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読み切りシリーズ

「最弱」だからと追放したけど、なんで上手くいかないんだろう。私は英雄なのに

作者: るーじ

この物語は、


「最弱」だからと追放されたけど、なんでだろう。私は治癒術師なのに


という短編の、別キャラ視点です。

先にそちらを読んでおくと、少しだけ違った見方が出来るかもしれません(。。


「お前は無能だ。邪魔だ。俺たちの足手まといだ。失せろ。顔も見たくない」


 冒険者ランク6に昇格した日の打ち上げパーティで、開口一番にクビを告げた。重荷も減ったし、これからは英雄への道を突き進むだけ。それが出来るメンバーだ。


「そうよね~。盾役はパーク君がしてくれるし、前衛火力は私が蹴ったり殴ったりすれば十分だし~。あとあと、遠距離攻撃はシャルちゃんとミルクがしてくれるからね~。うん。いらないねっ」


「中衛も出来ない。斥候も出来ない。邪魔」


「パーク君は、渡さない!」


 みんな同じ意見らしい。それは知っていた。みんなレイティアが居ることで不満に思っているから、こうしてキリのいいランク昇格の時にメンバー編成の切り替えをすると決めていた。

 足を使って敵を翻弄するコノマルは、もっと自由に動きたいっていつもぼやいていた。前衛三人だとコノマルにとっては『狭い』みたいだ。マイペースなコノマルは自由に動いている時が一番いい動きをしている。コノマルの火力が増せば、もっと早く敵を倒せるようになる。

 ミルクは高火力系の魔術師だ。細かいサポートよりも圧倒的な破壊力を重視する。ミルクの魔法は戦局をひっくり返す威力を持つ。その代わり、味方を巻き添えにする事も何度かあった。コノマルなら素早く敵から逃げるだろう。でも、レイティアじゃ無理だ。逃げる事も耐える事も出来ない。レイティアが居なくなれば、ミルクの火力を生かす機会が増えてくるから、やっぱりもっと早く敵を倒せるようになる。

 シャルポーラがレイティアの脱退に賛成だったのは、本当に意外だった。最近甘えてくる事が多いのも気になるけど、それはいいとして。レイティアと一番仲が良かったはずのシャルポーラがどうして、と思う。シャルポーラならレイティアの動きに合わせて矢を放つ事も多かったし、あの二人の連携で敵を倒す事も多かった。シャルポーラに関しては、レイティアが脱退するメリットが無いように思えた。けれど、他二人のメリットを考えたら、二人の連携が無くなってもプラスになるに違いない。


「うん。わかった。それじゃ、お元気で」


「失せろ」


「元気でね~」


「きっとどこかで輝けるはず。きっと」


「パーク君は私が幸せにする!」



 なるべく強い語調で、レイティアに言葉を投げかけた。まるで堪えた様子の無いレイティアの背中に、つい視線が奪われる。


「レイティアは、本当に強いな」


 知らず零れた言葉。それは紛れもなく、本音だ。今回のレイティア脱退は、パーティ全体を見ればプラスになる。それでも、レイティアが抜けた穴は大きい。その分、盾役として頑張らないといけない。もうレイティアはいない。敵の圧力を一人で受けないといけない。後衛の安全が自分にのしかかる。コノマルを蔑ろにするつもりはないけど、彼女は敵の注意を引き付けるよりアタッカーに専念した方が良いから、自然と盾役は一人で受け持つ事になる。胃が、痛い。


