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19 民族性について

「まず今後起こりうることを整理しよう」


 アラン殿下が立ち上がり、ジンさんの左腕をとった。バングルがジンさんの魔力をはらみ、キラリと輝く。


「このバングルやキリさんの剣の噂は瞬く間に広がるだろう。いくら緘口令を敷いたところで抑えられん。あれだけの圧倒的な強さだったからな」


「キリがかっっっっっっこよかったもんね!噂になるよね」


 キリに向かって力説すれば、はにかんだ笑顔。可愛い。カッコ可愛い。うちの子ヤバイ。


「シーナちゃん!俺は?俺もかっこよかった?」


 ジンさん?戦ってたっけ?えーっと?…見てないかも。


「あ、えっと、み、見てなかったなぁなんて…」


 ガックリと肩を落とすジンさん。なんかすみません。

 わたしは見てなくても、きっと誰かは見てくれているよ!ガッカリしなくても大丈夫だよ!ジンさん!


「いいんだ、シーナちゃん…。次は見てもらえるように頑張るよ」


 力なく微笑むジンさん。バリーさん曰く、ジンさんも大活躍だったらしい。氷蜥蜴(アイスリザード)にはてこずってたけど、A級B級の魔物をバッタバッタと倒し、兵士たちの指揮も見事でそれは格好良かったそうな。ムキムキ兵士たちも惚れ惚れするイイ男だったそうですよ。でもそういう情報はいいです。暑苦しいから。


「話を戻してもいいかな?ジンクレット、落ち込むのは後にしなさい」


 話が逸れて困った顔のアラン殿下。ジンさんより真面目な性格みたいだなぁ。


「シーナ殿がこの魔道具の制作者だということはすぐに知れ渡るだろう。それでなくても、君はその聖魔力と攻撃魔法で目立っていたからね。我々では歯も立たなかったS級とA級の魔物を一発で倒したしね。あれは驚いた…。我々の苦労は一体何だったのか…」


 ちょっと遠い目のアラン殿下。赤炎牛(レッドカウ)氷蜥蜴(アイスリザード)、どっちも美味しいご飯にしか見えませんでした、すみません。


「まぁ、それは置いといて。あの魔道具が君の作だと知れるとね、やっぱり色々まずいと思うのだよ。マリタ王国(うち)もそうだけど、他国の王族や貴族がこぞって欲しがる技術だし、独占するためには君を手中に収めることを考えるだろう。中には強引な方法に出てくる輩もいるかもしれない」


 魔物避けの香だけでも画期的なのに、神話レベルの魔道具をホイホイ作る、前の国で事件を起こして追放された元聖女。火種しかない。


「シーナ殿。マリタ王国としては、君を我が国の庇護下におきたい。この技術が他国に渡ること、我が国に留まったとしても、一貴族が負うには軍事バランス的に好ましくない。出来れば王家で囲わせてほしい」


 真正面からアラン殿下はわたしに申し入れてくれた。嘘もごまかしも無い、マリタ王国としては率直な想いなのだろう。


「更に言えば王族の誰かと婚姻して欲しい。その方が確実に守れる。ウチの嫁に何か文句あるかと言えるからね。どうだろうか、前向きに考えてくれないだろうか。ウチはイケメン揃いだし、性格も悪い奴はいない。少し歳は下になるが、王太子殿下の長子はどうだろうか?君と釣り合う年頃で、まだ婚約者も決まっていないし…」


「ちょっと待て!サイード兄貴(王太子)の長子ってシリウスのことだよな?アイツはまだ12歳だぞ?シーナちゃんより3歳も下だぞ!」


「歳下だがしっかりしている。シーナ殿とはお似合いだと思うけどなぁ」


「反対だ!シーナちゃんには年上の男の方がいい!」


「…(お前は)年上過ぎるだろうが!」


「たった7歳差だ!貴族の結婚ではよくあるだろ!」


「シーナ殿がオッサンは嫌いかもしれんだろうが!」


「シーナちゃんに聞いてみよう!シーナちゃん!結婚するなら頼れる年上だよね?」


「シーナ殿。正直に言って良いんだ。7歳も上のおっさんより2歳下のピチピチイケメンがいいよね?」


「すいません、すいません!話が一気に飛躍しすぎてついて行けません!ちょっと止まって、落ち着いて!」


 どうして魔道具の話から結婚話に飛んだの?しかも王太子の長男か年上の誰かさんかどちらか二択?年齢より、中身とか相性が大事だと思うけど。それよりわたし、王族と結婚はヤダってば。


