表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶対最強女子高生 〜わたし陰陽師ってやつです。先生、式神になってくれません?  作者: 猫の玉三郎
我こそは神なり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/42

三十六話 地獄は楽土なり

 葛葉要らの登場に、夜ノ助は威嚇するように歯を剥いた。しかし手足は蝋で固められたようにぴくりとも動かない。


「クソが、卑怯だぞ!」


 要はなにも答えずただ満足そうに笑っていたが、なにか気配を察知したのか急に表情を引き締めた。他のメンバーも同様で、周囲への警戒を強める。


 ォォォオオオオオオ。


 風のうなり声にも似た音が、前から、後ろから聞こえてきた。水辺のような生くささが空気に混じって鼻腔をかする。


 次元の歪みがひと回り大きくなったかと思うと、大きな影が飛び出した。そして硬直していた夜ノ助を掴み、あっという間に闇の中へ引きずり込んでしまった。


 逃げられたと捉えるべきか、否か。


 その判断をくだす前に、要たちの前に現れたのは三つの人影。見た目の感じからして男がふたりと女がひとり。おそらく若い。ゆらり、ゆらりと頭を左右に振り、ゆっくりと前へ向かって足を動かした。


『オロカナリ……人間ヨ……』


 地を這うような低い声。それは耳を通って脳を揺さぶり、全身を不快にさせた。さらに異様な雰囲気の三人がこちらへ向かっている。


 ざぁ、ざぁとアスファルトを擦るような足音が闇に混じる。「ア……アぇ……」と人語を忘れ、よだれを垂らし迫る姿はまるでゾンビだ。


「人間ですかね」

「おそらく」


 葵と要は短く言葉を交わすと、それぞれ印を結び式を飛ばした。三匹の蝶があわい光を放ちながら三人の周りを飛ぶ。


「おふたりともすみませんね。人間を斬りつけるといろいろと問題になるのでどうにもいけません」

「同じく。法力は人に向けちゃダメって仕込まれてるんで。すんません」


 堺と諸星はふたりに謝りながらも周囲への警戒を怠らない。


 ひらりと舞う蝶は形を変え、光の糸となって相手を何重にも拘束する。動けなくなった彼らは地面に倒れた。やはり正気ではないのだろう。焦点も合わないまま、ただうめき声を上げるだけだ。


「……逃げられましたね」


 葵の言葉に要がうなずく。

 夜ノ助の姿も触手も、その気配はきれいさっぱりない。巣へ逃げられたようだ。各々が警戒を解いていると、要が暗がりへ向かって話しかける。


「さて見ていたかな神谷くん。おそらく彼らは件の行方不明者だ。動いてはいるが生死は不明。中のモノは追っ払って上げるけれどその先はきみの仕事だ」


 現れたのは黒いスーツを着た男。険しい顔には濃い疲労が浮かんでいる。


「……わかりました。除霊はお願いしますよ」

「まかせたまえ」


 神谷はスマホを取り出してどこかへ電話をかけ始めた。



 ◇



 辰野は夢を見ていた。

 ふわふわと空を飛んで田舎の田園風景を見下ろしている。だからだろうか、これは夢だという自覚があった。辰野はそのまま吸い寄せられるようにある所へとゆっくり飛んでいく。そこは祖父母が住む家から少し離れたところにある二級河川だった。少し前に舗装されたのか斜面にそって真新しい階段が付けられていて、川辺におりられるようになっている。それなりに川幅は広く場所によっては深さもあった。


(あー、なつかしいな)


 こどもの頃、地元の子どもたちと一緒にここで遊んでいた。こんなことを思い出すのはきっと出雲や三葉と話をしたせいだろう。そう考えていると青々とした空が一瞬で夕暮れに変わった。熱い日差しはなりを潜め、ひんやりした空気が辺りに漂っている。そこで子供が数人で遊んでいた。不安になりつつその光景を眺めていると、どぼんという音とともに子どもの姿がひとり消える。


 突然、景色ががらりと変わった。

 どこまでも白い、光の中ともいえる空間だ。


『そなたを生かしてやろう。代わりに私の願いを叶えよ』


 声は優しくそう言った。『なにを叶えたいの?』と返事をするのは声変わりする前の幼い響き。


『         』


 それがどういうことなのかその時の辰野には理解できなかった。


 ただ目覚めたとき、自分にはしなければいけない事があるのだと強く思った。身の内にある神との約束は今になって辰野へ影響を及ぼしているようだ。さいわい、今日は葵に呼ばれていて、三葉たちが所属する「葛の葉」へ顔を出すことになっている。なんでも大捕物があるらしく、もしかしたらそれが雨竜彦と関係するかもしれないのだ。


 ベッドから出ると、お湯をわかしてコーヒーを淹れる。まだ熱いそれに口をつけながら、辰野は今日という一日がどうなるのか思いを馳せた。



 合流した彼らと向かった先はOCRだった。

 施設の一階にある体育館のように広いその部屋は、あちこちにカメラが設置してあり、白衣を着た職員たちがモニターを見ながら微調整をしている。また隣接した控室はマジックミラーにより中の様子がよく見える。


 辰野と藁田、その保護者である修介はその部屋へ通された。さらにOCRから出雲、葛の葉から森ノ宮と山内が付き添う。葛の葉のふたりは先ほど自己紹介しあったばかりだ。


 辰野は控室から見ていることしかできない。視線の先にいるのは三葉だ。葵や要とともに何かを準備しているようで、彼女は戦う側なのだと思い知らされる。身にまとう服はテニスウェアのようなものだった。色は黒一色で、丈の短いプリーツスカートに視線が向かうものの慌ててそらす。よく見れば手にはグローブ、上半身にはタクティカルベストを着用しているようだった。その意味を即座に理解する。


「危険を伴うんでしょうか」


 声をかけられて出雲が嬉しそうに答える。


「可能性は高いです。報告をきく限り、例の怪異は空間をねじまげ、物理へ干渉します。そして人間を捕獲して餌としている。彼らでなければいくらでも死人が出るでしょうね」


 いつのまにか近くにいた山内が口をはさんだ。


「そうならないように万全で挑みます。あの部屋に結界をはり、逃げられないようにした上で化け物が隠れる異界への道を開く。行方不明者の安否を調べつつ、引きずりだした化け物を退治するのが今回の仕事です」


「OCRは場所を提供しましたの」と出雲は得意げだ。データ収集が目的なのだろう。部屋に設置されているのはカメラだけではない。用途のわからない大小さまざまな機材が置かれ、それぞれにOCRの職員が貼りついている。


「先日、葵さんはご自分の式を怪異のそばに潜り込ませました。それを辿って道をこじあけます。私たちはそのサポートを」


 山内の手には破魔札があった。部屋の四隅にそれをはり、この空間を守っているようだ。同じ部屋にいる藁田はぼんやりとしていて心ここにあらずといった感じだ。それが無性に不安にさせる。付き添っている修介の憔悴もひどいものだ。


「さあ、そろそろ始まりますわ」


 出雲の言葉に、辰野の焦燥は強くなっていく。

 ガラスの向こう側にいる三葉の横顔は一点を鋭く見つめていた。辰野は手を伸ばしたくなる気持ちをぐっと押さえつける。


 思い出すのは駅のホーム。三葉は辰野の腕の中にすっぽり収まるくらいに小さかった。三葉は女の子で、未成年だ。それなのに彼女はいつだって怪異に立ち向かっていく。


「……ケガするなよ、三葉」


 辰野は心の中で神に祈った。

 どうか無事に終わりますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