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絶対最強女子高生 〜わたし陰陽師ってやつです。先生、式神になってくれません?  作者: 猫の玉三郎
我こそは神なり

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三十二話 死者は無心なり


「……先生?」


 三葉を抱く腕は確かに辰野隆宗のものだった。その表情は焦りや困惑に染まり、本人もよく状況がわかっていないようだ。


 辰野は三葉と間近で目が合うと、慌てて離れ距離をとった。熱いくらいの温もりが消え、そのことにちょっぴり寂しさを覚える。辰野は降参したように両手を上げ、視線を泳がせていた。


「申し訳ない。何かに襲われてるように見えて、それで、つい……」


 辰野の目尻は赤い。三葉はいろんな感情が込み上げて胸がいっぱいになった。心臓もドキドキして苦しい。でも一度目を閉じて落ち着けると、辰野に向かって笑いかけた。


「先生のおかげで助かりました。先生こそ何ともないですか?」

「俺は大丈夫だよ。それよりその子は」


 そう言われてはたと思い出した。三葉が肩を抱いていた男子学生は意識が戻ったのか、口をあんぐりと開けて三葉を凝視していた。気付けば知らない女子と密着しているのだからそんな表情にもなるだろう。


 三葉も急いで男子学生から離れ、ぺこりと頭を下げた。


「ごめんなさい。あなたが具合悪そうだったのでお節介を焼きました。気分はどうですか?」

「え? あ、あー、うん。平気」

「少し詰襟を開いてもいいですか?」

「へっ!?」


 男子学生の戸惑いを無視して、三葉は彼の制服へ手を伸ばした。思っていた通り、首すじには赤く不気味なアザがある。


「やっぱり……」


 どう説明をしようと思っていたところで、助けがやってきた。


「唯香ちゃん!」


 振り向けばこちらに駆けよる葵と諸星の姿がある。ふたりとも肩で息をしていて、ずいぶん急いでくれたようだ。


(よかった、もう大丈夫です)


 三葉はやっとひと息つけた気持ちになった。



 ◇



 男子学生の名前は平井翔真という。高校一年生で、家に帰る途中だったそうだ。駅付近から記憶が曖昧で、しっかりと意識を取り戻したのは辰野が来てからだった。


 しかし、葵から状況を説明してもらっても反応は思わしくなく、逃げるように帰ってしまった。本人の納得がなければ保護も難しい。素直に聞いてくれるのは本人が異変を感じ、助けを求める時ぐらいだろう。


「そんな顔しないで唯香ちゃん。俺の式をこっそり付けておいたから、何かあったらすぐ分かるよ」


 自分がどんな顔をしているか分からないけれど、葵がフォローするくらいにはヒドいのだろう。笑顔を作って見せると、葵も苦笑いを浮かべた。


「そうはそうと、こんな所で後輩に会えるとはね。名前、辰野だっけ」


 葵から声をかけられて辰野はぎこちない動きで頭を下げた。聞けば高校の時の後輩だそうだ。


「はい、辰野です。三葉さんの通う高校で数学の教師ををしていまして……その、お二人はお知り合いか何かで……?」


 辰野の顔がひきつっている。顔色が悪いのは先ほどの抱擁があるからなのだが、三葉はその事に気づいていない。


「いとこなんだよ。そうか、唯香ちゃんが言ってたのは辰野のことだったのか。なるほどね」


 意味ありげに笑う葵に三葉は慌てた。それでは自分がしょっちゅう辰野のことを話題にしているように思われる。「へんなこと言わないでください」と顔を赤くして抗議をするが、葵はまったく意に介さなかった。


「本当に久しぶりだね。大会の遠征先で地元のおばあちゃん達から差し入れをもらっていたのは今でも覚えてるよ」

「勘弁してください」


 辰野の神さまパワーは高校生の時から顕在のようだ。三葉はなんとなく高校生の辰野を思い浮かべてみた。けど、うまくできない。今より幼い辰野なんて想像ができないし、制服姿には違和感しかない。辰野にはやっぱりスーツが似合う。今は私服だけれど。


