重ね合わせる人生
2518年。冬。イタリア。ヴェローナ。
ローサ・ベッローニは家事をしながら
ずっと考えていた。
あの日以来、あのミイラの事が気になって仕方がない。
その後の調査の結果、
DAMAは骨盤の形などから出産経験があることが分かっている。
歯の治療後も見つかっている。
眼球の形態などから視力も悪かったのではないかと想像されている。
2500年代に突入した今となれば、
歯の治療をする事もほぼない。
幼少期から歯が生え始めた頃から
定期的に特殊なフッ素の薬品を歯に塗り続ける。
全世界的に統一されている。
ごく稀にそれでも虫歯になるケースがあり、
そういう人は治療を受けるが、全てレーザー治療のためDAMAのような治療後にはならない。
500年も前だと
ドリルのような機械で歯に穴を開け、そこに物質を入れて固めるような荒々しい方法で治療をしていたようだ。
歯にドリルで穴を開けるだなんて、、、
考えるだけで恐ろしい。
そして出産経験もあるのか。。。
だとしたらこの現代に世界のどこかでDAMAの子孫が生きいるかもしれない。
そんなことを考えていたら
すごく不思議な気持ちになった。
「ママ!ママ?またぼーっとしてる。
最近どうしたのよ?」
突然娘のロザリアに話しかけられた。
「えっ?あ、あぁ。。。ごめんね。
今取り掛かってる仕事のことを考えてたわ。
朝ごはん、何にしようか」
「今日も普通にピザ〜!お腹すいたー!」
「はいはい。今すぐに注文するわね」
この現代では各家庭ではあまり料理はしない。
地中に張り巡らされた地下経路が各家庭からお店につながっていて、注文すればすぐに地下のエレベーターのように通路から注文したものが届く。
スーパーにわざわざ買い物に出向くという必要がなくなっている。
薬なども同じ。
病院に行く事もほぼなく、
体調が悪くなると医者へ直接予約をして
人間用地下通路の高速エレベーターを通って
家庭まで医者がやってくる仕組み。
イタリアのみではない。
先進国ではほぼ同様の仕組みになっている。
DAMAが生きた時代はどんな感じで
子育てをしたのだろう。。。
すぐに自分の生活とDAMAを重ね合わせて想像してしまう。
昔からこういう歴史を感じる話が好きで、
よく本を読んだものだ。
500年くらい前にイタリアで抱き合いながら亡くなっている骨が見つかったことも歴史の文献を読んで知っていた。
ペルーの山奥で生贄ななった少女のミイラが発見されたという文献や、シベリアでマンモスの赤ちゃんのほぼ完全なミイラが発見されたなど。
そういう人や動物が生きた時代背景を想像してはロマンを感じてしまう。
そして今回まさか自分が住んでいる国や場所の近くで全世界を巻き込むほどの大発見があるだなんて。
DAMAは私に何を見せてくれるのかしら。
ワクワクさせてくれるわね。
電卓のような機械を取り出し、
ピザを3人前注文。
5分もすれば届くだろう。
11歳のロザリアと9歳のロメオが私の子供たち。
夫は今はいない。
5年前に家庭のパートナーとなった。
現代では
男女のペアが子供を作ることを目的に一緒になることを"結婚"と呼ぶ。
家庭を作ること以外で男女の恋愛感情を持つ場合はまた別の契約を結ぶことになる。
夫は数年前に好きな女性ができたと言い、
その人とも子供を持ちたいと思うかもしれないと。
私たちとの家族パートナーはもちろん継続するが、
結婚という契約は終わりにしたいと告げられた。
よって契約の名称が"結婚"から"家庭パートナー"に変わった。
私ももともと強い恋愛感情はなく、
この人と家庭を作ろうという気持ちで結婚した。
だからそんなことを言われてもあまりショックではなかった。
なによりも大切な子供を二人授かれたことだけで大満足。
今はとくに気になる男性はいないが、
お互い惹かれ合うような男性が出てきたら
恋愛契約を結びたいと思うのかもしれない。
DAMAが生きた時代はきっとまだ
こんなに自由な契約はなかっただろう。
まだまだ縛られた規則がたくさんあったのかなぁ。。。
大きなチャイム音と共に『注文商品が届いております』という音声が流れる。
あ、ピザが届いたわ。
さて、今日は子供達とどんな1日を過ごそうかしら。