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絶対最強女子高生 〜わたし陰陽師ってやつです。先生、式神になってくれません?  作者: 猫の玉三郎
我こそは神なり

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三十一話 赤子は無垢なり

 陰陽師のひとり、山内(やまうち)香苗(かなえ)は護符の作り手として非常に高い能力を持っている。二十代半ばで栗色の髪をうしろで結び、ブラウスにスカートという出で立ちだ。


「はい、これでいいわ」

「あ、ありがとうござい、ます」


 山内は特殊なインクに小筆を浸し、赤いアザを囲むように不思議な文字や模様を藁田の肌へ描いていった。森ノ宮の見立てでは、これは悪霊につけられた目印のようなものらしい。


 山内が施したのは、その目印をできる限り薄くするものだという。低位の霊ならば消えたも同然なのだが、強い力を持つ怪異ならその残滓を嗅ぎつけるかもしれない。問題があるとすれば、タトゥーに見えて悪目立ちしてしまうことだろう。


「不安だと思うけど、気をしっかりもってね。大丈夫だよ、わたし達がサポートするからね」

「……はい。ありがとうございます」


 気遣うように笑いかける山内。藁田はぺこりと頭をさげた。気分はだいぶ落ち着いたようだ。


 事態が治まるまで藁田はこの紅文館に泊まることになった。常に陰陽師と準士が付き添い、彼女の安全を確保する。そして雅人が残した『釘ピアスの男』は警察でも調べてくれるとのことだった。人探しや周囲への聞き込みは彼らが適任だろう。


 それも踏まえて葛葉要は指示を出した。後方支援の面が強い山内と森ノ宮はこの紅文館に残り、藁田を守り他のメンバーとの連絡中継を担う。


 そして攻撃が専門の者と捕縛ができる者をペアにして例の男の捜索をすることになった。葵と要は由緒正しき陰陽師らしく、式を操ったり結界をはることを得意としている。つまりは捕縛の係である。三葉はもちろん攻撃に特化した陰陽師だが、未成年であることを考慮して交代要員として名前が入っていた。


 ずっと紅文館にこもっているわけにもいかず、三葉は一度外へ出ることにした。あのOCRの出雲から報告があると呼び出されているのだ。車で送迎してくれるのでそのままOCRへ向かってもよかったのだが、先日藁田と一緒にいたショッピングセンター付近で下ろしてもらう。本格的に探すのは葵たちに任せるが、三葉もできる限り力になりたかった。


 あくまで軽く、普段の行動のなかで少しだけ意識する。そう自分に言い聞かせ、駅を目指して歩きながら三葉は周囲へアンテナを巡らせた。


 今の時点では深追い厳禁だ。もし見つけたらすぐに連絡を入れて指示に従う。目印をつけることができたらなお良い。その点はマダラ姫がいれば心強い。一度ターゲットとして狙いをつければ、その千里眼で追うことができるのだ。


 すれ違う男性の耳元を確認しながらゆっくりと歩く。雅人が言った釘ピアスがどういう形状かイマイチわからないが、耳に釘が刺さっていると思えばいい。そんな怖いものを着けている人がいれば嫌でも目に入るだろう。