「俺はこの近くに住んでいるんですけど、出かけようと思って駅に来たら彼女を見かけて、それで……」


 しどろもどろな辰野に、葵は全てわかっているようにほほ笑み、頷いた。


「辰野。大変だろうけど、唯香ちゃんを頼むよ」

「……はい」


 葵も辰野もどんな意味でそう言ったのはかは分からない。でもその言葉の中心にいるのは自分で、三葉は恥ずかしさと嬉しさで胸がいっぱいになった。


「それにしても太三郎はお手柄だ。印の匂いを追えるなんてさすがだよ」


『けけっ、そうだろそうだろ。もっと褒めろ』


 キセルを咥えた横柄なたぬきがふんぞり返る。尻尾がゆらゆらと揺れているので満更でもなさそうだ。


「うん、太三郎はすごい式神だよ。だから唯香ちゃん、少し太三郎を連れて構わないかな」

「はい。お役に立てるならぜひ」


『お、おい、ちょっと待て唯香!』


 まさか太三郎の嗅覚がこんなに効くとは三葉も思っていなかったのだ。事件の解決につながるならぜひとも頑張ってほしい。他人の言うことは聞かないが、葵と要ならば太三郎も従う。彼らの力が強いのは当然のこと、血がつながっているのもあるだろう。


「太三郎、葵兄さんと一緒に事件の手がかりを探って。できるよね? 美味しいもの用意して待ってる」


 藁田の不安そうな顔が頭に浮かぶ。先ほど見た触手のようなものは突如として現れ、獲物を狙っている。早く安心させてやりたい。


『…………だぁーっクソ!! ほらとっとと行くぞ葵!!』


 ぷんすかする化け狸を連れて去る葵たちを見送る。あとに残されたのは三葉と辰野のふたりだけで、なんとなく気まずい空気が流れた。口火を切ったのは辰野だった。


「三葉は、このあと出雲さんのところへ行くのか」


 え、と思わず口から漏れる。


「どうしてそれをご存じなんですか」

「俺も出雲さんから呼ばれたんだ。最初は断ったんだけど、なんていうか、三葉も来るからって言われて……」


 辰野は言いづらそうに頭をかく。その時、ちょうど電車がやってきた。これに乗ればOCRのある近場の駅まで行くことができる。


「……電車、乗ります?」

「そうだな」


 乗客はそんなに多くない。ふたりは一緒に乗り込んで近くのシートへ腰を降ろした。わずかに距離は空いている。動き出した電車に揺られても肩をぶつける心配はない。


 この事態がにわかに信じられず三葉は黙って前を向いていた。隣を意識しないよう動く景色を眺めていると、辰野が声をかけてきた。


「こないだはごめんな。嫌な気分にさせたよな」


 一瞬何のことか分からなかった。しかしカフェでのことだと察すると三葉も慌てて謝罪をする。


「いいえ! 私こそ、すみませんでした。あんな不躾なこと……」

「いや、ほんとに助かったよ。別に出雲さんが苦手ってことじゃないんだけど、あの時は少し困っていたから」


 そうですか。そう三葉が小さく答えれば、またふたりは無言になった。


 ふたり並んで揺られている。共通の目的地を目指して移動している。学校でも授業でもなく、プライベートでふたりきりで。三葉は嬉しいのと同時に怖かった。すごくいけない事をしている気持ちになる。それは辰野も一緒のようで、彼の顔はずっと強張っていた。もしこれを誰かに見られて学校側に連絡がいったら? 事実はともかく、辰野は非常に困ったことになるのではないか。


 それなのに、辰野は助けてくれた。


 それだけで三葉は顔から湯気が出そうだった。思い出すのは抱きしめられた圧迫感とほのかな柔軟剤の香り。救助の意味合いが全てだったとしても、その腕に抱かれたのは本物だ。下を向いて熱をやり過ごしていると、また辰野から話しかけられた。


「あの……俺さ、三葉へのお礼をずっと考えてたんだけど、やっぱり思いつかなくて。本人に聞くのも相当マヌケと思うけど、よかったら何がいいか教えてくれないか」


 怪異から救ってくれたお礼をとのことらしい。

 三葉の胸がまた熱くなる。


「……考える時間、もらってもいいですか?」

「ああ。手間をかけさせてごめんな」


 辰野が申し訳なさそうに笑った。

 それを見て、三葉は確信してしまった。

 ああ、この人が好き。


「ほんとは」


 赤い顔をごまかす為に下を向いて口を開く。この気持ちを知られたくはなかった。


「お礼なんていらないです、っていうのが正解だと分かってます。そうじゃなくても、無難にケーキとかお菓子とか言えば、先生は困らないって分かってるんです。……でも、」


 秘めたいと思うのと同じくらい。


「そういうので終わらせたくないなって、思っちゃって」


 気づいちゃえばいいのに、と考えてしまう自分がいる。


「だから待っていてください」


 強がって笑ってみせた。

 今はこれが精いっぱいだった。


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