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おやじのスタディアブロードwithウクレレ  作者: ウクレレ岩さん
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地獄に仏

地獄に仏


 楽しい気分でいる時は、他人の幸せも大いにウエルカムだ。そう思いながら先ほどの家族のことを思い浮かべて笑顔になっている。そして、強面のおやじのことがふと頭に浮かんだ。なんかどこかで見たような顔だなんて考えていた。ああいうおやじとは間違っても関わらない方が良いと、頭を切り替えてみると。

 今度は重量オーバーの事が、気になってきた。私だって後ろめたい気持ちがある。

 それというのもジョットスターの機内持込手荷物は規定料金ではキャリーケース及びハンドバックなどのお手回り品の計2個で基本重量は7Kgまで。

  私はオプションとして2,800円を支払い、プラス3Kg分を追加したのだが、出発前に家で量ってみると11Kgで1Kgオーバー。

 まあ、実際に量ったリはしないだろうと高をくくってチェックインカウンターに並んでいたら、なんと!秤を持っている男性を発見!

 ラインの前方を見ていると、重量オーバーを宣告されたであろう人が、肩を落として列から外れて別の列に並び直しているのが見える。


 いや~参った、このドキドキ感は、若い頃に酒気帯び運転で警察官に止められた時以来かな~。しゃあないかって観念しているところに、秤がやってきた。

 案の定「お客さん。1Kgオーバーですのであちらの列に並んで追加契約の手続きをしてから、又この列に並んでください」と、促されて、肩を落として別のカウンターに並びなおそうとしているところに、後方に並んでいた、さっき、少しだけ挨拶した強面のおやじが私のところまできて「この人は僕の連れなので、僕の重量と合わせてください」と言ってくれた。

 最初は何を言っているか分からなかったが、よく聞いてみると「自分の手荷物が軽いのでその分を私に分けてあげる」という事らしい。


 そんなことが出来るのかと考えていると、秤は「貴方の手荷物なら量らなくてもOKです」ということになった。いや~、助かったな、本当にありがたかった。

追加料金を払うのは良いのだが、手続きの為に他の列に並び、完了後に又このチェックインカウンターの列に並ばなければならない。そんなことしていて、夕飯の時間が削られてしまうのが嫌だったのだ。

 私の胃袋は、しばらく食べられない寿司を早くたらふく食べろと要求しているし、喉チンコもキンキンに冷えたビールを繰り返し激しく要求してくる。

 そもそも、荷物の重量を1Kgもオーバーしちゃったのか。それは、最後まで持っていく事をためらっていたウクレレをリックに入れたからだった。

ウクレレは、フィリピンで買えばよいという考えもあったが、俺のウクレレをマニラに連れて行ってあげたい!という思いが勝ったのだった。


 日本人は何でも擬人化すると、フィリッピンの先生に後で笑われる事になるのだが、連れて来たウクレレは「私が1年前に初めて、初心者用セットとして売られていたものを1万円で買ったもの」私にとっては特別な思い入れがあるものだ。


男のナニは別人格ってナニ?


 有りがたい事に無事にチェックインも完了。フライトまではたっぷり時間がある。強面こわもてのおやじに再度お礼を言って、フードコートに直行と考えて。

岩「先ほどはありがとうございました。お互いにマニラを楽しみましょう」と言って、足早にその場を立ち去ろうとするが、強面のおやじから「一緒に江戸前寿司を食べながら少しお話しませんかって誘われてしまった。私の心の声は、この危なそうな人からは距離を置けと言っている。私の顔はさぞこわばっていたのだろう。


おやじ「心配しないでください。僕はサラリーマンですからと言って、私を誘導して一緒にコンビニで缶ビールとつまみを買って、フードコートへ。

 そして、胃袋の要求に従って、先ほどのおやじとフードコートで乾杯!あああああっ旨い!やっぱり寒くてもビールののど越しは格別だ。さっき売店で買った2本の缶ビールをすぐ飲み干してしまった。

