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絶対最強女子高生 〜わたし陰陽師ってやつです。先生、式神になってくれません?  作者: 猫の玉三郎
冥府の嫁御寮

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二十五話 為終えるは冥婚譚

 

「もしもし、三葉か?」


 ひと気ない校舎裏までくると辰野は急いで電話をかけた。三葉は明るい声ですぐに出てくれたが、反対に辰野は重い口調で説明を求めた。三葉はあの封筒がどういうものであるのか、今朝渡瀬に書かせたものにどういう意味があったのか、丁寧に説明をした。


 あの離縁状は江戸時代などに使われていた形式で、離別状、去状(さりじょう)暇状(いとまじょう)とも呼ばれ、内容が約三行半で書いてある為に三行半(みくだりはん)と称されることがあった。


 本来は一方的に突きつけるものではないが、離別の意思を伝えるための形式としてばっちりだったという。お金を入れたのはこちらからの一方的な申し出による慰謝料だ。


 三行半の最後にある『再縁(さいえん)改嫁(かいか)のこと心任せに』は、離婚したのであなたはまた好きな相手とご縁を結んでくださいという意味だ。渡瀬とは縁が切れ、あの霊はフリーとなった。きっと次の夫に拾われるのを待っている。


『なのであの封筒は男の人が触っちゃダメなんですよ。拾うとあの霊に見染められて、渡瀬さんのようになります』


「だから三葉が取りに来るのか?」

「……それがいいかなと思って」


 咎めるような口調に拒否の匂いを嗅ぎ取ったのか、三葉の声がだんだんと萎んでいく。せっかくの好意を蹴り払っている気がして辰野の胸がぎりぎりと痛んだ。冷たくしたいわけじゃない。だが——


「三葉が俺の住んでいる所に来るのはよくないと思う。他にいい方法があると思うんだ」


 三葉はすぐ答えず、沈黙が降りた。それでまた罪悪感がむくむくと膨れ上がり、無言の空気に耐えきれずについ言葉が口をついた。


「あ、いや、君のことが迷惑とかそんなんじゃないんだ。むしろ助けてくれて感謝している。三葉やその知り合いの人にも何かお礼をと考えているし、本当に、その……」


 言葉がうまく出ずにいると、三葉が「はい」と小さく答えた。わかっているとでも言いたげで、電話の向こう側で彼女が柔らかくほほ笑んでいるのが伝わってきた。そうさせている気がしてまた胸が痛む。


「君は生徒で、俺は先生だ。線引きは大事だし、そんな危ないものを君に持たせたくない。わかってくれ三葉」


 また、「はい」と返事が聞こえた。さっきよりも小さくて消え入りそうな声だった。辰野はぐっと息を飲みこんだ。何を言っても三葉を傷つけそうで、結局言葉は出てこなかった。


『じゃあ、わたしの代わりに……別の人に行ってもらってもいいですか? その封筒を研究したいっていう人たちがいるんです』


 その言い方に、前に三葉が言っていた『陰陽寮』の存在を思い出した。ねじ曲げられたこの世の(ことわり)正し、そこに所属する術師を陰陽師と呼ぶ。


『先生も……その、大人のお姉さんの方が……』


 考えごとをしていてうまく聞き取れなかった。聞き返しても三葉は拗ねたようにして教えてくれない。


『とにかく、その人が何か言ってきても絶対に間に受けないでくださいね』


 機嫌を損ねることは言った自覚があるので、辰野は素直にわかったと答えた。そこで会話が途切れる。


 それじゃあ、と三葉が通話を終わらせようとした。


「三葉」


 辰野はそれを引き止める。


「お礼がしたいんだ。また連絡するよ」


 じゃあ、ありがとう。言ってから辰野はそそくさと通話を切った。返事を聞くのが怖かったからだ。


 前のこともあるし、どこかでお礼をしなくちゃいけないと思っていた。それがどういうものか今はまったく想像できないが、このご時世、直接渡さずともできることはあるだろう。


(でも、また連絡するとか……俺はバカか)


 顔が熱くて、とてもじゃないが今は職員室に戻れない。遠回りして帰ろう。そう思って辰野はふらりと歩きだした。


 時同じくして、三葉はスマホを胸に抱いて道端にうずくまっていた。顔をりんごのように赤くして「……ずるい」と小さくうめいていた。



 ◇



「OCRから来ました出雲です」


 夜も遅くに三葉が言っていた人物が辰野のアパートへやってきた。辰野より少し年上であろう女性だった。玄関先で渡された名刺の文字を目で追う。


 Occult & Curse item Research center

 研究員

 出雲(いずも) 陽子(ようこ)


「ここに呪物があると聞いたんですけど、あなたが辰野隆宗さん?」

「は、はい」


 白衣の中には体のラインをなぞるような薄いサマーセーター、それに膝丈のペンシルスカートだ。胸の双丘がしっかりセーターを押し上げ、細いウエストにすらりとした足。グラビアアイドルのようなスタイルに辰野は目を泳がせた。顔は顔で知的な美人といった感じで、どこを見ても失礼になりそうで目のやり場に困る。


「うわぁ」と赤面しながら声を漏らしたのは渡瀬だ。


「夜更けにすみません。例の呪物を頂いたらすぐに帰りますわ」


 にっこり笑う出雲はウブな男性には刺激が強すぎて、辰野はカクカクしながら封筒が置いてあるテーブルまで案内した。三葉の言いつけを守って封筒には指一本触れていない。


 出雲は興味深そうに眺めると、ゴム手袋をはめ、封筒を手に取るとチャック付きのポリ袋の中へ入れる。作業はそれだけだった。


「あの、出雲さんは三葉とどういうご関係で……」

「仕事仲間みたいなものです。それより、隆宗さん」


 出雲の細い指先が辰野の胸あたりをすっと撫でた。


「珍しいお体をしてますね……」


 赤い唇が弧を描く様がとても艶っぽくて、辰野は身動きがとれなかった。まるで蛇に睨まれたカエルのようだ。出雲が耳元にすっと唇を近づけると吐息混じりの声が辰野の耳をくすぐった。


「その体、隅々まで調べさせて頂けるなら、お礼はたっぷり弾みますわ」


 意味ありげなウインクを送ると、出雲は踵を返し帰っていった。精気をごっそりもっていかれた気分で、渡瀬と二人してへなへなと床に座り込む。


「すごい人だったな……」


 夢心地でぽつりとこぼす渡瀬。確かにそんな迫力があった。しかし惹かれるよりも怖いという気持ちが勝つ。警戒したほうがいいと本能が言っている。それは艶美な女性を前にした男の情けない心情か、あるいはもっと別のものか。どちらにしてもできればもう関わりたくないと辰野は思った。


 こうして渡瀬と共に転がり込んだ冥婚騒動は終わりを告げる。


 この日以降、どこからともなくひとつ都市伝説が聞こえるようになった。それは鶴の描かれた白い封筒を拾うと女の霊にとり憑かれる「つるよめご」というもので、もし拾ってしまったら白い紙に三本半の線を書き、お金と一緒にその紙を封筒にいれると回避できるらしい。


 なぜ三本半の線なのか。これには諸説あるが、主に江戸時代に活用された離縁状に、文字の書けない者が三本と半分の線を書いたことに由来するのではと囁かれている。

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