「パール君~。ほらほら、飲もうよ飲もうよ」


「そうだよ。今日は一杯ごちそうを食べるんだ! 明日から、思いっきり暴れるぞ~!」


「心配事は尽きない。でも、今は食べよう」


 みんな、それぞれのやり方で励ましてくれる。迷っていちゃダメ。前に進まないといけない。それは、わかっている。わかっているんだけど。


「ああ。今日は、目一杯騒ぐぞ!」


 おおー!と全員でカップを持ち上げる。そう、これでいい。これでいい、はずなんだ。




 翌日。いつもと同じように集まり、いつもと違うメンバーで森に向かう。ギルド専用の早馬車から降りると、それぞれの装備を点検し始める。


「確認する。俺が前に出て、敵を抑える。コノマルは自由に動いて良い。ただ、今までと連携の仕方が変わるから、自由にすると言っても最初は様子見程度でやってくれ。俺が陣形の中央に立つから、二人は陣形後方の左右に展開することになる。ミルクとシャルポーラは、今までと違う立ち位置になるから、攻撃するよりも新しい陣形に慣れることを重視しろ」


「は~い」


「わかったよ、パール君!」


「了解」


 今日のターゲットは、灰色大熊。高い身体能力が特徴の強敵だ。攻撃も、耐久性も、動きの速さも、全部が厄介だ。今の編成で勝てるかどうかは分からない。でも、これからはランク6の敵と戦うんだ。ランク5の灰色大熊相手に手間取るようでは、ランク降格もあり得る。無茶をして体を壊せば、冒険者引退もある。ああ、本当に胃が痛い。パーティ編成はもう二度としたくない。減るにしても、増えるにしても。



「はぁ、はぁ」


「うわー、思ったよりきっついね」


「パール君! はい、傷薬! 血が、血が出てる!」


「シャル、落ち着く。これくらいの怪我、今までもあった」


「でも、でも!」


 前衛の薄さ、盾役への負担増加。全部一人で対処できると、思い上がっていたのかもしれない。ランク5の魔物でも段違いの強さ、ではない。灰色大熊は群れないから、むしろ戦いやすいはずなんだ。群れが相手だとレイティアとコノマルで三方向を睨む防御陣形に切り替えることが出来た。今は、仮に出来たとしても2方向しか守れず、群れに囲まれたら後衛がつぶされる。


「今日は早い段階で切り上げる。安全を第一に、反省点を一つずつ潰していく。異論はあるか?」


「それでいいよ」


「わかったから、早く帰ってちゃんと手当てしようよ!」


「了解」


 ランク6最初の魔物討伐は、まだ日が高いうちに終わった。






「どうして、こうなったんだろう」


 数日が経過した。慣れない編成だから、と言い訳はできる。でも、残っているメンバーとの連携はそのまま。そのはずだった。本当に、甘い考えだった。人が減れば動きが変わる。負担も変わる。一人一人のすることが増えるから、今まで通りの動きは不可能だ。

 コノマルは今まで以上に動き回るようになった。自由に動けるから攻撃の頻度が増えるかと思えたけど、現実には攻撃の頻度は落ちている。特に戦闘が長引けば、連戦を続ければ、目に見えてコノマルの動きは悪くなった。コノマル自身もどうして動きが悪くなったのか分からないみたいだ。

 ミルクは殆ど戦闘に参加できていない。今までと違う位置から敵の動きを把握しないといけない、というだけじゃないらしい。コノマルが自由に動き過ぎて、魔法を放つタイミングが見つからないらしい。今までは盾役が攻撃を防ぐ、コノマルが攻撃して離脱する。この連携に後に魔法で攻撃していた。意図的に魔法を使うタイミングを作らないといけない。それはつまり、コノマルの自由な動きを制限することになる。それでいいのだろうか。

 シャルポーラはもっと酷かった。コノマルの自由さで攻撃し辛いのはミルクと同じだけど、何よりもレイティアとの連携が無くなったことが痛いみたいだ。新しい編成になってからまだ一度も、急所を攻撃できていない。命中率が落ちたのもある、攻撃頻度が落ちたのも理由の一つだ。けど、一番大きな原因は、彼女の不調だ。最近、眠れていないらしい。前まではレイティアと一緒に寝ていたらしい。朝まで眠れないこともあるし、ランク6初日の夜は大きな悲鳴を上げていた。話を聞いても、「大丈夫だから」の一点張り。コノマルたちが事情を聴いても、話してくれなかったみたいだ。彼女の眼の隈が濃くなるにつれ、無力感も増していく。



