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絶対最強女子高生 〜わたし陰陽師ってやつです。先生、式神になってくれません?  作者: 猫の玉三郎
冥府の嫁御寮

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十五話 聞こえるは女の声

 江古田も無事に送り届けてさて帰ろうとしていた時、玄関口の近くで辰野に呼び止められた。


「ごめん、ちょっといいか」


 珍しいなと思いながらもちょっとだけ胸がドキドキする。先生が生徒に声をかけるのは普通のことなのに。そう頭では割り切っていても三葉は落ち着かない。小さい頃、憧れていた従兄弟を目の前にした時のようで、それが不思議でたまらなかった。


 辰野は呼び止めたもののなかなか話を切り出さなかった。言いかけて口をつぐみ、ハッとして周りを見渡す。人目をはばかって悪いことをするかのような様子で、三葉は首をかしげてしまう。そうすると辰野は「あー」「うー」と小さく唸り、観念したように口を開いた。


「……えーと、その、学業に関する話じゃないんだ」


 どう話そうかと迷っているようだった。


「怖いことがありました?」


 何気なしに聞くと辰野はぱっと顔を上げた。その頬には『どうして分かった』と書いてある。自分に用事があるならそれしかないだろうに、と思わず苦笑がもれる。詳しく話を聞こうとしたら廊下の奥から賑やかな話声が聞こえてきた。どこかの部活が終わってみんなで帰っているのだろう。


 しかし辰野はそれにびくりと肩を震わせると「ごめん、また今度話す!」と風のように去ってしまった。


「……なんだったんでしょう」


 結局なにもわからないまま、三葉は家路についたのだった。



 ◇



 辰野はげんなりとした気持ちで自分のアパートへ帰った。学校で嫌なことがあったからではなく、今から面倒なことが待ち受けているからだ。カードキーを差し込み玄関のドアを開けると「おかえりー!」と元気な声が部屋の奥から聞こえてきた。盛大にため息を吐きながら靴を脱ぐ。


「……お前にただいまって言いたくない」

「なんだよ照れんなって」


 出迎えながらにししと笑う男は辰野の友人で、名を 渡瀬智也(わたせともや)といった。二日前に辰野のアパートに乗り込んでそのまま居座っている大変迷惑な男であり、これこそ三葉に相談したい件の張本人だった。


 コンビニで買った夜ご飯をテーブルに置くと渡瀬が覗きこんでくる。


「まさか平日はコンビニ弁なわけ? そのうち体こわすぞ」

「しゃーない、夜はどうしても帰りが遅くなるんだよ。新人だから研修とかの準備もあるし」

「先生って大変だな」


 ぱきりと箸を割り、玉子焼きをつまむ。おいしそうな色をしているのに掴むと案外小さくて薄いので残念な気持ちになった。


「あ、お茶ついでやろうか。冷たいのでいい?」

「さんきゅ」


 渡瀬とは高校からの付き合いで一緒によく遊んでいた。明るくて素直、少々おバカなのがご愛嬌なのだが、この渡瀬という男は時おりトラブルメーカーとしての才能を発揮する困ったやつでもあった。


「そんで、話してくれた? 俺のこと」

「…………いや」

「なんでだよ! 俺が呪われたままでいいの!?」


 そうは言っても個人的な相談をいち生徒に持ちかけるのはどうなのか。まずいに決まっている。三葉はいい子だし、相談したら親身にのってくれると思う。だからこそ気が引けた。


「個人的な相談を生徒にするっておかしいだろ」

「いやいや隆宗が言ったんだからね、相談できそうな人がいるって」

「言ったけど……」


 いざ本人を目の前にしたら言えなかった。

 理由はわかっている。教師としての自分が思いっきりブレーキをかけたからだ。


「ふたりで話してるとこ誰かに見られて噂とか立てられたらどうする? 淫行教師って指差されて仕事クビになるの怖い……女子高生怖い……」


 両手で顔をおおってめそめそ泣き真似をした。そういうのが怖くて女子生徒への距離感は気を使ってたのに。ましてや三葉は客観的に見てかわいらしい子だし、モテもするだろう。近づくのはあまりにも危険だと本能が怯えるのだ。


「別にさ、そういう噂が出たって事実がなければ大丈夫でしょ。生徒から好かれても隆宗がきっちり線引きしとけばいい話だし。むしろそこまで考えてると逆に怖いよ。なんも後ろめたいことなきゃ堂々としていいじゃん」


 渡瀬は大まじめな顔でそういった。そこまできっぱり言い切られると安心する気持ちもある。そうかな、と自信なさげにつぶやくと渡瀬は笑って「そうさ」辰野の肩をばんばんと叩いた。一緒に不安も飛んでいくようだった。


「それよりもだ! 俺のとこに変な女が出てくるのを解決できなきゃ、隆宗のアパートに居座り続けるからな! 怖いもん!」


 感謝の気持ちがどこかへ飛んでいく。

 まじでコイツ殴ってやろうか。真剣にそう考えながら油のまわった唐揚げを口に入れる辰野であった。



 ◇



 その日の夜、すすり泣く女の声で目が覚めた。

 ぼんやりした頭で時間を見ると午前二時半だ。泣き声はさほど大きくないが、耳の奥に入りこむような不快さがある。


「お、おい、隆宗、アイツだ」


 床に転がる寝袋から渡瀬が心細い声をだした。女の声は部屋の外からのようだった。すり、すり、と何かを擦るような音は聞こえるが、中に入ってこようとはしない。


 渡瀬が怖いと言って転がり込んできたのが土曜の朝、つまり二日前で、これまでは何も起こらなかった。追いかけて来たのだろうか。だけど部屋の中には入ってこず、ああやってすすり泣く程度ですんでいる。これが渡瀬の家だったら中まで上がり込んで、さらに寝てる所に寄り添ってくるらしい。それも嬉しそうにくすくす笑いながら。


「……気にするな。寝よう。俺ねむい」


 聞こえはするけど無視しようと思えばできる大きさだ。


「む、無理だって、声聞こえるんだぜ」

「耳栓して」


 ころんと寝返りを打ち、薄い羽毛布団を頭からかぶって目を閉じた。渡瀬が何か言っているがよくわからない。明日も仕事なのでしっかり睡眠をとらないと、と自分に言い聞かせているうちに意識がとろんと溶けていく。


 辰野自身も少し前に怖い体験をしたのだが、あの時のバケモノよりは弱い気がする。だからこの部屋にいる間は大丈夫。なぜかそう思った。意識が落ちる前に一瞬浮かんだのは、三葉がバケモノと対峙している姿だった。


(……三葉……無理、するなよ)


 そして辰野は深い眠りに落ちていった。


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