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絶対最強女子高生 〜わたし陰陽師ってやつです。先生、式神になってくれません?  作者: 猫の玉三郎
冥府の嫁御寮

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二十話 のぞき視るは因果

 辰野が職員室で帰る準備をしている頃、三葉と雅人は近くの大きな運動公園に来ていた。まだ空は充分に明るく、ジョギングやウォーキングする大人があちこちにいる。


「ほら、唯香! こっちだ!」


 言われるがまま、三葉は死んだ目でフリスビーを投げる。もう何投したかわからず、腕が悲鳴をあげていた。ひゅーんと大きな孤を描くとフリスビーは雅人が見事キャッチし、そしてものすごくいい笑顔で駆け寄ると三葉にフリスビーを手渡す。


「唯香、もう三十回連続成功だぞ。すごいだろ、撫でろ!」


 三葉は「すごいです」と蚊の鳴くような声を出して雅人の頭を撫でた。黒髪のさらりとした感触がする。雅人は満足そうに頷くと、まぶしい笑顔を浮かべながら元の位置へ戻っていった。


 もう一時間は遊んだだろうか。雅人との約束は指三つ、つまり三時間だ。あと二時間は雅人に付き合って遊ばないといけない。


 雅人はサイコメトリの使い手だ。触れれば望む望まないに関わらず思念を読み取ってしまうので、それを防止するために常に黒い手袋を身に付けている。そして同じ理由で他人から触れられることを極端に嫌っていた。誰だって他人の思考など読みたくはない。気味悪いと思いながらもその力を利用する大人など、特に。


 連続三十一回目も成功で、雅人はまた撫でろと三葉に迫る。


「ちょっと、しっかり撫でなよ唯香。きみは僕に触れてもいい数少ない人間なんだからね。もっと光栄に思うべきだ」


 そうは言っても絵面がシュールすぎる。周りの視線が痛い。雅人がフリスビーをキャッチして駆け寄り三葉に撫でさせる。もはや犬との戯れだ。三葉の心ががしがし削れていく。


 雅人がいうには三葉には霊能力のバリアみたいなものがあって触れてもサイコメトリできないそうだ。普段は他人に触れさせない雅人だが、三葉などにはその欲求が屈折し、むしろ撫でてほしいと構い倒してくる。悪い人ではないのだが、気の済むまで付き合うと心身ともにヘロヘロになってしまうので三葉としては積極的に関わりたい相手ではなかった。


「なんだ、疲れたのか? まったく仕方のないやつだ。ほら、あそこのベンチに座るぞ」


 キラキラした笑顔を向けられる。そう、悪い人ではないのだ。能力を思えば自衛をするのは当たり前だし、ハメを外すのだって自分を含めたごく一部にだけ。三葉も式神を見ることができる人がいてくれたらすごく嬉しいし、友だちになりたいと思うだろう。三葉たちの世界では真の意味で理解者と言える人は少ないのだから。


 三葉の脳裏にふと辰野の顔が浮かんだ。困ったように笑う彼の姿に、心がきゅっとなる。


「ほら行くぞ」


 雅人が三葉の手をとって歩き出した。


「ああ、ついでに唯香の頼みも聞いておこうか。品物は持ってきてるんだろ?」

「あ、はい。あります」

「知り合いが霊に憑かれてるんだって? こんなまどろっこしいことしなくても君ならすぐ滅せるだろう」

「……滅するのは最終手段ですよ。意思疎通を試みて、執念を解いてあげられるならそれが一番です」


 辰野もそういう頼みはしてこなかった。誰か紹介してくれと言われただけで、三葉にどうこうしてほしい気持ちは一切ないようだった。得意分野なのに、それが少し寂しい。


 西日を背にしてベンチに座ると、地面に長い影ができた。伸びきった黒いシルエットが二つ仲良く並んでいる。


「知ってると思うけど、僕が視れるのは持ち主視点の情報だけだ。聞きたいことは多くても三つに絞ってくれ。じゃないと延々と見続けることになって僕の脳がイカれる」


 頷いて、自分のバッグからハンカチの入った紙袋を取り出した。


「……まず聞きたいのが、本当に心霊現象が起こっているかです。勘違いの可能性も充分あるので。それが本当だった場合、そのきっかけを」


 この二つをお願いします、と三葉は頭を下げた。


「あれ、霊が何者かは見なくていいの? 因縁とかしがらみとかさ、浄霊にはそういうの必須じゃん」


「でも霊の思念を読みとるのはイヤでしょう。現世に残るような未練はやっぱり生前のつらい記憶があるからだし、何より亡くなってます。……視ることは体験するのと一緒だって聞いたことあります。雅人くんにあんまり負担をかけたくないです」