「すいません、お気持ちは嬉しいですが、まだ結婚とかは考えられないです。それに王族の方となんて、身分違いですし」


 前の婚約破棄から一季節ぐらい?早過ぎるでしょう。

 それに、あの搾取生活に戻るぐらいなら、このまま出奔した方がいい。


 ジンさんが焦ったような顔をしている。そういえば、ジンさんには、わたしの考えていることが筒抜けなんだっけ。お世話にはなったけど、だからって絆されたりはしないから…。って、目が潤んで泣きそうになってるけど!なんで?


 アラン殿下が心底呆れた様子でジンさんをみていたが、ため息をついてわたしに話しかける。


「シーナ殿はマリタ王国の民族性について聞いたことはないかな?」


「民族性?」


 グラス森討伐隊にあった本の中に、各国の国風について書かれたものがあった。例えばダイド王国は保守的で同族の連帯感が強い。歴史が長く伝統を重んじ変化を好まない国だ。そしてマリタ王国は…。


「元々は騎馬民族が興した国。革新的で多様性に富む。武を尊び義に篤い」


「王国の歴史は浅いがね。元々は仲間意識が強い騎馬民族だ。寄る辺のない人々が集まり、皆で協力し合い、土地を耕し国を興した。だから我が国の人間は、人との出会いを大事にし、受けた恩は決して忘れない。一度仲間になれば、決して裏切らない」


 アラン殿下はわたしの前に膝をつき、わたしの手を取った。


「シーナ殿。貴女はわたしの命だけでなく、我が兵士たちを、国の宝である国民を守ってくれた。そんな貴女を裏切るような真似を、我々がするはずがない。マリタ王国の名にかけて、我が国の誇りにかけて、貴女を守り抜くと誓おう」


 ジンさんと同じ、夏の空みたいな瞳がわたしを真っ直ぐ見ている。

 信じたいという気持ちと、簡単に心を許すなという気持ちがせめぎあって、わたしの中で渦巻いている。

 こんな風に言ってくれた人はキリを除いていなかった。こんな風に言ってくれる人を、単純に信じられなくなってしまったことが悲しかった。わたしはあの5年間で、色々なものを擦り減らしてしまったのだろう。


 重苦しく押し黙るわたしを、アラン殿下は優しい目で見つめてくれる。苦しくて涙が溢れてきた。


「ごめ…なさいっ」


「君が謝ることはない」


 アラン殿下の優しい声。わたしの中の醜い感情にも気付いているみたいなのに、優しい人だなぁ。


「シーナちゃん。俺たちを信じなくてもいいから。利用するだけでもいいから。俺たちは絶対シーナちゃんを裏切らない!俺はシーナちゃんが側に居てくれたら、それだけで幸せなんだ」


 ちょっと発言が気持ち悪いけど、ジンさんもわたしを心配してくれてる?んだよね。発言が気持ち悪いけど。


 わたしに縋り付いて泣きそうに言うジンさんにドン引きしながら、わたしは笑みを浮かべた。

 

 うん、信用したいな。マリタ王国の人たちを。すぐには無理でも、いつかね。




 とりあえず、今回のことは王様に報告しないといけないらしいです。その流れでマリタ国王との謁見が確定しました。

 マリタ王国の王様はアラン殿下とジンさんのお父さん。気さくな人だから構える必要はないとアラン殿下もジンさんも言うけど、一国の王様に会うのに構えない人がいるでしょうか。外堀をガンガン埋められている感が半端ないけど、拒否権はないみたい。


 本気で逃げ出すことを考えたけど、察知したジンさんに捕獲されたよ。逃げないから放せや。




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― 新着の感想 ―
いちいちジンがウザい。独占欲のかたまり。王子はみな同類か。
[一言] 「シーナ殿がこの魔道具の制作者だということはすぐに知れ渡るだろう」 魔法を使用しているところは、皆が見ているから、どういった魔法を使えるのかは、周りに判明してしまうでしょう。しかし、特殊な…
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