9 冒険者登録とランクについて
「お嬢さん、お名前は?この魔物はどこで、どうやって手に入れたものですか?」
おじ様が再起動するなり、わたしの前にしゃがみこんで聞いてきた。あれ、これ素直に答えていいもんかね。
鑑定魔法さんは沈黙している。悪い人は教えてくれるオカンみたいな鑑定魔法さんだから、沈黙してるのは教えていいってことだろう。
「わたしの名前はシーナ。こちらは侍女のキリ。この魔物はわたしとキリでグラス森で狩ったものです」
わたしの言葉に、おじ様は目を見開く。うえぇ?と変な声でうめいた。
「あ、あの魔物全部ですか?二人で?二人だけで?」
「はい。だいたい半分ずつぐらいですかね」
「大物はほとんどシーナ様の功績です。わたくしはお手伝いをしたまでです」
そうかなぁ。キリも結構、ザクザク狩ってたよねー?
「シーナ様は、魔法が使えるのですか?どんな魔法が?」
わたしの手を握っていたおじ様が、そんな事を聞いてきた。ははぁ、わたしの手にはケンダコとかないからね。武器を持つ手じゃないと思って魔法が使えると判断したのかな?
「だいたい一通りは使えますよ。なんでも」
「ぞ、属性は?」
「なんでもいけますよ?一番得意なのは聖魔法です」
5年間休まず使ってましたから。
「そ、それが本当だったら、素晴らしい才能です。しかしあの素材を見る限り、信憑性が高い!ここ最近、エール街を襲う魔物が増えて、優秀な冒険者を募集していたところです。あのグラス森で狩りをするなんて!普通の冒険者ならパーティを組んで数十人単位で中に入るような危険区域なんですよ!?お二人とも、ちょっと能力鑑定をしてみても?冒険者になるには皆さん、一通りは受けてもらうものです」
素材を冒険者ギルドに売るには冒険者登録が必要って聞いてたからいいですよ。って、ちょっと?
おじ様がわたしを抱き上げると、大股に歩き出す。こらー!わたしは縫いぐるみじゃないんだぞ!簡単に抱っこするな!
わたしが抗議するより早く、ジンさんが私をおじ様から奪い返した。わたしを抱っこしたまま、おじ様に向かってシャーって威嚇までしてる。ガチムチライオンは猫科かな?でもジンさんの抱っこもイヤだから、すぐに腕をすり抜けてキリの元に逃げる。
「失礼しました、殿下。柄にもなく興奮してしまいました。さ、すぐにシーナ様とキリ様の能力鑑定を」
「ならん。シーナちゃんは冒険者にはしない!」
勝手に決めないでください。わたしは冒険者になるかはともかく、素材が売りたいので冒険者登録はしたいのだ。薬草とか、素材売りのためだけに登録している人もいるって聞いたよ?
「そんな!こんな逸材を!」
「ならん!シーナちゃんは俺が面倒見るんだ」
嫌です、王族に面倒見てもらうなんて。搾取ライフ再びかよ。
「そもそも冒険者になるには成人していることが必要ですよね?シーナさんには、あと数年、無理じゃないですか?」
「あっ!」
バリーさんの言葉に、おじ様が思わずといったように声をあげた。
わたしとジンさん見比べて肩を落とし、そしてキリを見てパァっと顔を輝かせる。
「それでは侍女のキリ様に冒険者登録をして頂いて、師弟登録をシーナ様にしていただきましょう!」
師弟登録とは、冒険者見習いの子や、親子で冒険者をする場合に活用される制度だ。通常、成人した者が冒険者になることが出来るが、冒険者の子どもが冒険者を目指すときや、冒険者が見習いを育てるときなど、成人前でも冒険者の弟子として登録することが出来る。師弟制度で登録すると、素材の買取はもちろん、普通の冒険者が受けられる恩恵も色々受けられるんだって。ふーん。でもさ。
「わたしは成人してます。15歳です!」
思わず叫んだ。どいつもこいつも人を子ども扱いしやがって!
