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絶対最強女子高生 〜わたし陰陽師ってやつです。先生、式神になってくれません?  作者: 猫の玉三郎
我こそは神なり

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四十一話 日常へ 

 入院先の病室は個室で、ちょっとしたホテルのような豪華さだった。辰野はそこで療養中であるのだが、費用は全て葛の葉が負担するらしい。しかし、辰野が負傷したのは神さまが表に出て暴れたからだ。葛の葉の人たちに世話を焼いてもらうのはだいぶ心苦しい。せめてもっと安っぽい病室なら心持ちも違うのだが。


 辰野はそんなことを思いながら、体のあちこちへ目をやった。負荷に耐えられず、皮膚が裂けたり内臓にダメージを負ったりと、病院へ搬送された時はかなりひどい状態だった。にも関わらず今ではもうすっかり回復しているので医療関係者は首を捻っている。本来ならまだ傷口の皮膚組織が再生を始めるかどうかなのに、すでに乾いたかさぶたができるほどの回復ぶり。


 コンコン、と入口の扉がノックされた。

 隙間から顔をのぞかせたのはひとりの少女。


「先生」


 その顔を見た瞬間、どきりと心臓が脈打った。三葉だ。あの騒動いらい顔を合わせておらず、数日ぶりの再会になる。三葉は許可がないと入ってはいけないと思っているのか、入口でもじもじと立ったままだった。


「……遠慮しないで、こっちにおいで」


 見かねて声をかけると、三葉はいそいそとベッドのそばまでやってきた。その顔が赤いように見える。具合が悪いのかと聞いたのだが、それは違うらしい。


「もうすぐ退院だって聞きました」

「ああ。今日にでも退院していいくらいだ」


 それからしばらく他愛のない話をして、自然と話題はあの日のことになった。事件のあらましはすでに聞いている。あの化け物は退治され、行方不明となっていた荒川の遺体も見つかった。他の行方不明者も見つかり、その数二十名近く。半数は亡くなっていたが、失踪届がでていた三名はかろうじて息があった。同じように病院へ担ぎ込まれ、治療がほどこされているだろう。あとのことは警察が引き継いだとのことだ。


 陰陽師側も負傷した人間がおり、OCRにいたっては部屋の半壊と高価な機材の損失。……貴重な資料を得られたので収穫も多かったらしいが。


「芦屋がどういう存在なのか、まだよくわかっていません。雨竜彦に手を貸すと約束したのに逃げられてしまったし……」


 あの事件の中心にいるのは芦屋で間違いなさそうだ。雨竜彦と因縁があるだけでなく、葛の葉やOCRも無視できない相手となってしまった。


「俺の中の神さまはまた顔を合わせる機会があると思ってるよ。あの場で自暴自棄にならなくてよかったって三葉に感謝してる。……ありがとな。また助けてくれた」


 死ななければ、またチャンスはある。雨竜彦が体を使うと全身がボロ雑巾のようになるので、式神として力を振るえるのなら神もそちらが好都合だろう。しかし。


「三葉はケガしなかったか」


 そうなると彼女はまた危険な立場になってしまうのだ。それが心配でたまらない。芦屋なんて男、二度と見つからなければいいというのが本心だった。


「大丈夫です。避けるのは得意なんですよ」

「よかった。あんまり無茶はするんじゃないぞ」

「はい」


 この後は藁田の見舞いに行くらしい。彼女も打撲や擦り傷の類はあるものの、命に別状はないとのことだ。つい昨日、辰野も顔を見に行った。


 そこで会話が途切れる。


「…………」


 しんとした空気が気まずい。何か気の利いたことを言わなければと焦っていると、三葉が顔を赤くしながらもじもじと口を開いた。


「先生、手を貸してください」


 一瞬何を言われたかわからずポカンとしていたが、意味を理解するとおずおずと右手を差しだした。三葉は両手でそれを包むと、きゅっと握りしめて胸のほうへ引き寄せる。生きていることを確認するかのようにしっかり力がこめられ、辰野は少し慌てる。


「み、三葉」

「……ちゃんと生きてる」


 その言葉に息を呑んだ。


「無事でよかった。死んじゃうかと思った」


 辰野の手を握りしめたまま下を向く三葉。声は少し震えていた。辰野がぼろぼろになった姿を三葉は間近に見ている。おぼろげな記憶の中で彼女は泣いていた。ひどく心配をかけたのだと知って、辰野は胸が痛くなった。


「心配かけてごめんな」


 首を横にふると、三葉のふんわりした髪が揺れる。顔を上げた彼女の瞳は少し涙に濡れていて、不謹慎だけれど綺麗だと思ってしまった。


 時間が止まってしまったかのように、辰野と三葉は見つめあう。何を言っても無粋な気がして、ただただその瞳に魅入っていた。


 だがその時、がらりと勢いよく扉が開けられた。辰野はびくりと肩を揺らし、三葉も抱いていた手を離し勢いよく離れる。


「あら、抜け駆けはいけませんわ三葉さん」


 遠慮なく入ってきたのは出雲で、笑顔を浮かべると辰野へ挨拶をした。


「隆宗さん、雨竜彦さまのお加減はいかがですか。そうそう、今日も差し入れを持ってきましたの。いま用意しますね」


 持ってきた荷物をてきぱきと広げ、唖然とする辰野と三葉をよそに出雲はベッドへ腰掛ける。「はい、あーん」とひと口大のフルーツを差し出したところで、三葉はあわてて出雲を止めた。


「だめです! 私がやります!」

「あら、私が持ってきたのに」

「先生のお世話は私がやるんですっ」


 出雲からフォークを奪いとる。


「はい、先生。あーんしてください」


 目の前へ差し出されたフルーツ。そして少しすねたような可愛らしい少女。辰野は一連の流れに固まっていたが、我にかえると両手で顔を覆った。隙間から見える顔はものすごく赤かった。


「……勘弁してくれ」


 その情けなくかぼそい声に、どこからか笑い声が聞えた気がした。



 ◇



 新学期が始まり日常が戻ってくる。

 まだ日差しが強い九月の昼間。教師は教壇へ立ち、学生は勉学へ励む。それは何十年も繰り返される学校の風景だ。放課後になればぽつぽつと生徒が校門から出てきた。


 友人に遊ぼうと誘われたが、先約があるからと両手を合わせて断った。小走りで向かった先はひと気のない古びたビル。いつから建っているのか、壁には蔦が這い、その場所だけ影がひときわ濃い。


 壊れた裏口から中へ入ると、ほこりとカビの匂いがした。


「招待状をくれたのはどなたでしょうか」


 かつんと足音を響かせながらホールの中央へ進み出ると、ホラー映画のお決まりのように扉がひとりでに閉じた。とたんに影から幽鬼がいくつも現れ、制服姿の少女を囲む。いたぶるつもりなのだ。鋭く長い爪を構え、幽鬼はひとり中央へ立つ少女へ襲いかかった。


 しかし彼女の微笑が崩れることはない。


「いきます」


 彼女の名前は三葉唯香。

 花盛りな女子高生であり、数多の式神を従える最強の陰陽師である。


 白銀の一閃が闇を切り裂く。

続きそうな余韻は残しつつも、これにて一旦完結にしたいと思います。ありがとうございました!

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