 レイティアの不在が原因で、パーティが崩壊している。その現実に向き合わないといけないけど、向き合ってもどうしたらいいのか分からない。一つだけ確かなことは、今のまま魔物討伐をしていると、そう遠くない未来、下手をすれば今日にでもパーティは全滅する。

 炭を噛みしめる思いで、パーティ活動の休止を他の三人に伝えた。


 久しぶりに一人で依頼を受けようと思った。気分転換がしたい。少しでも自信を取り戻したい。初心に帰れば、解決方法が見つかるかもしれない。輝かしい未来を追う気力がわかない。せめて、暖かな日常に還りたい。この悪夢のような日々から抜け出したい。

 良い狩場はないかとギルドの受付に着くと、冷たい笑顔が待っていた。


「あら、ランク6に昇格したのに、もう活動休止? 良い身分じゃない」


「ははは。そう、ですね。本当、身の丈に合わないランク程、厄介な物はないですね」


「考えなしの自覚はあったのかしら?」


「考えた結果でした。独りよがりの、はた迷惑な考えでしたけどね」


「まぁ今のこの独りよがりも、はた迷惑だけどね」


 鋭い言葉がダガーの様に刺さる。泣いてしまいたい。けど、ここで泣くことだけは絶対にしてはいけない。卑怯者、では済まされないほどの愚行だからだ。泣いては、いけない。


「ソロで狩れる場所は幾つありますか」


「あなたにはないわね。盾役しかできないのでしょう?」


「そうですね。では、採取依頼はありますか?」


 受付の人が数度瞬きをして、会話が途切れる。


「そう、ね。傷薬の薬草採取が数件。香草採取も2件あるわ。ただ、薬草採取の中には森に入るものもあるし、香草採取は森の依頼しかないわ。どうするの?」


「森に入らない薬草依頼の方で」


「常設板に貼ってあるわ。詳しくはそちらを見なさい」


「はい。ありがとうございました」


 もう受付の人の顔もろくに見ることが出来ない。間違いが無いように採取する薬草を確認して、仕事に行こう。



 基本的に村や町から遠い場所ほど強い魔物が現れる。いや、逆だ。手ごわい魔物が居ない場所に、人が住んでいるだけだ。だからこの町の周囲は、弱い魔物しかいない。その弱い魔物も、あまり遭遇しない。町周辺の狩りで生計を立てる冒険者のお陰だ。当の本人たちからすれば、どうなんだろう。狩りの獲物が少なくて嘆いているのか、群れに囲まれる心配が無くて喜んでいるのか。仮に参加できるようになったら、わかるのかな。


「ランク6になって周辺狩りなんてしたら、ただの笑い話だね」


 輝かしい未来は、ランク6に上がるまでは遠くに見えていた気がしたのに、今ではその方向さえ分からなくなってしまった。道に迷ったときは、闇雲に動いてはいけない。冒険者の鉄則だ。そんなことさえ、忘れていたんだな、と思うと笑いがこみ上げてくる。ああ、本当に、最低だ。


 薬草採取に重い鎧は要らない。チェーンメイルの上に外套を羽織って、盾と剣、あと採取のためだけに購入した大きな荷袋を手に草原を歩く。冒険者に成りたての頃は、よく草原を歩いて切り傷を作っていたなぁと思い出す。草原を怪我無く歩くことが出来て初めて、森を歩いていい。昔、冒険者だった人から聞いた話は、今でも息づいている。あの人は、今も村で元気に暮らしているだろうか。


「きっと昼頃に狩りを終わりにして、お酒でも飲んでいそうだ」


 太い腕と豪快な笑い声。絵本に出てくる英雄も、きっとこんな人なんだろう。そう思えるほど、あの人は冒険者らしい冒険者だった。今の自分とは、大違いだ。


「ああ、でも。きっと、誰にも見つからない所で、一杯努力をしていたんだろうなぁ。そうじゃなきゃ、あの体は維持できないしね」


 冒険者に成ったから分かる。あの分厚い筋肉は、ただの飲んだくれの酔っぱらいが持つものじゃない。現役の、上位ランクを目指す前衛の筋肉だ。あの人は自分の強さを誇らず、冒険者の夢も追わず、今もあの村を守っているに違いない。ああ、駄目だ。もう泣いてしまいそうだ。


