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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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男は、歩き続ける

前回のあらすじ


ホラーソン村に着いてから一か月。晴嵐は緑の国に向けて旅立つ。「黄昏亭」の面々に見送られ、どう反応すればいいか分からない晴嵐。足取りを危うくしながらも、晴嵐はホラーソン村の外へと歩き始める。目的地は緑の国……エルフ主導の国家にして、聖歌公国と対立中の国家である。

 ホラーソン村からグラドーの森に隣接する一本道、その道の先に「緑の国」は存在する。

 徒歩で約一時間半の距離にあり、両国の対立もあってこの道を使う人物は少ない。森に隣接した影響からか、通りの道もずっと悪路だそうだ。ゴーレムの手押し車――馬車の引手がゴーレムに置き換えられたもの――も通っているが、一日の本数が少ないうえ、整備不足の道が祟り、乗り心地は最悪だと聞く。

 晴嵐は手荷物こそあれ、物資を持っての長距離移動は経験がある。終末世界で新たな拠点を築く時、物資と物資を交換しに回った時と比べれば、一人旅など程度なんてことはない。

 加えてじっくり、道中を眺めたいと晴嵐は考えた。

 道の整備具合、すれ違う人の様相、何よりも「この世界を味わってみたい」と、晴嵐は感じていた。

 我ながら能天気な発想と自虐する。少なくとも一か月前の晴嵐なら、絶対に考えもしない。浮ついた気分もそのままに、彼は自分のペースで緑の国を目指した。

 長年の癖で、無意識に周辺の気配を探る。敵意や悪意を感知すれば、男はすぐさま襲撃に備えるだろう。以前森の中から銃撃……いや『悪魔の遺産』に狙われた経験から、自然な足取りで気配を薄めた。

 また攻撃を受ける可能性は低い。時間の経過と、ホラーソン村の兵士たちが周辺を固め、念入りな警戒が功を奏したのか……はたまた全く別の事情かは不明だが、あれ以降グラドーの森から『悪魔の遺産』らしき報告はない。結局あれも何だったのか? 現時点では不明なままだ。


(それについても……緑の国なら、手がかりがあるやもしれん)


 聞いた話によると、この森を挟んでの国境線は、大きな変動がないらしい。領土延長を狙うにしても、緑の国と亜竜自治区の間で起こるそうだ。

 この話を聞いた時……晴嵐はきな臭く感じた。ほとんど直感だが、彼はこう憶測する。


(緑の国の連中……禁域について、何か知っておるのではないか?)


 実は亜竜自治区は……『聖歌公国』の領内なのである。

 細かな経緯は把握してないが、聖歌公国の内部で独立した風習を持つ地域……らしい。亜竜自治区と緑の国は隣接しており、つまり敵対国同士の境界線だ。20年から50年に一度ほどの感覚で、戦闘が起こる。

 なのにもう一つの境界線……つまりホラーソン村とグラドーの森方面には、侵攻の記録がほとんど存在しない。距離や立地は違っても、敵国との境界なら小競り合いぐらい起きて当然のはずだ。

 それが一切ない理由は、明かされてはいない。しかし晴嵐の直感は『グラドーの森の禁域』と、何か関連があると感じていた。


(あの禁域……絶対に何かある。恐らく迂闊に手を出せぬ何かが)


 現にこの世界の禁忌……『悪魔の遺産』に銃撃を受けた。優先度は千年前の真実が先だが、機会があればグラドーの森の禁域にも、探りを入れてみたい。関連している可能性もある。

 思案しつつ足を動かすと、背後から何か大きな気配がする。徐々に大きくなる音にギロリと睨んだが……すぐに晴嵐は平時の顔に戻り、不整備な道の脇に逸れる。

 視界に映るのは引き車。ゴーレムが荷台を引いて、中の荷物や人間を連れて進んでいく。車輪がガラガラと大きな音を立て、デコボコ道を進んでいく。狭い道の場合、歩行者が道を譲るのがマナーだ。

 大きな木の幹に手をやって、ゴーレム車に顔を向ける。一台につき一人のゴーレムが車を引き、それが六台……計六人のゴーレムが、土煙を上げて荷台を引いていた。


「通過します、離れて下さい」

「あーはいはい」


 そっけない口調でじっと佇み、高速で移動する集団を見送る。巨大な車輪が地面に跡を刻み、あっという間に晴嵐を抜き去った。

 派手に揺られる貨物は、激しく覆いの中で影が動く。アレに揺られたくはない。やはり歩きで正解だと、乾いた笑いが漏れていた。

 ひたすら道なりに歩き続ける晴嵐。木漏れ日は温かく、そよ風は優しい。じっと進む先に見覚えのある木が映り、男は鼻息を鳴らしてまた笑う。

 木の側面にあるナイフの傷は、既に古くなっている。初めて村に来る時……そうだ、シエラ兵士長と分かれた木だ。

 妙な感傷が沸き起こった。あの時と反対側に歩き出す自分、結局未知の世界に歩き続ける自分に、再び晴嵐は笑ってしまった。

 だがあの時の自分と、今の自分は違う。

 やって来たばかりの晴嵐は、超のつくお人よし女兵士……シエラ兵士長にさえ苛烈な不信感を発していた。終末世界の感覚を引きずって、いつも誰も信用せずに、孤独に生き続けた生き方を続けていた。

 あれから一か月と少し、晴嵐の心情は変わったと思う。異種族がいることも、この世界の歴史も、そしてその陰に……文明崩壊前の影がちらついていることも、何も知らなかった。

 ――今も、日常生活程度は分かるが、全てを知った訳ではない。まだまだ暗中模索の最中だ。

 その途中で、恐ろしい敵に逢うかもしれない。

 その途中で、肉体に障害を負うかもしれない。

 その途中で、受け入れがたい真実と対面するかもしれない。

 その途中で、不意に死ぬかもしれない。


(それがどうした。無駄死には恐ろしいが、ビビって縮こまっても無様じゃろ)


 世界に安泰など存在しない。

 何かの拍子に足元が崩れて、気がついた時は地獄の底。ロクに目を合わせようとしないだけで、世界は結局「理不尽でない事」の方が珍しい。平穏と思い込んでた世界が、突如として終末に変わった……その経験を持つ晴嵐は、今でも忘れてなどいない。

 だから歩く、だから考える。自分の望む先を、自分て決めて。

 一人の人間が世界と向き合う方法は……たったこれだけしかないのだから。

 

第二章 ホラーソン村編 完

用語解説


ゴーレム車

 馬車の引手が馬ではなく、人型の金属の知性体、ゴーレムに置き換わったもの。彼らは金属の肉体故疲労に強く、運動能力やパワーは十分。加えて馬を運用するコスト、御者のコストなどをカットできる利点がある。


お知らせ

次回はまとめ回ですが、情報量が多いので二回に分けます。人物編と用語編を予定中です。

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