おかわりさん
もぅ、いいかい。
まぁだ、だよ。
もぅ、いいかい。
まぁだ、だよ。
もぅ、いいかい。
もぅ、いいかい。
「ばぁか、一人でやってろ」
そう言うと、隣のショウコがくすくす笑った。
「ちょっと、かわいそうだね」
いい子ぶった、ヨシミが振り返る。
「じゃぁ、あんたが試せば」
「言っただけ、言っただけだよ、
ごめん、ごめんね、ナオミちゃん」
なら、言うなっての。
次はこいつかな、ターゲット。
「おかわりさん、来るかなぁ」
ショウコと繋いだ手を少し強く握る。
おかわりさんは小学校で流行っている噂だ。
4時44分44秒に○●公園で
ひとりでかくれんぼをすると現れるという、
「ユーレイ?オバケ?ヨーカイ?」
「もともとは人だったらしいよ」
とにかく、そういうもの。
そういう、悪くて、怖いもの。
「もぅ、いいかい」
小さいけど、まだ、メグミの声が聞こえる。
おかわりさんは返事をするらしい。
もぅ、いいかいに、
もぅ、いいよって。
ゆっくり、目を開けると、
おかわりさんが、
目の前に立っているんだって。
そして、
おかわりさんは連れて行っちゃう、
その子を。
おかわりさんに連れて行かれた子は
おかわりさんになって、
また新しい子を待っている。
そういう話。
トイレの花子さんとか、
口裂け女とか、そういうレベルの怖い話。
今日は4人で同じ髪型で学校にくるって
約束したのに、やぶったから。
ちょっとしたイジワル、いや、罰のつもり。
「あー、楽しい」
メグミは、
ひとりだと気づいたとき泣くだろうか。
「もぅ、いいかい」
メグミの真似をする、
少しお高くとまった声で。
「似てる似てる」
3人で笑う。
メグミが恩知らずだから悪いんだ。
せっかくグループにいれてあげたのに。
メグミは知らない、おかわりさんの噂を。
うちの生徒ならみんな知っているけど、
メグミは一ヶ月前に
転校してきたばかりだから。
「メグミちゃん、おかわりさんが
目の前にいても誰かわかんないかもね」
「明日、誰がいたか聞いてみよ」
じゃぁ、またね、と、
ショウコとヨシミに手をふる。
繋いだ手を放して、
手をふる姿が最後だったと、
一緒に遊んでいた女児の証言です。
「あぁ、連れて行かれちゃったんですね」
その女はけだるげに髪を掻き上げた。
「噂って、人間が作ったものですから」
そう言い警察官の脇を通り抜けて歩き出す。
「場所、時間、方法、名前とか、
人間が識別するためのものじゃないですか」
「杜若さん、どちらへ?」
「むこうはそんなもので識別しない」
カランコロンと、女の下駄が音を鳴らす。
スーツに下駄。
女の背を追いながら警察官は
自分が何をしているのか
わからなくなってくる。
「今回は方法があってたってことかな」
くるりと女が振り返る。
警察官はここが、公園だと今さら気がついた。
「むこうはね、自分を知っているか、
どうかで識別するんですよ」
いなくなった女児の捜索を
彼女とするように指示されていた。
スーツに下駄、右半分だけ長い髪、
女性にしては高い、自分と同じくらいの身長、
どうみても杜若という、
この女は普通ではない。
「やっかいでしょう、
知ってしまえば
知らなかった時にはもどれない。
伝染するんですよ、情報は」
「なんの話ですか」
「お兄さん、もぅいいかい、
って言ってみてください」
「…もぅ、いいかい」
「人間、知らなかった方が
良かったのにってことばかりですよ。
今回もいつもどおりの対策をしましょうか」
カランコロン、カランコロン、
杜若の下駄が鳴る。
「あぁ、そうだお兄さん、
おかわりさんって知っていますか」
私も友達の友達からきいたんだけどね
ねぇ、おかわりさんって知ってる?
ひとりでかくれんぼをしていると
あらわれるんだって。
もぅ、いいかい
もぅ、いいかい
もぅ、いいかい
もぅ、いいかい
って、4回唱えると、
もぅいいよ、って声がするの。
ひとりしかいないのに、だよ?
うん、それでね、
目を開けると、目の前に誰かがいるの。
それがおかわりさん。
おかわりさんをみたら、すぐに
おかわりさん、みーつけた!
って、言えば大丈夫なんだって。
もし、言えなかったらね、
言えなかったら……