「出来る事を積み上げる。竈作りと同じだ。土台を安定させないと、安定した土台を作らないと、竈は作れない」


 竈が壊れたなら、直そう。崩れたなら、積み直そう。どうしようもなくなったら、一度全部崩して一から積み上げよう。大丈夫。歩いていけば家には帰れる。そこから、また行きたい場所を目指そう。





 ランク6になってから半月が経過した。もうパーティは実質崩壊している。

 最近は、ギルドに入るだけで舌打ちも聞こえる。辛い。でも、辛いと口にしてはいけない。事の発端は、レイティアを脱退させたことにある。レイティアの意志を殆ど無視して断行したパーティ編成の結果を、彼女に押し付けるような事はしてはいけない。ただの外道に成り下がる。そうなってしまえば、もう故郷に帰る事さえ出来ない。


 コノマルは他の人と臨時パーティを組んで狩りに行っているらしい。成果はあまり上がっていないみたいだけど。自由奔放過ぎる彼女に誰もついていけず、直接かギルドを経由して苦情が入ってくる。彼女も彼女なりに試行錯誤をしているようだけど、上手くいっていないみたいだ。何度かコノマルと二人で狩りをしたけど、草原はそもそもコノマル一人で簡単に狩れるし、森の方だと森灰狼三頭ぐらいなら押し切れるけど、それ以上の数になると数に押し切られてしまい負傷が多くなる。森の浅い所でなら何とか狩りが出来るので、彼女と組むときはギリギリ黒字の成果を出せる。


 ミルクはかなり危なかっしい。彼女は魔術師としての基礎を積んでいるようで、狩りに行かないときは薬草採取や簡単な傷薬の精製で生活費を稼いでいる。問題なのは、狩りの方だ。彼女の性格と話し方では、臨時パーティを組むことはとても難しい。だからソロ狩りをするのだけど、後衛の彼女でソロ狩りは非常に難しい。それなのにミルクは何度かソロで森に狩りに向かった事があり、森灰狼の群れの餌になるところをコノマルと二人で助け出した事もあった。ごめんとだけ謝ったミルクにコノマルが掴みかかったけど、喧嘩にはならなかった。ミルクも、試行錯誤をしているみたいだ。不器用なミルクは、誰かを魔法に巻き込みたくないから、誰にも迷惑をかけずに練習をしたかったみたいだ。


 一番の問題が重いのは、シャルポーラだ。不眠は続き、夜中の悲鳴も頻度が増えている。コノマルやミルクが一緒に寝るようになったお陰でたまに眠れているようだけど、今度はコノマルとミルクが眠れなくなっている。いつ悲鳴で起こされるか分からないので、睡眠が浅くなっているみたいだ。一度もシャルポーラと一緒に寝たことがないからその辛さはわからないし、その事で二人が恨めしそうに睨んでくることもある。シャルポーラにこんな事情があったのなら教えてくれれば良かったのに、なんて身勝手な恨み言も湧いてきてしまう。そして、自己嫌悪するし、怖くもなる。いつか自己嫌悪さえしなくなったら、どうなってしまうんだろう。自分は最低だ、と思っていたのに。まだまだ自分を嫌いになる要素が増えて行くなんて、もう笑い話だよ。本当に、笑い飛ばせたら良いんだけど。

