル鉱石を掛け合わせるとこんなのできるよって。いやこれ、鑑定魔法なのか?
自動調整とかはわたしオリジナルだ。こんなんあったらいいなぁと思ってたら、出来るよ!って鑑定魔法が嬉しそうに術式を…。
めっちゃフレンドリーな鑑定魔法だな。いや、鑑定魔法がフレンドリーってなんだ?
「このような貴重な御宝を、私のような孤児の混血なんかが使っては申し訳ないです」
「はいダメー。キリの魔力で染めちゃったもんね。返品不可です。あと孤児の混血なんかって二度と言わないで。わたしの大事なキリを貶すのは、例えキリ自身でも許さんよ」
わたしの怒りを感じ取り、キリはグッと口をつぐむ。いや。そこは嬉しそうに笑うとかじゃないのよキリさんや。クールビューティーが台無しでしょう。わたし怒ってますからね。全くもー。
「しかし、私だけこのような宝身に付けるのは申し訳なくて」
「じゃあわたしのも作ろう。お揃いならいいでしょ?」
そう言ってわたしは自分用のバングルとアンクレットを作った。込めるのは聖魔力。なんだかんだで一番馴染みがある属性なんだわ。
そして剣は護身用の短剣。わたしは剣より魔法でスパーンが性に合ってるから、あくまで護身用ね。野菜の皮むきにも使ってるけどイイよね?そう言ったら、キリに残念なものを見る目で見られたよ。何故?切れ味は上がったよ?硬い木の実もスパーンだよ?!
「あとは、あー。あれ作ろう」
わたしはミスリルと小さな魔石を幾つか取り出した。魔石は色とりどりに輝いていて綺麗だが、形が不揃いだ。魔物の体内で出来る魔力結晶なので当たり前だが。
魔石に魔力を注ぎながら、風魔法で少しずつ削る。形を整え、日本でよく見たブリリアントカットに仕上げていく。あんなに綺麗には出来ないけどね。ブリリアントカットもどきだな。
それを細い曲線状に加工したミスリルに埋め込んでいく。ミスリルは予め必要な魔術式を刻み込んでいる。フックみたいな形のそれに、色とりどりの加工を施した魔石が散りばめられる。
「シーナ様、これは?」
キリの目がキラキラしてる。うん。ヤッパリ女の子は装飾品が好きよね。
わたしはキリの耳にそれを引っ掛けた。装飾を施した部分が煌めき、キリの肌を彩る。
「うん!似合うよ、キリ」
美人を着飾るのは楽しいな。わたしも平凡顔じゃなかったらもっと楽しいんだろうな…。
気持ちが落ちかけたが、気を取り直してもう一つ作ったイヤーカフを自分の耳に取り付けた。
「さて、上手くいきますかね?」
わたしは立ち上がり、キリからすこし離れた場所に立つ。ついてこようとするキリを制し、イヤーカフを起動させた。
「キリ、聞こえる?」
小さな声で話しかけると、離れた場所のキリが飛び上がった。キョロキョロ辺りを見回し、わたしと目が合うと、自分の耳とわたしを交互に指差してオロオロしてる。
「キリ落ち着いて。今、わたしの声が聞こえてる?」
キリがこちらにも分かるようにぶんぶんと首を縦に振っている。
「今、キリの耳に付けてるイヤーカフに声を送っているの。キリも何か喋ってみて?」
「し、し、し、し、」
ん?音声聞きづらいのかな?
「シーナ様ぁっ!」
「っ!!」
キリの声が大音量で聴こえて、耳がキーンとなった。おぅぅ。耳痛ぁ。
何やら興奮して泣き始めたキリに、わたしは諦めてイヤーカフの接続を切った。キリの元に戻ると、キリはイヤーカフを捧げ持ってわたしの前で平伏している。
「き、キリ?どうしたの?」
「お、恐れ多くもシーナ様は、神具をお作りになられました。まさかシーナ様が女神様とも知らず、大変ご無礼を」
「いや、待ってキリ?なんでそうなった?」
わたし、イヤーカフ型の通信機を作っただけだよね?ほら、よくTVの刑事物とか海外ドラマとかで耳元押さえて相手に連絡取るの、カッコいいなーって、軽い気持ちで作ったんだけど。この世界、手紙を魔法で相手に飛ばす通信方法はあるんだけど、声を飛ばすのは無いからさ。
メールとかより電話の方が早いって時、あるよね。
「しかしお声が。シーナ様のお声が耳元に。神話では女神様のお告げもある日耳元で聞こえると!」
「違うから。ただの通信機だから。連絡手段の一種だからね?キリの声もわたしの耳元で聞こえたよ。キリも女神様じゃないでしょ?」
一生懸命説明して、なんとかキリは理解してくれた。そしてその有用性にも気付いてくれた。そう、魔物との戦いの時、離れていても連携が取りやすいのでーす。これも、明日から実戦で練習します。
ちなみに作りは魔石の一つにマイク、スピーカー、伝達の機能を込めてます。これも術式は鑑定魔法さんが。この機能も入れたらってアドバイスまでくれたよ。携帯ショップの店員さんみたいだったよ。
さて、明日からの魔物狩りが楽しみだわ。
そろそろ寝ましょう。お休みなさい。





