彼女は一体誰なのか
2518年。冬。イタリア ヴェローナ。
DAMAに関する調査は続いていた。
約500年ほど前にアジアの国からヨーロッパ方面へ向かい、そのまま帰国していない行方不明者を探すところまで進んでいた。
千年近く昔であれば全国民の戸籍などもまだなく、
行方不明者を探すことなど不可能に近かったと思うが、
500年ほど前であれば、すでにIT社会へと変化しているし、戸籍というものが存在していたし、紙媒体だけでなくコンピューターによってデータ化されているはず。
当初はすぐに該当者が出てくると思われていた。
しかしここで壁にぶち当たる。
2500年代の今では一人一人にその人の全ての情報が入っているチップを身体に埋め込んでいる。
データの保存期限などはない。
その個人が亡くなった後IDチップも墓に一緒に入れられる。
2000年代初めの頃であれば、
コンピュータ化は進んでいたが、データ量にも限度があるため数年・数十年の保存期限というものが設けられていたそうなのだ。
おそらく、行方不明者リストも同様に100年単位(いや、もっと短いかもしれない)で保存期限が過ぎ、消去されている可能性が高くなってきた。
イタリア政府がアジアの国々へ問い合わせたところ、
確実なデータは国によってばらつきがあり、
2300〜2400年頃のものであればどうにか出せる可能性はあるが、それ以前のデータは保存期限が過ぎているため難しい。。。との回答が挙がってきたそうだ。
これは身元判明が難しくなってきたな。。。
ローサは頭を抱えた。
でもなぜか胸の中に少しだけミステリーを探っていくような、、、推理小説を読んでいるような、、、
ワクワクした気持ちがあることを否定できなかった。
彼女は一体誰なのか。
国籍はどこなのか。
なぜ、ここでミイラになったのか。
彼女の人生を知りたい。。。
ローサにとってはあくまでも仕事の一環。
でも、、、
それ以上にもっと一人の女性として彼女のことをしりたくなっている。
プライベートの領域で踏み込んではいけないけれど。。。
「胃の内容物、調査できましたよ」
考古学研究所からの報告がきた。
DAMAの時代であれば電話というものがあったのかしら。
今では目の前に突然透明な画面が現れ、まるで同じ空間にいるかのように人と会話することができる。
他の用事などがあって話せない時は赤の「拒否」ボタンを押せば相手側の画面に「今は話せません」というメッセージが出る。
この辺は当時の電話と同じなのかしら。
「ローサさん、行方不明者リストの進捗いかがですか。
こちらでは、胃の中に残る物質が判明できましたよ。
DAMAは亡くなる前に小麦系の食べ物を多く摂取しています。
トマトのような物質やオリーブオイルなども。
おそらくイタリアのパスタやピザのような定番料理を最後に食していると思われます。
最後に食事してからそんなに時間が経たずに亡くなっていますね。胃にしっかり残っていたので。」
「あぁ、そうなのね。
ありがとう。ステキな情報だわ。
でもね、こっちの方は前途多難よ。500年も前のデータが残っていないみたいなの。
どういう方法で辿っていけばいいのか振り出しに戻ったところよ。」
「500年前ならもうコンピューターもかなり発展してますし、当たり前のように身元判明すると思っていたのに、、、残念ですね。
あ、ちなみに薬物反応も出なかったので、安楽死関連ではなさそうですよ。
毛髪からも薬物が出てこないので、病気の可能性もあまりないかと。
手術などの後もないですね。
歯の本数が足りないので歯列矯正してる可能性は高いです。
こちらの情報ばかりですみません。
身元判明のきっかけになれるといいのですが。」
「とってもたくさんの情報をありがとう。
助かるわ。
また何か分かり次第すぐに教えてね。」
「もちろんです。またご連絡いたしますね!」
話が終わると目の前から画面ごと消える。
2500年代のテレビ電話って感じかしらね。
はぁー。
DAMAは自国を出国したのに帰国していないってわけよねぇ。。。
!?
出国したのに帰国していないケースの行方不明者はそんなに多くいるはずはない。。。
ほとんどの場合は自国内で行方不明者になる、
もしくは行方不明になった後どこかで遺体で発見されていることが多い。
帰国せぬまま何百年も行方不明者になっているケースは、、、珍しいし、当時もきっと大ニュースになっているのでは、、、!?
アジアの国々で出国したのに帰国していないひとのリストを洗い出してみよう!
たまたま判明の糸口が見えてきた気がするわ!!
DAMAさん、絶対にあなたの帰るところを探し出してあげるからね!!
水を得た魚のようにローサはイキイキと仕事にとりかかった。