 ああ、もちろんこんな状態のシャルポーラが冒険者として活動する事は出来なくて、もうずっとシャルポーラは部屋の中で過ごしている。彼女が稼げない分、他のメンバーで生活費を多く稼ごうとするから、余計に無茶をして危ない目に合う。シャルポーラも自分のせいでみんなが危険な目に合っているのは分かっているから、何時も謝ってばかりいる。シャルポーラの自然な笑顔を最後に見たのは何時だったかな。もう思い出せない。いや、嘘だ。思い出せる。レイティアと一緒に、良く笑い合っていた。そう言えば、どうしてシャルポーラはレイティアの脱退に賛成していたんだろう。あんなに仲が良かったのに。



 もう限界だ。ううん、限界に来ていたのに騙し騙し活動を続けていただけかもしれない。でも、もう無理。

 コノマルは無茶な攻勢が悪く働いて、手痛い反撃を受けて重傷を負ってしまった。治療費は出せるけど、心の問題は別だ。コノマルは自信を失ってしまい、自棄になっている。酷い話になるけど、長期治療をさせて心を落ち着かせないといけない、かもしれない。この判断も間違っているのかな。もう、わからないや。

 ミルクは魔法が使えなくなってしまった。三人で狩りに行くようになったけど、焦りから魔法を使うタイミングが早くて、味方を巻き添えにしてしまうことが何度もあった。コノマルとミルクが言い争いをして、関係が険悪になっていく。仲裁をしても、関係は元に戻らない。コノマルは自由に動くというより闇雲に駆け回っているし、ミルクは敵味方の動きを見てタイミングを計っているけど失敗ばかりして、躊躇する回数が増えると討伐速度が下がって前衛の危険が増す。パーティ内の問題点はもうわかっているけど、解決方法がわからなくて、お互いに傷つけ合っている。そうしてある日、ミルクは魔法が使えなくなってしまった。シャルポーラの隣で傷薬の精製をしながら生活費の足しにしている。ああ、そうだ。狩りで稼いだ生活費を渡す時、ごめんなさいを言う声が二つになったんだったね。シャルポーラが狩りに行けなくなった初日はコノマルも悪態をついていたけど、もうそれもなくなってしまった。


 シャルポーラ? うん、彼女は最初から限界だったのかもしれない。けれどここ数日は、状態が悪化している。そんな気がする。彼女はここ数日、レイティアとの思い出話をするようになった。思い出話をしている間は、少しだけ笑顔が戻ってきている。それだけを見れば、状況が良くなっているように見えるけどね。ミルクを含め、今のパーティメンバーとの会話は無くなってしまった。まるでレイティアと二人だけの世界に閉じ籠ってしまったみたいだ。

 ミルクは何も言わない。パーティメンバーの中で一番教養があるミルクには、何かわかっているのかもしれない。何度聞いても、泣きそうな顔で首を横に振るだけだった。コノマルも最初の内はシャルポーラに怒っていたけど、全く反応を示さないので怖くなってしまったのか、今ではシャルポーラから遠ざかるようになってしまった。


 だから、もう限界なんだ。こんな風になるまで放っておいた外道が、今更何を言うのかって? 外道で良いよ、もう。その代わり、皆を助けてほしい。今の望みは、それだけ。


「相談が、あります」


「今ですか? 忙しいのですが」


「いつなら時間が取れますか?」


「いつになるでしょうか。わかりません」


「お手伝いできることはありますか?」


「ふふふ。ご冗談が上手になりましたね。ありませんよ、あなたたちに出来る事なんて」


「あはは。冗談が上手くなったなら、シャルポーラも笑ってくれるでしょうか。コノマルとミルクも、笑顔を取り戻してくれるでしょうか。もう、何も分からないんです」


「あなたのパーティでしょう? 何とかしたらどうでしょうか」


「自分なりに手を尽くした結果が、この様です。もう何をしていいのか分かりません。パーティを解散? 構いませんが、それであの三人は救われますか? 助かりますか? もう、本当に、何をしていいのか分からないんです」


