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絶対最強女子高生 〜わたし陰陽師ってやつです。先生、式神になってくれません?  作者: 猫の玉三郎
我こそは神なり

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三十八話 人こそは虚なり

 隙をついた渾身の一撃を、たかが少女に邪魔された。夜ノ助は奥歯をぎしりと噛み、後ろへ大きく跳躍して距離をとる。


「てめぇ……」

「いきます」


 戦闘服をまとった三葉は手に黒い棍を持っていた。たたっと軽やかに駆け出すと夜ノ助に向かって棍を繰り出す。その迷いのない太刀筋に夜ノ助は内心感心した。人に向かって躊躇なく攻撃できるのは、よっぽど訓練を重ねたヤツか、頭がイカれてるやつのどっちかだ。どのみち厄介な相手だった。夜ノ助は立派なマチェットを持っているが、リーチは短く、攻撃しようにも三葉へ届かない。


「ちっ」


 マチェットを床へ投げ捨てると、鋭く突いてきた棍の端を片手で掴んだ。もともと道具を使うのは好きじゃない。素手のケンカ上等だ。いくら陰陽師とはいえ女に力で負けるわけがないと、夜ノ助は掴んだ右手で思いっきり棍を引いた。案の定、三葉は体勢を崩してよろけてしまう。


「ガキみてーな女にオレの相手をさせるたぁ、おまえらの仲間も相当イカれてんな。ああ?」


 視界の端ではゲートから出た化け物が葵たちへ攻撃を繰り返している。陰陽師側の術のせいで満足に動けないようだが、それはあちらも一緒だ。


 夜ノ助は三葉から棍を奪い取ると、その喉元に突きつけた。三葉の白くほそい喉がこくりと波打つ。その目は反抗的で、夜ノ助は思わず舌打ちをした。


「オレはおまえらを殺せるぜ。脅しじゃねえ。嫌なら今すぐどっかに行け」

「いやです」

「てめぇ、ここで犯してやろうか」


 わざと猥せつな言葉を使っても三葉が怯む様子は見られない。仕方ない。ここで下手をするとこちらが殺されるのだ。そのかわいい顔をグチャグチャにしてやると夜ノ助は棍を振りかぶった。


「黒翔」とその名を呼び、三葉がほほ笑む。


「……なっ」


 次の瞬間には身動きがとれなくなっていた。振り上げた右手には棍があったはずなのに、その姿をロープかムチのようにして夜ノ助の体に巻きついていた。三葉がポケットから紙のようなものを取り出すと、腕を伸ばして夜ノ助のおでこへ貼り付ける。人差し指と中指を立てて口元へ持っていき、何か小さくつぶやくと指差しを札へ向けた。上から下へ指を滑らせる。


 淡く文字が光るのと同時に、夜ノ助はピクリとも動くことができなくなった。声を発することも、まばたきをすることも。



 ◇



『夜ノ助、捉えました』


『こちらも終わった』


 インカムを通じて報告が続いた。夜ノ助、化け物、ともに無力化に成功し、残るは不明者の捜索だ。化け物がいた空間にいる可能性が高かった。術が切れて再び動き出すことを考慮するとあまり時間はない。要は自らの式をゲートの奥へ飛ばすと、目の代わりをさせた。その場所がわかればこちらと次元を繋ぎ、引き寄せることができる。


 控え室では顔色の悪い修介が山内へ詰め寄っていた。


「みよの印はいつになったら消えるんでしょうか」


 山内が返答に困っていると森ノ宮が口をはさむ。


「落ち着いて。印を付けたのが怪物なのか、あの金髪男なのかはっきりしていない」


 藁田の首にはまだ赤いアザが残っており、消える気配がない。まだ捕らえただけでなんの解決もしていないのだ。


「あの化け物からあまり知性は感じない。あの金髪男の所持品を検めるべきだ。たぶん、化け物と贄を仲介するなにかを持っている。それを破壊することができれば」


 そのすぐ隣では辰野がマジックミラー越しに化け物を凝視していた。中の様子を写した映像がモニターに映し出されてはいるが、ノイズが混じっていて不明瞭だ。


「出雲さん、あの化け物の顔……」

「ええ。見覚えがありますわね」


 辰野が言っているのは、人間の体がくっついた化け物の、その頭部である。つい先日この施設で顔写真を見せてもらった、あの男によく似ていた。


 確か今は行方不明になっているが、まさか彼も被害者のひとりだったのか。


「荒川誠司。どこに行ったかと思えば、こんな化け物になっていたなんて」


 出雲は好奇心が抑えられず、今にも部屋を飛び出してしまいそうだ。よく見ればOCRの他の職員たちは皆、実際の怪異を前に興奮気味である。


「いったいどういうことかしら」とこぼす出雲は上機嫌だ。被害者もいるし、三葉も危険な目にあっているので少しばかり不謹慎ではないだろうか。そう辰野が苦々しく思っていると、心臓がドクンと大きく跳ねて視界がブレた。


「……?」


 ドクン、ドクン。何かあったわけでもないのに、鼓動が痛いくらいにはっきりと伝わってきて、辰野は思わず胸を抑えた。


 この感覚に覚えがある。最近のことだが、今みたいに動悸がすると思ったら、そこから先の記憶がしばらくないのだ。気付けばベンチに座っており、三十分ほど時間が経過していた。


 心臓は激しく鼓動しているのに、思考力が落ちていく。意識が奥に引っ張られるようだ。なぜだか、辰野の頭に死のひと文字が横切った。


「うああ、あああっ!」


 突然聞こえた女性の悲鳴。辰野はハッとして部屋を見渡すと、森ノ宮が床へ座り込んでいた。ゴホゴホと咳き込み、口や手から血が流れている。


「森ノ宮さん!」


 山内と修介が駆けよると同時に、特別室Dでも騒ぎが起こっていた。封じていたはずの化け物が、大きな咆哮を上げて暴れはじめたのだ。


「……呪術が、返さ、れた」


 血で汚れた口元を拭いが、ぜぇぜぇと肩で息をしながら森ノ宮がそうつぶやく。


 諸星らが唱える真言とは違い、森ノ宮が扱う呪術は人間相手でも強力に作用する。だが、もし相手がその術を跳ね退けたならば、呪いのエネルギーは術者へそのまま返ってくるのだ。


「大丈夫。死には、しない」


 呪いを扱うプロはリスクを承知で術を扱う。術を返されたら、相手は術者以上の力を持つとみなさなければいけない。森ノ宮が代理を立てずあえてその身で術を受けるのは、その痛みや恨みつらみを術に上乗せしてやり返すためである。痩せて棒のような手足を震わせながら、森ノ宮は立ち上がる。痛々しい体とは裏腹に、眼はギラギラとして「反転してやる」と息巻いていた。


 ドクン、ドクン。辰野の再び心臓が強く鳴る。

 立っていられなくてパイプ椅子に座り込むと、目の前が霞がかったように不明瞭となった。


「騒がしいと思って来てみたら……」


 それは聞いたことのない男の声だった。少なくとも、今日顔を合わせた葛の葉の人間やOCRの職員ではない。ゆったりとした口調なのに、その声音に身がすくみ、肌が粟立つ。


「どうして餌がここにいるのか」


 辰野は自由の効かない視界で、男の後ろ姿を見た。なぜか燕尾服をきているそいつは、周囲が騒然とするなか、誰かの首を掴み上げている。少女だ。ならばあれは藁田ではないのか。


 そこからしばらく、辰野の記憶は欠如している。

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