12 また現金収入が
お膝抱っこ再び。
お話の続きはジンさんのお膝抱っこ体勢から始まりますよ。
あれから拗ねて離してくれなくなった。ガチムチライオン鬱陶しい。
「えー、と、それでは魔物避けのお香の話からいきましょうかね。要塞都市のザイン商会を通して売買する予定でしたが、ちょっと前倒しをお願いしたいです」
呆れた顔のバリーさんが、非常にやりにくそうです。真面目な話なのにお膝抱っこ体勢のヤツがいたらそうだと思います。わたしのせいではありませんが。
「前倒しとはなんですか」
前のお話では、要塞都市のおじいちゃんの息子さんと魔物避けのお香の作り方を取引する事になってましたが。
「ええ。それが、少し状況が変わってきまして」
バリーさんの説明によると、最近、魔物の襲撃が増えてきているらしい。当初の計画ではザイン商会がわたしから作り方を買い、製造した魔物避けのお香をマリタ王国が買い上げ、国中に配備する予定だったらしい。今、ザイン商会がその準備を急ピッチで進めているけど、魔物の襲撃が増えている現状では間に合いそうにない。なので、準備ができるまでは、わたしが作るお香を売って欲しいと。
「いいですよー」
グラス森では暇に任せて作りまくったもんね、お香。色んなバリエーションを考えるのが楽しかったし、鑑定魔法さんが、あ、あの薬草混ぜるとこんな効果が!みたいに教えてくれるからついつい作りすぎちゃって。夜中のショッピング番組みたいな勧め方だったなー。
「今の在庫はコレぐらいです」
収納魔法からホイっと出してみる。テーブルの上に山積みのお香。あら、全部は乗せられない。嘘です、コレで半分ぐらいかな。
「スゴイ量ですね。収納魔法の収納力は魔力に比例すると聞いていますが、あぁ、魔力♾でしたね」
ちょっと引き気味のバリーさん。なんかすいません。
「キリ、これ売ってもいい?」
「シーナ様の御心のままに」
キリも手伝ってくれたからね。キリが売っていいって言うならいいか。
「魔物の脂と薬草を混ぜて作っているんだけど、魔力が強い魔物には効かないから気をつけてね。今日売った猪とか牛には効きが悪かったよ」
「あんな化け物級はグラス森ぐらいにしか出ませんよ…」
街に出るのは小さい魔物なんだって。そっかー。
「では魔物避けのお香は一つコレぐらいのお値段で…」
って、金貨二枚!?いや、高すぎるでしょ?
「もうちょっと安くなりませんか?高すぎますよ!」
「シーナさん。その台詞は私が言うものですよ?」
「でもこれ、原材料はタダ…」
「グラス森で採取した薬草と討伐した魔物の脂で出来ていると仰いましたね。あの危険な森での採取と討伐など、王国騎士団クラスか、冒険者でしたら最低でもBランク冒険者が数人、Aランクもいないと厳しい。それに伴う人件費、遠征費用がかかります。勿論技術料もあります。素晴らしい発明にはそれに相応しい栄誉と褒賞が与えられます。我がマリタ王国を、どこぞの搾取王国と一緒にしないでください」
バリーさんの優しくないニッコリは怖いです、はい、ありがたくいただきますです。
「量産体制が整えば、もう少し値段が落ちます。品種改良など重ねれば、コストも落とせるでしょう。その時は庶民にも気軽に手の届く品になるはずです。それまで値段を落とすのは待ってください。シーナさん、人に尽くすことと、自分を安売りすることは違いますよ」
うう。全部お見通しです。はい、街の皆さんか安全になってくれたらなーって思ってました。その辺はもうお任せします、すいません。
「それでは、このお値段で一旦ザイン商会で買取お願いしますね」
「はいはい」
おじいちゃんが白貨を数枚と契約書を渡してくれました。また増えたー。資産、6億越え。ウハウハですね。
「さっそくこのエールの街から配布を始めましょう。ギルド長が喜ぶでしょうね。あ、シーナさん、魔物避けのお香の製作者だと簡単に名乗ってはいけませんよ。拐われますからね。まぁ、貴女ほどの実力者ならば、実力行使は難しいと思いますが」
「どちらかというと、ハニートラップ系に弱いので気を付けます」
ピシッと手を挙げて宣誓します。婚約者という奴隷に5年も甘んじていましたからね、ええ。
バリーさんが引きつった笑いを浮かべています。ジンさんのお腹を抱く腕に心なしか力が入ったような?ちょっと苦しいので緩めて下さい。
「それでは次に、シーナさんとキリさんの装飾品についてです」
「黙秘しますっ!」
キリのアドバイスに従い、こちらもまたビシッと手を挙げて宣誓しました。これは秘密ですよ。
「シーナさん、それでは装飾品に何かあると宣言しているようなものです」
バリーさんが眉間をもみもみしながら、ため息混じりに仰います。キリも心なしか残念な子を見る目に!