「今まで誰にも、何の相談も持ちかけずに、自分勝手に暴れ回ったツケですわね」


「その通りですね」


「自らの行いを認めれば、許してもらえるとでも?」


「許しを、ですか。許してもらえる方法があるならば全力で取り組みたいのですが。その方法さえも、分からないんです」


「分からない、分からない。まぁ、そうでしょうね。あなたたちは、レイティアさんを中心に纏まっていたのですから。彼女が全部解決していたのですから」


「ああ、そうだったんですね。皆さんにとっては簡単にわかることも、ずっと一緒にいた私たちは知らなかった、理解できていなかった」


 レイティア。彼女は治療術師としてソロ活動をしているらしい。臨時パーティで組んだ冒険者たちにも好評らしい。ソロ狩りをする過程で得た薬草で傷薬も精製する。狩った獲物の状態も悪くない。安定して肉を含めた素材を納品して、傷薬も納品する。パーティ活動でも前衛、後衛を卒なくこなす。話を聞いているだけでわかる。彼女はランク6の冒険者だ。彼女こそが、一人前の冒険者だ。

 私は、本当に、何も見えていなかったんだ。私に『英雄』の素質があると知った時は、村のみんなは盛大に祝ってくれた。私も、小さいころに憧れていた英雄の仲間入りをするんだって喜んでいた。ほんと、馬鹿みたい。そうして憧れた物だけ見続けて、本当に憧れるべき英雄が隣にいる事さえ見えていなかった。

 彼女と一緒にまた冒険をしたら、英雄に慣れるのかな。なんて考えている自分が、本当に卑しくて嫌いになる。最近は、本当に死にたくなるくらい、自分の事が嫌になる。限界だったのは、コノマルたちの事、じゃない。本当は、私自身の事だ。最近は本当に、ナイフをじっと見つめる時間が増えてきた。無責任にみんなを振り回した挙句、皆を置いて勝手に死ぬなんて。せめて、皆が救われたのを見届けてから死ぬべきだ。そう、まだ、死んではいけない。


「話、進めていいかしら?」


 思考に沈んでしまっていた私の耳に、冷たい声が届いた。でも何故か、嫌な冷たさじゃなかった。


「失礼しました。進めて構いません」


「本来、パーティ内の問題解決は、ギルドへの相談も含めてパーティリーダーが行う物よ。『赤銅の軌跡』では、問題が起こる前にレイティアさんが色んな人に話を聞いて回っていたけれど。ああ、そのことも知らなかったのかしら」


「ええ、恥ずかしながら」


「まぁいいわ。そんなどうでもいいことは捨て置きましょう。いま、忙しいと言ったでしょう? それは何も、あなたたちが邪魔だ、と言う理由だけではないのよ」


 邪魔だというのは本当なんだ、と思った。何故か、笑えてしまう。悲しいとさえ、もう思わなくなってしまった。


「大角王鹿。カミナの森の長が、鹿達を率いて町に襲撃してくるそうよ。分かっているとは思うけど、大角王鹿は、王格の魔物よ」


 王格。それは一種の魔物災害を引き起こす存在だ。種族によってはランク10以上でなければ参戦資格さえ無い、悪夢の様な存在。同種の魔物の王として魔物の大軍を率いて、一斉に襲い掛かる。王格は同じ強さの魔物よりランクが1つ、場合によってはランク2つ上の存在とされている。主な理由は三つ。群れを率いる事、群れの強さを引き上げる事、そして何よりも群れから恐れを取り払う事。これにより実力の増した死を恐れない魔物が大群で襲ってくるという悪夢を生み出す。

 王格討伐で参戦資格が必須である理由は簡単だ。資格の無い冒険者は、無駄死にするだけだ。何の役にも立たない。


「レイティアは、参戦資格があるのです、か?」


「ええ。ランク6だから、彼女は」


 同じ理屈ならば私たちにも参戦資格はあるけれど。わかっている。私たちは無駄死にする側の人間だ。いや、足を引っ張るだけかもしれない。王格討伐は、冒険者が憧れる栄誉の一つだ。参加出来るなら、していいなら、する実力があるなら。


