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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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一方、自治区では

前回のあらすじ


『千年前の真実』を探すべく、まずは緑の国を目指す晴嵐。準備のため、終末世界での交換屋トレーダー稼業めいた行いで路銀と物資を稼ぐ。期待値の薄い協力相手として、以前別れたオーク達にもメールを送った。

 その際、偶然ハーモニーと出会う晴嵐。彼女の悩みを利用する形で、晴嵐は「緑の国」の内部情報を引き出した。

 一方その頃――亜竜自治区にいる二人組のオークが、ポートにライフストーンを触れさせた。

 まだ若い二人は、ふれた石の変化に目を丸くする。新着を期待していなかったが、変色したのなら誰からのメッセージがある。


「あっぶね。念のためやっといて正解だったぜ」


 軽い調子で飄々と笑うのは、かつてオークの群れから離反した一人、ラングレーだ。隣にいるスーディアも、神妙に頷く。

 ポートは町や村など、一定集落に置かれている構造物だ。

 つまり裏を返せば『村や町、都市部にいなければメールの送受信はできない』。二人とも長旅を予定しており、ここで触れていなければ、次の地区に着くまでメールを読むことは叶わなかっただろう。


「しかし誰から? 長の怨み事か?」

「群れの誰かかもしれねぇけど……ちと遅い気もする。ともかく送り主を見ようぜ」


 頭で念じて操作すると、意外な名前が目についた。

 セイラン・オオヒラ……彼ら二人が離反する際、世話になった猟師の男である。

 簡単な近況報告と社交辞令の後、彼はこれから『緑の国』を目指すと言う。そこで……千年前の歴史について、自前で調査すると書かれていた。


「自分の足で調べる気なのか……大変だろうに」

「うーん……なんつーかうーん?」

「どうした?」


 タイミングを考えれば、ラングレーも同じメッセージを読んでいる。ウンウン唸って悩む彼は、ぽつりぽつりとつぶやいた。


「セイランってさ……歴史に興味を持つようなヤツには、ちっとも見えねぇんだよな」

「それは……分かる気もするが、腰を据えて話したわけじゃない」

「可能性は否定しないぜ? でもセイランは余分な事とか無駄な事とか、徹底的に省くタイプだろ。歴史は役に立つかっつーとなぁ……」


 出会った印象と文言の不一致に、ラングレーはかなり疑問を持っているようだ。ここまで共に歩いて来た親友に、スーディアは末尾の部分を示した。


「別れた時とのズレは、俺も感じる。けど最後の所を見てくれ」

「ん? なになに……『余裕があれば歴史の情報をくれると助かる。通説からトンデモな一説まで歓迎する』……つまりあれか、オレたちにも協力してくれってか」

「そうだ。どんな心情の変化か知らないけど……少なくとも本気で取り組む気だ」


 友の言葉を受け、ラングレーは組んだ腕をほどいた。

 この一か月近くの間で、セイランが何を思い至ったのかはわからない。であるが、拠点を出て真実を求める姿勢は、文面からも感じ取れる。


「助けられた借りも返してない。俺は余裕を見て『聖歌公国』の中枢から、この世界の歴史を彼に送ってみるよ」

「オレが提供するにゃ時間かかりそうだな……あーでも『ドワーフ山岳連邦』に行けば、輝金属周りで面白いネタを拾えるかもな」


 そう……二人はこの亜竜自治区から『別々の方向に』歩き出そうとしている。

 スーディアは『聖歌公国』の首都『ユウナギ』で、武人としての道を進み、

 ラングレーは『ドワーフ山岳連邦』を目指し、友の持つ青いレイピアについての調査を行うつもりだ。

 もちろん最初は、二人で公国の首都を目指すつもりだったが……とある偉大な方の助言を受け、長らく共に歩いて来たオーク二人は、ここで一度別れることを良しとした。


「本音言うと、オレはお前が上手くやっていけるかスゲー不安。世渡り下手過ぎで、おまけに種族もオークだ」

「ラングレーだって同族だろ?」

「オレはいいんだよ。のらりくらりと生き延びてやるさ。でもまぁ、オレがいつまでもケツ持つ訳にもいかないし……一回お前も揉まれとけ」

「……そうする。ハクナ様も仰っていた事だしな」


 ハクナ様……フルネームは『ハクナ・ヒュドラ』

 亜竜種の随人であり、年齢はもうすぐ1050年と噂もある。

 この御方は――『元』亜竜種の吸血種だ。千年前の戦いにおいて、『無限鬼』と肩を並べ戦った傑物である。

 現在は政治の表舞台から引いているが、たまに後輩の戦士たちに稽古をつけている。たまたま亜竜種の戦士たちと、スーディア、ラングレー両名が軽く剣を合わせていると、その御方が二人のオークと手合わせを所望したのだ。

 当人にとっては、戯れのつもりなのだろうが……思い出したラングレーが震え上がる。


「稽古つけて貰って言えた義理じゃねーけど、もう二度と戦いたくねぇな」

「あぁ……蛇に睨まれた蛙の気分だった」


 英雄の傍に立った経験のある戦士。その凄みは千年の時を経て健在。戦士たちの話によれば『腕を維持するどころか、増々冴えわたっている』とのこと。

 二対一で良いと告げられ、オーク二人で過去の英雄に挑んだ。

 結果は言わずもがな、とても勝てる気がしない。一手一手の圧力が尋常でない上、戦闘経験が違いすぎる。亜竜種の戦闘スタイルに加えて、巧みなフェイクを織り交ぜられては勝てる気がしない。打ちのめされる二人に対し、瞳孔を細めて傑物は一言。


「両名共ニ、良キ連携ナリ。サレド一度間ヲ置キ、互イニ己ノ御魂ヲ鍛エルベシ。真ニ友柄デアレバ、一度道ヲ断ッテモ、未来ニテ交ワルデアロウ」


 亜竜種の発音は、語尾が特に聞き取りにくいが……ハクナ様はさらに訛りが酷い。独特の言い回しもあり理解に難儀したが……傍にいた亜竜種の人が翻訳してくれた。


『その友情は美しい。しかし一度自分自身を見直すため、お互いに距離を取ってはどうか? 君たちは良き友だ。別れても真に友であれば、再び出会えるだろう』


「――吸血種の方は違うぜ。数手の手合わせで見抜いちまう」

「耳に痛かったな……」


 ラングレーとスーディアの二人は、長らく群れの中にいた。

 スーディアは孤立気味で、ラングレーが世話を焼きつつ互いに合わせる。阿吽の呼吸に違いないが、ともすればそれは共依存だ。

 常に共に行動するのを、当たり前にやり過ぎた。間違いなく美徳だが、それも過ぎれば毒になる。だから二人はこの亜竜自治区から、別の道に旅立つのだ。


「さ、そろそろオレは出るぜ。スーディアは――」


 名残惜しさを含んだ友を、蒼い剣を握るスーディアが止める。微弱に漂う妙な気配に向けて、彼は険しい表情を浮かべていた。

用語解説


ハクナ・ヒュドラ

『元』亜竜種にして、現在まで存命の『吸血種』の傑物。表舞台から引いているが、今でも剣の冴えは健在。時折ふらっと稽古を付けたり、助言を残していく御方。相手を幻惑する戦い方のようだが……

 オーク二名でかかったものの、二人とも「勝てる気がしない」と証言している。

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