『おい、唯香』


 姿を現したのは式神のひとり、化け狸の太三郎だ。険しい眼付きでくんくんと鼻を鳴らしている。


『匂うぜ。藁田の嬢ちゃんと同じ、くっせー匂いだ』


 その言葉を聞いた瞬間、三葉はポケットからスマートフォンを取り出して電話をかけた。残念ながら要にはつながらず、次に葵へコール音を響かせる。


『もしもし、どうかした?』


「葵兄さん、太三郎が嗅ぎつけました。藁田さんと同じ匂いだそうです。要伯父さまには電話しましたけど繋がりませんでした」


『わかった。通話はこのままで匂いを辿れる? 無理はしなくていい。それと今いる場所を教えてくれ。すぐに向かうよ』


 三葉は場所を伝えると、太三郎に目配せをして匂いの元を探っていく。相手も移動しているようでなかなか掴めない。


「駅の中に入りました。電車の乗客かもしれません。改札口を抜けます」


 二番ホームに上がると、もうすぐ電車が到着する所だった。


『アイツだ!』


 太三郎が叫んだところで電車がすぐ目の前に止まり、開いたドアから乗客が流れていく。


「目標が電車に乗りました。追うので通話を一旦切りますね」


 乗り込んだ電車はさほど混雑していないのですぐに見つかった。詰襟の学生服を着た高校生くらいの男の子だ。塾の帰りだろうか。三葉は少し離れたところに座り、様子を探った。


 耳をみてもピアスは見当たらなかった。そんなに邪悪な雰囲気もなく、いたって普通の男子学生のようだ。ただ、どこかぼんやりと宙を見つめている。その様子が藁田と重なった。


 そもそも釘ピアスの男はどんな存在なのだろう。人間なのか、人間のフリをしたナニカなのか。男が事件とどう関係しているのかもわかっていない。


『なあ、アイツも印付けられてるんじゃねえか?』


 三葉もその可能性が高いと思う。

 もしそうなら怪異の手が伸びる前に保護をしたい。観察しながら状況を葵へメッセージで送った。


 もうすぐ次の駅に着くかという頃、ふいに空気が変わった。次元が開くときと似た気持ち悪いものだ。素早く周囲を見回すが、異変を感じたのは男子学生の周りからだった。


 近寄ろうと腰を浮かせた瞬間に彼の周囲が歪み、突如として一本の黒い触手のようなものが現れた。三葉は反射的に印を結び、口の中で小さく緊縛の呪文を唱える。黒い触手はびくりと震えて動きを止めるが、引っ込む様子もない。


「太三郎」


『へいへい』


 太三郎は固まっている黒い触手に飛びつくと、鋭い牙を突き立てた。ガタンガタンと揺れる走行中の車内、三葉は周囲の目も気にせずに男子学生へ駆けよる。腕にふれ「六根清浄」と唱えると自分と男子学生の周りにわずかな結界を張った。何もしないよりはマシだろう。彼の意識はすでに朦朧としていて、何が起こっているのか理解していないようだった。他人が見たら具合が悪い彼を三葉が介抱しているように見えるかもしれない。


 太三郎は頭を振りタコの足でも食いちぎるかのように黒い触手をなぶり捨てる。触手の根本はズズズと次元の隙間へと後退していくようだ。


 電車が停止してプシューとドアが開いた。三葉は男子学生を立たせ、電車から降りるために急いで足を動かす。怪異に背中を向けるなんて褒められることではないがそうも言っていられない。意識だけはしっかり背後に向けたまま、コンクリートのホームに降り立った。


 ——まもなく、ドアが閉まります。


 ざらついたアナウンスが頭上で流れる。太三郎は匂いと言っていたが、あの触手もそれを目印にして獲物を追っているのかもしれない。だとしたら一刻も早く紅文館へ連れて行かないと。あるいは、葵や要と合流すれば。


 まだ意識がはっきりしていない男子学生の肩を強く抱いた。少しだけ早足の心臓を無視して、三葉は連絡するべく再びスマートフォンを手にしたその瞬間だった。


 背後で何かが猛スピードで這いよる音。


 振り向いた先で視界を埋めるのは、大きく口を開けたような触手のおぞましい黒だった。



「三葉!!」



 突然まっ暗になってきつく抱きしめられる感触。バチンと弾けた音が聞こえ、不気味の気配が霧散した。それと同時に神聖で清らかな空気に包まれる。


 一拍おいて浅く呼吸をすれば柔軟剤のほのかな香りが胸に満ちた。どうやら頭を強く抱かれているらしく、トクトクと小さな鼓動が伝わってくる。何より聞いたことのある声に、全身が熱を持ちはじめてきた。


「……先生?」


 よじって顔を上げたそこには、確かに辰野隆宗がいた。

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