立ち食い寿司屋で私は、江戸前寿司セットに大好きなこはだ2貫を追加したので2100円を現金で支払い。強面おやじは、江戸前寿司セットで1800円をゴールドカードで支払った。強面のおやじがゴールドカードを持っているという事で、どんな人なのかとても興味がわいてきた。

立ち食い寿司屋から呼ばれて、注文した寿司を取りに行き、席に戻り美味しくいただきながら、強面のおやじの寿司と私の寿司とが入違っていて、私は胃袋からの「こはだ」が食いてぇという要求に応えることが出来なかった。


 しかし、わざわざ言うまでもないとスルーしたが、彼が後で気付いて大変恐縮していた。

 彼の恐縮した時の顔も悪代官面として脳裏に強烈に刻まれた。出来れば笑った顔も見てみたいという欲求にかられたが、その思いは成田で叶うことはなかった。

岩:「先ほどは本当にありがとうございました。助かりました。地獄に仏でした。え~とお名前は」

おやじ:「そんな大げさな。僕の名前は、え~とお互いに本名はよしましょう。たらし、とでも呼んでください。」と、意味ありげに言った。

たらし、ただし、たなし??。良く聞き取れなかったが、まぁニ度と会わないのだから適当でよし、たらしとして「ら」はハッキリ発音しないようにしようと決めた。

岩:「そうですか。それでは私は岩と呼んでください。マニラへはビジネスですか?」

たらし氏:「そう。ビジネスが40%で彼女に会いに行くのが60%といったところです。あなたは、スタディアブロードでしたね」


岩: 「はい!1ヶ月間の予定で、英会話を勉強してきます」と言いながら、彼女に会いにという言葉が頭の中でぐるぐる回っていた。彼女はマニラ在住ですか?」

たらし氏:「そうですねぇ。マニラからはちょっと離れていますが、マニラ同様治安のよいところで、フィリピンで唯一電車が走っている地域です」

岩:「どれぐらい滞在する予定なんですか」

たらし氏:「1ヶ月ぐらい彼女の家から仕事場に通い、休日は彼女とのんびりします。その後、インドネシアに行く予定なんですよ」


岩:「え~。そんなに頻繁に海外に行くんですか?サラリーマンでしたよね」

やっぱりアブナイ関係の仕事をしているようだ!早くこの場をはなれよう。と心の声。

たらし氏:「はい。僕は一応、これでもH家電株式会社の社員でエンジニアです。若い頃から東南アジアを仕事で駆け巡っていますよ。そして、各地に彼女がいましたよ。船員さんが港毎に彼女をつくるように」と顎を触りながら言った。

そのしぐさを見て、そうだ!この人、時代劇に出てくる俳優に似ていると思った。名前は、知らないが水戸黄門や大岡越前に出てくる俳優だ。

岩「失礼ですが、誰かに似ているって言われません?さっきから顔が浮かんでいるのですが名前が思いだせなくって」

たらし氏「よく言われます。親しくなると例のやつやってとせがまれるんですよ。やりましょうか」

たらし氏「越後屋、おぬしも悪よの~」

岩「いえいえ、お代官様ほどでは・・・」

たらし氏「あなたもノリがいいですなぁ。特定の俳優に似ているというのではなく、悪役面だという事の様です。時には、カルロスゴーンに似ているという人もいるぐらいですから。そして僕の顔はビジネスの武器ですから気に入っているんですよ」

岩「顔がビジネスの武器ですか?」

たらし氏「そうです。さっきの秤だって、僕がやさしい顔だったら確り量ったり、二人の関係を確認したりしたでしょうが、強面のおやじとは関わらない方が良いと判断して、さっさと、OKが出たじゃないですか」といいながら、意味ありげに私をみて「もちろん、良い面ばかりではありませんよ。あなたも僕と付き合う事を拒んだじゃないですか。その為に、アブナイ人間でない事を早めに伝えないとならないのですよ。僕は」

岩:「いや~。私も関わらない方が良いと外見で判断してしまいしました。申し訳ないです。しかし、海外での取引でも顔が影響しますか?上場企業のH家電というだけでも取引先としては圧力を感じるでしょうが?」


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