「え?成人してる?」
バリーさんは冗談とでも思ったのか、半笑いでわたしとキリを交互に見る。
キリが少しも笑っていないのを見て、えっ?って感じでわたしを凝視する。
「シーナ様は今年の花の季節に成人されました」
ちなみにこの世界は花の季節、光の季節、実りの季節、雪の季節と4つに分かれていて、それぞれの季節がだいたい90日ぐらい。この世界では明確な誕生日がなく、それぞれの季節の初めの日に全員一斉に歳を取る。わたしは花の季節に生まれたので、今年の花の季節の一番初めの日に、成人を迎えたのだ。
重々しいキリの言葉に、その場にいた全員が声にならない悲鳴をあげた。
◇◇◇
「成人してるのにどうしてこんなに小さいんだ!シーナちゃんは病気なのか?医者を!」
過保護を暴発させているガチムチライオン。鬱陶しい。
「え?成人?あれで?だって胸とかペッタンコだよ?」
失礼なこと言いやがってるのは、バリーさんだ。キリの目が絶対零度になっている。最低発言だもんね。あははー。嫌われてしまえー。
「はー、もうちょっとオヤツを増やさんとなぁ」
お爺ちゃん、最近キリにオヤツあげすぎって怒られてるよね。ご飯が食べられないぐらい食べちゃうわたしが悪いんだけどさ。
「成人している!ようございました!冒険者登録出来ますね!ぜひエール街冒険者ギルドと専属契約を!」
喜びを爆発させるおじ様。うん、欲望に忠実ですな。
このままでは収拾がつきませんよ、とりあえず冒険者登録だけでもしませんかー?
少し落ち着いて元々案内された部屋に戻りました。約一名、早く医者にと騒ぐうるさい人がいますがスルーです。元気なので不要です。
冒険者登録は薄いカードに血を一滴垂らすだけで完了するそうです。そこに血液に反応する術式が組み込まれていて、年齢、能力が書き込まれるとか。面白いですね。
わたしはナイフで指を傷つけ、カードに血を垂らした。すぐに魔力を漲らせ、傷は塞ぐ。キリの指も治しましたよ。おじ様が「発動が無詠唱とは!」とか感動してた。小さな傷だから大した事ないですよー。
カードが鈍く光り、術式が作動する。キリのカードは赤く光った。火魔法が得意だからかな?
わたしのカードは、うん、何これ?何色?色んな光が渦巻いて、綺麗ですねー。
そしてカードに色々表示されました。
キリ
age:19
体力:120
魔力:250
属性:火
「キリ様は体力は男性冒険者の平均値といったところですが、魔力が250とは素晴らしい。A級ランクの実力ですよ!」
おじ様が絶賛してくださいます。さすがわたしのキリ。うちの子凄いんですよ。ちなみに、キリの体力魔力はバングルとアンクレット抜きの実力ですよ。グラス森の狩りで鍛えられたもんね。
シーナ
age:15
体力:60
魔力:♾
属性:聖、火、風、水、土、闇
わたし、体力ないわねー。まあ疲れたらすぐ回復魔法かけるから支障はないけど。幼児か、病弱な人ぐらいの数値だそうだ。
「魔力♾。長年ギルドに勤めてきましたが、初めて見ました。こんな表示」
ごくりと喉を鳴らし、フルフル震えて緊張した様子のおじ様。そんなことより、わたし、気になることが!
「キリと同じA級になれる?」
キリとお揃いがいい!パーティを組むときは同じランク同士が推奨されるんだって。
「魔力量と属性の多さだけ言えばSS級ですね。総合的にはS級ですね。体力面の心配はありますが」
「S級?冒険者のランクってAからFまでじゃないの?」
「S級はA級の上のランクになります」
おじ様の言葉にひぇえとなる。なにその無敵感。スーパーヒーロー要素はいらないよ?冒険者ランクって登録しないといけないの?
「ランクの無登録ですか?商人や素材を売るだけの方たちが、そうなさっている事もありますが…。他の冒険者からランク無登録だと侮られますよ。ぜひ登録を!」
「ランク登録をして、高ランクだと受けられる特典は多い。乗合馬車の割引とか、宿の割引や優先利用とかな。でも国や高位貴族からの断れない強制依頼がきたりする」
ジンさんが補足説明をしてくれる。いい事聞いた!
「わたしはランク無登録で!」
「私もシーナ様と同じく」
お金より自由よ!ジンさん、ナイスアシストだ!
「そんな!こんな高ランク冒険者、滅多にいないんですよ!殿下、ひどいです」
おじ様が泣きそうな顔をしてる。渋イケオジのイメージが崩れまくってる、残念。
ジンさんとバリーさんもランク無登録なんだって。立場的に高位貴族からの強制依頼は受けられないから。国の危機には率先して動く立場だからそれでいいそうな。ってことは、ジンさんもバリーさんも高ランク冒険者なのね。まあ、前に戦ってた様子見たら強そうだったけどさ。
誤字脱字報告ありがとうございます。
大変助かります。
同時進行でもう一つ長編を書いています。
もし宜しければご覧ください。