「あ!」
何のことか分からない〜とか言っておけばよかった。黙秘しますなんて、犯人か!
「もしかしてとは思いますが、シーナさんがお作りになったんですか?」
「あぅうぅうう」
逃げようにもジンさんがしっかりお腹をガード中。
「シーナ様。もう仕方ないかと…。少なくとも、ジンクレット殿下は信用に値する方かと存じます」
「キリ…」
キリの言葉に振り向くと、ジンさんが優しい目でこっちを見てた。
うむー。キリが言うならそうかも?キリはわたしに関わる人に関しては厳しいからなぁ。
「えーっと、キリさん?俺は?俺は信用に値しないのかなー?」
「ワシは?ワシは?」
ニッコリ顔のキリはバリーさんとおじいちゃんの言葉を黙殺する。ダメみたいですね。バリーさんは論外としても、おじいちゃんはオヤツあげすぎを怒られてますからね。いや、食べ過ぎなわたしが悪いのか。
「俺はシーナちゃんが大事だ。君の嫌がることはしない」
ニコニコしてるジンさん。わたし、今この体勢が嫌ですが。そう言っても聞いてないフリですね。本当に信用してもいいの?とキリを見ると、頷いてました。そうですか。
「バングルとアンクレット、イヤーカフはわたしが作りました。剣も加工してます。グラス森で狩った魔物の魔石とグラス森で拾ったミスリル鉱石で」
わたしの言葉に、キリを除く3人がはぁっと溜息をついた。
覚悟はしてたけど聞いたらやっぱりなぁという感じですか?
「……ちなみに、何か付与してますか?」
「えっと、バングルとアンクレットには防御力アップ、魔力アップ、攻撃力アップ。イヤーカフには通信機能、剣は魔力剣になるようにしてます」
「……それ、本当にシーナさんが?」
む、信用されてない。
わたしは収納魔法からミスリル鉱石と魔石を取り出す。くるりと振り向いて、ジンさんを観察する。
「ジンさんは風属性だよね?」
「え?あ、ああ」
「じゃ、ぐいーんと伸ばして、魔石を嵌め込んで、風の術式と調整の術式を刻んでー。はい、出来たー」
ジンさんの腕にバングルを嵌める。ちなみに男性用なのでわたしやキリのバングルより太めです。
「あぁあ!一応ジン様王族なんですよ?安全性を考慮して、試すのは普通、従者の俺からですよ?ジン様も易々と試さないでください!」
バリーさんが青くなって叫ぶ。あれ、ダメだった?
「シーナちゃんからのプレゼントだぞ?断る理由はないだろう」
ニコニコ笑うジンさんが、バングルを眺めながらドヤ顔をしている。
「あぁあぁあ!この人やっぱりバカ!バカ王子があ!」
「うるさいぞバリー」
「ジンさん、このバングルに魔力流してみて」
ジンさんとバリーさんの戯言はしれっと無視した。構うと面倒そうだからね。
「うん、こうか?」
ジンさんの魔力がバングルを満たす。フワリとバングル表面に刻んだ術式が光り、精緻な模様を刻んだ。うん、やっぱりファンタジー。
「凄い!魔力が!それに身体が軽い!」
ジンさんがわたしを抱っこしたままピョンピョンとジャンプする。常人ではありえないジャンプ力に、バリーさんとおじいちゃんは目を丸くしてる。
抱っこしたままジャンプしないでぇ!怖いから!天井!天井にぶつかるぅぅう!
「ありがとう!シーナちゃん!」
欲しかったおもちゃを買ってもらった子どもみたいなキラキラした目でお礼を言われました。20日間の湯たんぽのお礼ですよ。お気になさらず。
「俺も!俺も欲しい!シーナさん!」
「キリの合格点が貰えたらいいですよ」
騒ぐバリーさんにそう返すと、ぷしゅうと萎れてました。
誤字脱字報告ありがとうございます。
大変助かります。
同時進行でもう一つ長編を書いています。
もし宜しければご覧ください。