 きっと悲しいし苦しい。だから二つで。そう言いきった三葉を見て、雅人は取り出したハンカチに手をかざす。目を閉じて流れてくる情報に意識を向けた。雅人の周りがピリピリとした空気になる。


「……そうだね。この持ち主は霊に付きまとわれてるとみて間違いない」


 目を閉じたまま雅人が言う。


「きっかけは……何か拾ってるな。ゴミが散乱した部屋で、白い何かを拾ってる。そんなに大きくない。手のひらくらいのサイズだ。でもこれ以上はわからない。たくさん拾ったゴミのひとつだからか、かなり不明瞭な映像だね。これは本人が意識してないのが原因なのか……」


 ぱちりと開いた瞳。黒く潤んだそこは面白いものを見たと言わんばかりに目が輝いている。


「あるいは、この世のモノではないからか」



 ◇



 辰野と合流したというのに渡瀬はなぜか落ち着かなさそうにソワソワしていた。怯えているというか、イタズラがバレそうな子どもみたいというか、本当に落ち着きがない。


「トイレか?」

「違うけど」


 じゃあなんだって言うんだ、と辰野は肩をすくめた。並んで歩くと渡瀬の方がいくらか背が低い。とは言え平均身長くらいはあるので、辰野の方が高いだけだ。渡瀬はちらちらと辰野を見ながら言いづらそうに口を開く。


「あのさ……入れたハズのない荷物がバッグに入ってたら、幽霊の仕業かな」

「うーん、怪談の定番ではあるよな。入れてないのに入ってる、捨てたのに戻ってきたはよく聞く」

「ひいっ」


 その反応、まさか。


「どういうことだ。そういえば、さっき電話言ってた拾うのなんのって言ってたよな」


 渡瀬が口を開こうとしたその時だった。どこからか女の声が聞こえたのは。


「隆宗……」

「しっ」


 立ち止まり腕にしがみつく渡瀬をよそに、辰野は辺りを見回した。場所はアパートまであと百メートルかという所だ。道の両脇にはアパートや戸建てが並んでいるが人通りは寂しい。西日で傾く影が濃い色をしていた。


『どこ……どこに……』


 あの人はどこにいるのか。そんなニュアンスに思えた。声がするだけで姿は見えない。この声も幻聴だと思いたいが、耳の奥に直接ねじ込んでいるようで気持ちが悪くなってくる。


『旦那さま……』


 きっと渡瀬を探している。辰野の隣にいるのだが、それは見えていないのだろう。気配だけを感じているのかもしれない。


 辰野の視線の先に、ぼんやりとした影が浮かび上がってきた。女のように思えた。それはふらふらと近づいて、辰野の前に立つ。ザーッとノイズが入ったように聴覚がおかしくなった。肌があわだつ。


『ドコに隠した』


 すぐ耳元で聞こえた。ひどく苛立った声音で、辰野に対して言ったように思えた。渡瀬は口を結び、顔を真っ青にして立ちすくんでいる。辰野自身もどうしていいかわからなかった。なにか、なにかないだろうか。口がからからに乾いて気持ちばかりが焦っていく。


 突然、とんと肩に何かが乗った感触があった。とても軽いのだが、視界の隅にはそこそこ大きくて黒いものが写っている。なんとなくカラスのようだが、これはいったい——


 間髪入れず「カアッ!」と大きくひと鳴きすると、女の影がたちどころに霧散した。同時に体の強張りが取れる。気付かないうちにガチガチに固まっていたらしい。


 それは羽ばたくと辰野の前に降り立つ。その脚は三本あり、いつか見た三葉の式神と同じ姿だった。

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