13 通信具と薬草ミックス
もしもの有事に備えて(主にわたしが拐われた時とか騙された時とかね)、イヤーカフは全員分作ることにした。報連相は大事だもんね。便利な伝令魔法は紙とペンがないと送れないし、魔法自体を封じる魔道具があるそうで、こなれた犯罪者は皆さん持っているらしい。
「ワシは、そんなチャラチャラしたものは付けん」
意外にもおじいちゃんが嫌がった。いつもニコニコなのに、ちょっと頑固な顔。
理由を聞き出した所、ザイン商会はおじいちゃんが一代で今の大きさまで作り上げた商会で、若い頃は同業者から成金扱いされて、不快な思いをしたんだって。成金は装身具をチャラチャラ着けていると言われて以来、余計なものは持たないようにしていたため、通信具とはいえ装身具を付けるのは抵抗があると。うむ、根深そう。
じゃあチャラチャラしてないのならいいかなー。おじいちゃんが受け入れてくれそうなデザインは無いかと探ると、目についたのはオシャンティーなザイン商会の商会紋。これは亡くなったおじいちゃんの奥様が考えたもので「誠実」を表すイオットの花を象った素敵なもの。前世のスミレに似てるなー。
その商会紋をイヤーカフのデザインに加え、男性用なのでシンプルかつ少し太めに。魔石も色味を揃えて落ち着いて上品なものに。渋めのオジ様が好むアダルティな感じにしてみました。
我ながら会心の出来だったけど、おじいちゃん、気に入ってくれるかなー。とか思ったら、涙目で喜んでくれた。商会紋がとても気に入ったようで、奥様が側にいるようだと。そして耳に付けて声が聴こえてビックリ。だからオシャレ通信具だってば!
ジンさんのも凝ったものにした。マリタ王国の王国紋は獅子。ぷふー、ガチムチライオンに獅子。まんまだね。
獅子をデザインに刻み、魔石はジンさんの眼の色と同じ青。夏の晴れた日みたいな空の色。ジンさんによく似合ってる。細くしたミスリルを重ねたところに魔石を配置。ちょっと細かくて疲れた!でもジンさんのためだ!と頑張ったわたし、凄く偉いと思う。
ジンさんもすごく喜んでくれた。このデザインはジンさんだけのものにして欲しいと言われたので、別に良いですよと答えたらギュウギュウ抱きしめられた。苦しいよ。なんなんだ?
バリーさんはキリとお揃いがいいとのたまったが、キリがやんわり、しかしハッキリと拒否。キリのイヤーカフはわたしとお揃いだからわたしも嫌だ。断固拒否。結局、バリーさんの家紋、二本の剣を象ったデザインにして魔石を嵌めて完成。パンクっぽいデザインになったけど、バリーさんのチャライ雰囲気に合っていてなかなかお似合いだ。本人はガッカリしてたけど。
3人とも、イヤーカフを試してはキャッキャしていた。通信ごっこに興じる大人3人。イヤーカフを初めて試したわたしとキリもこんな感じだったので、わたしたちは優しい目で見守った。うんうん、楽しいよねー。
ジンさんの「シーナちゃんの声が耳元で聞こえる。嬉しい」と言う発言には引いたけど。段々と言動がおかしくなってないですか?この人。
◇◇◇
なんだかんだで遅くなったけど、わたしたちは夕食を取るため宿の食堂に移動した。少し遅い時間なので、食堂の人影はまばら。宿の女将さんが、手早く本日の夕食を出してくれた。わーい、お腹空いた。昼の歩き食いした分は、どこにいったのかな?
今日のメニューは、パンに野菜のスープ。卵料理とメインディッシュはラギーという魔物のお肉のステーキ。ラギーはヤギっぽい見た目の弱っちい魔物で、低ランク冒険者も危なげなく狩れるので、食料としてはポピュラーなお肉だ。栄養価も高いので、庶民の強い味方です。
でもラギーは独特の臭みがある。子どもには嫌われる食材No. 1、前世でいうところの、レバーみたいな扱い。でも前世のレバーより癖が強い。わたしも少し苦手なんだよね。子どもだからじゃないよ、大人でも嫌いな人多いから!
わたしはラギーのお肉を少し味見した。シンプルに塩だけの味。うん、臭い。
わたしは収納魔法で仕舞っていた薬草ミックスをラギーのお肉に振りかけた。鑑定魔法さんが、お肉にはこの組み合わせが最適!と太鼓判を押す薬草ミックスを、火魔法で乾燥させたもの。ここにお塩を足すと、お肉を炒めるとき、振りかけるだけで味付けが終わるので便利ですよ。
「お嬢さん、今ラギーに何をかけたんだい?」
ニコニコとステーキを楽しんでいたら、宿の女将さんに見つかりました。ひいいぃぃぃ。
勝手に味を変えるなんて、料理してくれた人に失礼でした、ごめんなさい。
「あぁ、いや、そんなことはいいんだよ。大した料理じゃないし。いやね、小さい子がラギーの肉を嫌がらずにニコニコ食べているから、珍しいなぁと思ってたんだよ。食べられそうになかったら、別に何か作ってあげようと思ってたからね。でも平気そうだから不思議でさ」
優しい女将さんだった。小さい子という言葉には少々抉られたけど。わたしは薬草ミックスの容器を女将さんに渡して説明する。
「これ、数種類の薬草を混ぜたものを乾燥させたものです。お肉の臭み消しになるんです」
「へぇ?ちょっと試させてもらってもいいかい?」
わたしが頷くと女将さんは薬草ミックスを持って調理場に戻った。
「シーナさん、あれは?」
バリーさんのにこやかな笑顔。うん、迫力があって怖いね。何を怒っているんですかね。
「旅の間も使ってたよ!薬草ミックス。ほらこれ」
バリーさんに別の容器を渡す。食べてたでしょ、バクバクと。
「うっま。ラギーなのに臭くない。肉の味に深みが出る。うっま」
ジンさんもキリもおじいちゃんも奪い合うようにして薬草ミックスをかけてます。
キリが美味しさにほっぺを抑えて悶えてます。うん、キリが可愛い。バリーさんがキリを見てニヤニヤ。もはや犯罪者。
ジンさんが「シーナちゃんの料理は何でも美味しい」と言って上機嫌です。ごはんを作ったのは女将さんですよ。
バタバタバタと宿の女将さんが足音も荒く戻ってきた。
「お嬢さん!これ!薬草ミックスだっけ?凄いねぇ!ラギーの肉が高級肉みたいに美味しくなったよ!これなら子どもでも食べてくれるねぇ!これ、どこで手に入るんだい?」
「それは―」
「冒険者ギルドを通して近日中に買えるようになりますよ。楽しみにしていてください」
バリーさんがわたしの言葉を遮って、女将さんに笑いかけた。女将さんは「あら、それはいいこと聞いたよ!」と喜んでいる。薬草ミックスをわたしに返し、上機嫌で厨房に戻っていった。
「バリーさん?」
わたしが訝しげに聞くと、バリーさんは例の笑顔。怖い。
「知識を安売りしないで下さい。稼げる時に稼がないと!ねえ、ザイン?」
「はいはい。これもわしが頑張ればいいんじゃろ?はー、引退しとる暇ないのぅ」
バリーさんのいい笑顔とおじいちゃんのため息。あれ、これももしかして売れるの?
「シーナちゃんはやっぱり凄い」
ジンさんは変わらずマイペースだった。頭撫でるな。
誤字脱字報告ありがとうございます。
大変助かります。
同時進行でもう一つ長編を書いています。
もし宜しければご覧ください。