「私たちは、何をすればいいですか? 避難誘導ですか? それとも邪魔をしないように町を出ればいいでしょうか」


「馬鹿なのあなたは」


 呆れ果てた声をぶつけられた。少しだけ、本気で涙が出そうになった。


「森から外壁までの間に三つの防衛線を敷くのだけど。貴女達はその三つを超えた先。外壁の防衛をしてもらうわ」


「無理です!!」


 反射的に声が出た。私が? 私たちが? 最終防衛線? そんなの無理だ。


「落ち着きなさい。そもそも、貴女達の所に魔物が来た時点で、既に防衛線が壊滅していると言っていいわ。防衛線の足を引っ張られても困るのよ。だから貴女達は、最後の悪あがきに使った方が良いのよ」


 突き放すような冷たい言い方。でも、どうしてだろう。嫌な冷たさじゃないのは。


「どうして」


「邪魔だからよ。後ろに引っ込んでいなさい」


「どうして」


「作戦の詳細は紙に書いて渡すわ。まぁ、敵が来たらどんな手を使ってでも追い払え、としか書いてないけど」


「どうして」


 もう、どうしよう。自分が辛いだけなら、まだ泣きそうなだけだ。仲間が辛いなら泣いてしまいたいと思うけど、まだこらえられる。でも、これはだめだ。


「どうして、こんな私たちに、こんな」


「ほら、今は忙しいのよね。無駄話は『後で』してくれるかしら?」


 雑に書きなぐった紙を革ひもで丸めて、顔に押し当てられた。


「時間が無いの。失せなさい」


 涙をこらえてギルドを出る途中、他の冒険者たちの顔が見えた。今まで向けられた怒りや恨みが混ざった顔じゃなくて。呆れでも諦めの顔でもなくて。


「失礼しました!!」


 大声を張り上げてから、ギルドの外に出た。



 もう、涙は止められなかった。





 どうして出番がないはずの最終防衛線に、わざわざ私たちを置くのか。

 それは、王格討伐戦に参加している事になるから。

 失った自信を取り戻す、最初の一歩になるから。


 どうして冷たい言い方しかしなかったのか。

 それは、優しさでは私たちが救われないから。

 自分たちの力で立ち上がらないと、本当にもう二度と立ち上がれなくなるから。


 どうして今まで、誰も助けてくれなかったのか。

 それは、助けが必要なときに助けが来る事なんてありえないから。

 みんな助けてほしいと願いながら、足掻きながら、それでも自分たちの力で歩んできたから。

 苦しいときに足掻いて前に進むから、英雄の魂は鋼の様に鍛えられ、どんな困難にも立ち向かっていけるようになるのだから。


 頭を撫でて、「大丈夫だったか」と言うのは子供相手にだけ。

 一人前の冒険者には、甘い言葉は投げかけない。

 あの人たちは、こんな私を、一人前の冒険者としてみていた。見ていてくれていた。呆れながら、文句を言いながら。時には馬鹿にしながら。それでも、私を子ども扱いしなかった。一人前の冒険者として、扱ってくれていた。

 もし、さっき。助けてくださいと言って、助けてくれていたら。私は二度と、一人前の冒険者にはなれなかったと思う。一度甘えてしまう事を覚えたら、私はもう自分の足で歩けない。私は、強くないから。『英雄』の素質があるだけの、ただの子供だから。




「みんな。今から言うことを、よく聞いて。ほら、コノマルもこっち来て。今から、大事な話があるんだ。誰のためでもない。私たちがこの町を救うための、作戦なんだ」


 手渡された紙には、殴り書きの一文が描いているだけだった。



『明日の早朝に王格災害が町に来る。防衛しなさい』



『赤銅の軌跡へ』





 言葉少なく話し合い、皆で集まって、いつの間にか寝入ってしまって。




 そして、防衛戦を知らせる鐘の音が響いた。


別キャラ視点があったらどうだろう、という感想があったので書いた短編です(。。


好評不評も含め、感想お待ちしております(_’

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[良い点] リクエストに応えてありがとうございました。 要点を短く纏めてわかりやすかったです。
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