心が求める闘争
前回のあらすじ
所変わって亜竜自治区。晴嵐のメールを受け取ったオークの二人、スーディアとラングレーは首を傾げつつも、晴嵐に協力することにした。亜竜自治区での経験から、二人は一度別れ、別々の道を歩むことを決意。ポート前でたむろする二人に、後ろから迫る影の正体とは……
亜竜自治区と呼称されるだけあり、この地域には『亜竜種』の人物が非常に多い。
人によって異なるが……茶色や緑、青色の鱗が身体の表面を覆い、顔つきはヘビやトカゲを思わせる形。瞳孔は細く据わり白目がなく、前のめりな前傾姿勢でのそりと歩く。
これらの特色もインパクト抜群だが、彼らの最大の特徴は、地面に垂れ下がる大きく長い尻尾だろう。歩行の際も地面に触れさせるため、尻尾用の靴を装着している。テールブーツと呼ばれるそれは、この地区においては専門に取り扱う店さえある。
カツン、カツンと、尻尾が地面に触れるたび、独特の足音を響かせる。二人組のオークを目指し、緑の鱗の亜竜種が、物々しい気配でやって来た。
眼光鋭く見つめる先、二人組もその亜竜種を認識する。
ぐっと拳の握ったその男は、朗々と彼の名を呼んだ。
「スーディア・イクスはおるカ?」
「……俺です」
良い声だ。腹を決めた男児の声に、その亜竜種の戦士は思わず一礼した。礼節を保ったまま、戦意を腹に溜めて告げる。
「ソナタはハクナ様が一目置くと言ウ。その武勇、ワレにも見せて頂きたイ」
「またですか……」
渋い顔で空を仰ぐ若者に、隣のオークは声を上げて笑った。
「あっはっは! モテモテだなスーディア!」
「ラングレー……お前だって一緒に戦った筈だろ? なんで俺ばかり」
「そりゃお前、オレはそれほどの戦士じゃねーし、こんなお調子者だし? お前と並んて立ったら霞んじまうんだろ」
「……」
困惑する二人から距離を保ったまま、亜竜種の戦士はじっと待つ。
この伝統は地域独特の物故に、余所者に対し押し付けてはならぬ。とはいえ、かの戦士は理解を示しており、よほどの事が無ければ受けてくれると言う。二人の会話が終わるまで、一歩引いて亜竜種の戦士は待った。
「でも……ちょうどいいかもしれねぇな。オレは先に出る」
「ラングレー……でも、まだ話しきれてない事が」
「馬っ鹿、だからだよ。いざ別れ際になったら惜しくなっちまう。だから……ここでお前を待たずに、オレは先に行くべきなんだ。一回ここで、オレたちはスッパリ別れねぇと」
「こういう俺達の心情こそ、ハクナ様が危惧しておられる事……なのかもな」
片方のオークが、スーディアの顔を見たまま遠ざかる。足取りは鈍くても、確実にもう一人の姿は小さくなっていった。
「先に外に行ってくる! またな、相棒!」
「あぁ。また会おう……!」
遠ざかる二人を、部外者の戦士はじっと見つめる。経緯は読めないが、戦士のスーディアの背中は震えていた。やがて亜竜種の待ち人を思い出し、合わせた顔には雫の痕がある。慌てて顔を背けて拭い「お待たせしました」と一礼を返す。
「失礼、邪魔をしたカ?」
「いいえ……良い機会でした」
「……しかしその様子デ、剣は鈍らぬカ?」
「試してみますか?」
刹那に閃く瞳の、なんと輝かしい事か。
返す言葉に湿り気はなく、むしろ強い意志の息吹を感じる。
ひりひりと肌に来る生気を受け、亜竜種の戦士は嬉々として名乗りを上げた。
「失礼しタ……スーディア・イクス。我の名は『ムーランド・マンバ』。良き立ち合いを所望すル」
「謹んで、お受けしましょう」
了承を取れたところで、亜竜種の戦士は広間に置かれた箱に向かう。後ろからオークの戦士も続き、その箱に右手を触れさせた。
スーディアも同様に接触し、これにて『闘技場』の魔導は発動した。周辺に特殊な空間が展張され、外部と内部が遮断される。内部空間の効果は『精神が感じる痛みや衝撃をそのままに、肉体への打撃を大きく軽減する』……つまり全力で闘争を行っても、相手の殺傷を気にせずとも良くなる。
なぜこのような装置があるか――それは亜竜種の知能の低さに起因していた。
残念ながら……自他ともに認めることだが、亜竜種はどうしても複雑な思考ができない。知性で劣る傾向が見られる。
故に亜竜種は、闘争の中で相手を知ろうとする。文化の一端として『決闘』を行うことで、互いの意思疎通や精神性を知る。
むき出しの闘争の中でこそ、魂の真価は測れる――それが亜竜種の世界観なのだ。
「覚悟はいいカ?」
「いつでも」
片手でレイピアを握り、もう片手で盾の腕甲を掲げるオークに対し
両手に装着した魔術式の、よく手になじんだ盾の腕甲を光らせる亜竜種。
一見、亜竜種側に攻撃手段が無いように見える――しかし彼らは、盾の腕甲を独特の運用をする民族だ。
両腕に覆うように光の膜を溜め、拳が二回り以上巨大化する。これが彼ら亜竜種の基本スタイルだ。
「ヒュッ!」
ぐっ、と姿勢を前のめりにし、つんのめったような姿勢で突撃する。巨大な尻尾でバランスを取り、他の種では不可能な踏み込みで、一瞬でオークの懐に飛び込んだ。
まずは牽制。右右、左とジャブを放つ。二発の拳は盾に弾かれ、左のジャブはレイピアに受け流される。
他の種なら姿勢が崩れるが、ムーランドは尻尾を地面に強く突き刺すように接地させ、自重を地面に分散させた。一旦右手の魔法を解除し、素手て関節部を狙う。
が、目論見は防がれる。グッと肩を突き出し、肘関節に伸ばした手が突き飛ばされる。数歩下がったところで、今度はオークのシールドバッシュが亜竜種に襲い掛かった。
すかさずグローブを再展開し、光の盾に拳を乱打させる。
風を切るような呼気に合わせ、亜竜の両手が盾と激しく衝突を繰り返す。片手の盾とレイピアを使いこなし、オークの戦士はラッシュに対応していた。
連打では崩せぬと踏み、緑の鱗を閃かせ間を広げる。右手の腕甲に意識を集中し、ムーランドは呼吸を整えて――
用語解説
『闘技場』
特殊な領域を展開させる、魔導式の箱。発動すると接触した人物同士の痛みはそのままに、肉体が受けるダメージを大きく軽減させる。要は全力で戦っても、相手を殺傷せずに済む道具だ。
亜竜自治区にはこの箱が公園や広間など、体を動かすことに向いた空間の至る所に『公共の施設として』配置されている。この地区において闘争とは、スポーツの一面も持っているのだ。
盾の腕甲 (応用編)
亜竜種の戦士は、盾の腕甲を魔法のグローブにして戦う技術を持っている。ゲーム風な言い方になるが……結構な割合の戦士が「モンク」に該当するだろう。




