表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/144

21 BBQ慰労会

「それではカイラット領の健やかな発展と今後のご多幸を願って、乾杯!」


 BBQ慰労会の開会挨拶をアラン殿下とジンさんを差し置いて任されました。実に日本的な儀礼的な挨拶をしてやりましたよ。カイラット卿は感動して泣いてたけど。どこに泣く要素があるのでしょう。


 BBQ台の上で赤炎牛(レッドカウ)がジュウジュウと焼けています。ニンニク風の薬草と脂の焼ける暴力的に食欲を増進させる香りがたまらないー。これだけでご飯が進みそう。


 そういえばお米!!あったよ!!鑑定魔法さんが『こっちに行くといいものあるよ』っていうから、カイラットの街を散策してたら!普通の空き地に無造作に、水田じゃなくて土の地面から稲穂が垂れてたよ。初めて見た時、思わず膝から崩れ落ちたよ。平伏したよ!

 みんなから邪魔者扱いされてる、繁殖力の強い雑草『ザロス』の種子が、まんま精米したお米だった。精米済みだよ?


「あーザロスですか。抜いても抜いても3日もすると生えてくるんですよね。種子は白くて食べられないことはないけど、焼いてもバリバリ固いし、煮込むとドロドロして美味しくないですよ?よっぽどの飢饉の時じゃないと、誰も口にはしませんねぇ。シーナ様、種子を落とさないように気をつけてくださいよ?すぐに生えて来ちゃいますから」


 ザロス(お米)を収納魔法に詰め込んでいそいそ帰宅したわたしに、さも嫌そうにバリーさんが言ったのがこれ。不敬な!!お米様になんと不敬な!お米様のご威光を知らないとは…。無知とは恐ろしいものよ。


 腹を立てたわたしは、ザロスを洗って吸水させ、土鍋に入れて炊き始めた。前世は一人暮らしだったから、炊飯器は持ってなくて土鍋でご飯炊いてたんだよね。その時の経験が活きた!よかった!


 なぜかわたしの弟子を名乗り始めたカイラット家の料理長さんでさえ、わたしの持ち込んだザロス(お米)を見て嫌な顔をしたが、わたしの好きにさせてくれた。美味しい実績を貯めたお陰だろう。


 しばらくするとお米の炊けるいい香りが…。ウハハハ!お米お米!

 適宜蒸らして蓋を開けると。眩いばかりの白い宝石が!!前世を自覚してから、何カ月振りかのお米様!!ありがとうございます!


 ザロス(お米)を深めの皿に盛り、ご飯のお供を誰にしようか悩む。記念すべきこの人生初のお米。お供も慎重に選ばねば。しかしこの世界にお供の代表選手である、梅干しや海苔、納豆、フリカケはない。

 考え抜いて、以前に大量に作った角煮をチョイス。お供じゃないな、メインのオカズだな、これ。


 わたしにしては山盛りのご飯、角煮を準備していざ実食スタート!

 まずはお米のみ。口に入れた瞬間、お米の香りと仄かな甘みがもうっ!日本人に生まれてよかった!うまーい!久しぶりのお米、涙が出るよー。

 わたしがザロスを食べる様子を見て、料理長始め料理人さんたちがざわつく。幸せ一杯の顔をしている自覚はある。

 わたしは気にせずにお米を味わい、そして、贅沢!角煮丼を作った。

 この世界のマナー的に丼が受け入れられるのか知らないが、わたしは丼は譲れない。

 口に入れた途端、お米と角煮のハーモニー!やっぱりパンじゃダメなんだよ、角煮にはお米じゃなきゃ!

 お米を堪能するわたしの横で、キリが緊張した面持ちで角煮丼を見ている。この中で唯1人、味見を名乗り出た勇者である。

 わたしに絶対の信頼をおくキリでさえ、ザロス(お米)を食べるのは躊躇するみたい。不味いっていう前評判が刷り込まれているからねぇ。一応、無理しないでいいからね?とは伝えている。


 キリが意を決したように一口。パクリとザロス(お米)を口に入れる。

 あれ?みたいな顔をして咀嚼している。まあ、ザロス(お米)のみだから、淡白な味わいだよね。でも不味くはないみたい。もぐもぐ食べ続けている。

 そして角煮と一緒に食べた瞬間。キリの顔がとろけた。

 角煮:ザロス(お米)=1:2ぐらいの比率でバクバク食べている。キリの中の黄金比を見つけたのだろうか。

 そして味見用の皿なので小さかったせいか、空になったお皿を見て、一瞬悲しそうな顔をして、チラリとこちらを見た。


「キリ、おかわりする?角煮だけ食べる?」


「ザロス(お米)も一緒に!!」


 ぱぁぁっと顔を輝かせ、キリがお皿を差し出してくる。しかし皿が小さいことに気がついたのか、ダッと食器棚に走り別の皿を持って来た。キリさんや、それはパーティ用の大皿じゃないかな?そんな大きな角煮丼は作れませんよ?


「し、シーナ殿!私も味見を!」


 料理長さんもお皿を持って並んでいます。構わないけどさぁ…。

 料理長の後ろに料理人たちが全員並んでいるのを見て、ちょっと悲しくなった。わたしのお米がぁあ。


「こ、これがザロス(お米)?!この甘いタレにあう!」


「ザロス(お米)だけでも美味い!ほのかな甘みが優しい…」


「栄養価は高いのにあまりの不味さに使い道がなかったザロス(お米)が、こんなに美味くなるなんて…」


「醤油に合うなぁ」


 料理人さんたちがはしゃぐ中、料理長さんがザロス(お米)のみを口に入れ、もぐもぐとゆっくり咀嚼している。静かに目を閉じじっくりと味わっているようだ。


「ほのかな甘味と柔らかな食感。味わいは単調ですが、飽きが来ない。この控えめな旨味が他の料理を引き立たせる…」


 食レポですか?なんかの評論家みたいだね。


「シーナ様、ザロス(お米)を土鍋で煮ていらしたようですが、なぜ溶けていないんでしょうか?」


「確かにザロス(お米)は水が多いと溶けますけど、適量の水と火加減でこうなるんです。溶けたザロス(お米)は病み上がりの体に優しいし、味付け次第ではとっても美味しくなりますよ」


 お粥もいろんな種類があるし、雑炊も好きなんだよね、わたし。パン粥も嫌いじゃないけど、日本人なら寝込んだらお粥、雑炊、おうどんで治すもんね。


「シーナ様、もう一度ザロス(お米)の煮方を教えてください」


「いいですけど、お米は煮るんじゃなくて炊くって言ってください」


 ここは譲れないよ、うん。ザロス(お米)に関しては譲れないことばっかりだな。


 そこからはザロス(お米)の炊き方講習会になった。さすが料理長さん、早々にザロス(お米)の炊き方をマスターしたよ。プロだなぁ。


 そして料理長さんは、角煮丼を持ってアラン殿下たちのもとに報告に走り、無事BBQ慰労会にザロス(お米)を出す許可をもぎ取ってきた。早いなー。


 ちなみにバリーさんには、ザロス(お米)様を馬鹿にした罰として、角煮丼の味見は醤油皿みたいな小皿にしてやった。泣いてたけど知らん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/7 コミック発売! 追放聖女の勝ち上がりライフ②

html>

★書籍版公式ページはこちら!!★
書籍、電子書籍共に8月10日発売!
★ヤングキングラムダにてコミカライズ好評連鎖中★

追放聖女の勝ち上がりライフ2


ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
さすがに精米済みはないわ~。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