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絶対最強女子高生 〜わたし陰陽師ってやつです。先生、式神になってくれません?  作者: 猫の玉三郎
ひとりコックリさん

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八話 ひと コッ  さ 

 ぞわりぞわり。十円玉を持った指先から何かが這い上がってきて暑くもないのに全身から汗が吹き出す。その何かはじわじわと藁田の中に侵入しようとしている気がした。


「藁田さんっ」


 三葉に声をかけられても手も足も動かすことができない。まずいまずいまずい。どうにかしなければと焦るが、何をしたら解決できのかさっぱりわからない。まるで首根っこを掴まれた子猫のようだ。相手は保健所の人間で、子猫がどう足掻いたって形勢は変わらない。その圧倒的な力の差に気付いてしまった。


「オン……キリキリ……」


 なんとか声を絞り出して記憶の片隅にある真言を唱えてみるが無力に等しかった。そりゃそうだ。こんな人知を超えた現象に、太刀打ちできるわけがないんだ。所詮ネットで得た情報なんて本物の恐怖には敵わない。塩を撒いたりしたのは、子猫の威嚇程度に思われていたのだ。ちょっと抵抗するから一旦手を離しただけ。


 藁田の体はガクガクと震え、生理的な涙が頬をつたう。


「大丈夫ですよ。落ち着いて、息を吸ってください」


 三葉の声だ。この状況落ち着くなんて無理だろう。むしろ危機感のない三葉にうんざりする。どうしてこんな所にいるんだと八つ当たりしたくなる。せめて、せめて被害は最小限に留めないと。そう思ったけれど、「逃げて」のひと言も出ない。


 霊感あるとか頼りにされているとか、得意になっていたけれど実際はなにもできない。指先からゆっくりと登ってきた不快なナニカはヒジの辺りにまできた。


 絶望を噛み締めていると視界の端に写るものがあった。細長く毛で覆われている、獣のような四本の足。


(なんだ……?)


 体はまったく動かないが、ほんの少し視線をあげる。驚いたことに足の持ち主はタヌキだった。普通のタヌキではなく、妙に表情が人っぽいというか、目付きの悪い三白眼が面倒くさそうに藁田を見ている。


『けっ、マズそうな蛇』


 あーやだやだと言わんばかりのタヌキに、藁田は一瞬現状を忘れてポカンとした。蛇ってなんだろう。そう思って視線を自分の手に戻して驚愕する。


 太い蛇が硬貨を持っている腕に絡みついていた。チロチロと舌を出す頭がちょうどヒジ辺りで、締め付けながら二の腕へと向かっている。


 タヌキはがぱっと口を開けると、蛇の長い胴体に噛み付いた。蛇も暴れるがタヌキが問答無用で噛み砕いているので抵抗虚しく飲まれていく。


(マジで食ってるの!?)


 尻尾まで食べきるころには藁田の体から震えは止まっていた。タヌキはすくっと立ち上がると器用に二本足で立ち、どこから取り出したのかタバコを咥える。


『なんだぁ嬢ちゃん。俺のこと見えてんのかい』


 あっけに取られているとタヌキが笑った。ケケッと意地悪そうな声を上げながらどこかに歩いて行く。タヌキのふわふわ尻尾を目で追いながら立ち上がると、窓から吹いた風を感じた。


『唯香、終わったぜぇ』


 三葉の足にすり寄るとそのふわふわ尻尾を絡ませる。そして次の瞬間、消えた。ぱちぱちと瞬きをしてももうタヌキはいない。


「み、三葉、さん……いい、いいい今のっ」


「しぃ」


 三葉は人差し指を口にあてて、蠱惑的なウインクをした。



 ◇



 三葉に誘われて藁田は購買に来ていた。自販機から紙パックのコーヒーオレとイチゴオレを買うと、どちらがいいかと聞いてくる。


(私が牛乳きらいだったらどうするつもりだったんだろ)


 とは思いつつも、どちらも好きなのでコーヒーオレの方をいただく。たどたどしく感謝の言葉を伝えると三葉はにこにこと笑みを浮かべた。


 ふたり並んでベンチに座った。ストローを取り出してぷすりと刺してコーヒーをすすると、強い甘みが体にしみる。


「ひとりコックリさん」


 三葉がぽつりと言葉を落とす。


「藁田さんが言った通り、鳥居は出入り口や境界線の意味があります。そこに古くからあるいろは唄が関わると少し厄介なことになるんですよ」


 三葉は詳しく教えてくれた。

 いろは唄は平安時代に作られたもので、釈迦の教えを記した涅槃経(ねはんぎょう)のなかにある「さとりの唄」を和訳したものだ。同じ文字を二度使わずに四十八の文字で、さらに七・五のリズムでさとりについて説いている。


 元となった言葉はこれだ。


  諸行無常(しょぎょうむじょう)

  是生滅法(ぜしょうめっぽう)

  生滅滅已(しょうめつめつい)

  寂滅為楽(じゃくめついらく)


 これは修行僧が命をかけて人喰い鬼から教わったといういわれがある。


「いろは唄を辿ると鬼や仏が出てきます。さらに唄自体も千三百年というとても長い年月を重ねている。そこに出入り口をつけて呼びかけたら、別の次元と繋がってもおかしくありません」


 つまり降霊術どころの話ではなく、もっととんでもないシロモノだ。先ほどの異常現象はおそらく儀式により別次元と繋がり、あちらのモノが鳥居を潜ってこちらに来ようとしていた。下手したら霊よりももっと上位の存在を召喚してしまう儀式。紙パックを持つ藁田の手に力が入った。


「じゃ、じゃあ、これをやった人は」

「みんながみんな、そうなるわけじゃないと思います。江古田さんがたまたまなのか、それを引っ張りだせる力があったのかは分かりません。とにかくあのコックリさんが危険なのは間違いないですね」


 ——いったい誰が始めたんでしょうか。


 三葉のこぼした疑問が恐ろしく思えた。田代は言っていた。自分たちは塾の友人から聞いたのだと。だとしたら、このひとりコックリさんをやっているのはこの学校の人間だけではない。

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