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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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旅の準備

前回のあらすじ


この世界の歴史と、テティの過去をひとしきり学んだ晴嵐。今まで抱いた違和感や、今後生きていく張り合いのため、晴嵐は『千年前の歴史』を探す事を宣言。まずは反対側の視点から探すべく、現在この国と対立している『緑の国』を目指すことにした。

 その後の晴嵐は、精力的に働いた。

 まず旅をするには言わずもがな、路銀が必要である。幸い国を跨いでも、金の単位や形状のほとんどは同一らしい。地域によって絵柄や紋様が異なるが……通貨として問題なく使えるとのこと。なのでせっせと金を作る。

 まず猟師として獲物を狩り、獣の肉や毛皮を売り飛ばす。更にちょっとした物資集めと小遣い稼ぎのため、小道具屋や軍の所に押しかけこう言った。


「直したい小物はないか? ジャンクと引き換えにわしが修理しよう」

 

 終末世界でやっていた事。『交換屋トレーダー』としての技術を使い、彼は独特な働き方を始めた。簡単な修理屋だ。

 大工や職人を呼び出し、高い金を払って直すには馬鹿馬鹿しい。しかし自分で手を付けるには面倒くさかったり、知識がなくて自信がない故に放置している……そんな道具は意外と多く、晴嵐はそのスキマに入り込んだ。

 最初の顧客はシエラ兵士長。相変わらず気にしていたらしく、話を持ちかけたらすぐに乗っかった。錆びてくすんだブローチを磨く代わりに、二束三文の壊れたヤカンをいただく。


「こんなのが対価でいいのか?」

「構わんよ。大した事はしておらん。これで金を取ったら怒られるわい」

「それはそうだが……タダ働きか?」

「いやブツは貰っておるじゃろ」

「うーん……?」

「わしはこれで良い。お主も概ね良い。互いに納得して労働とブツを交換しておる。契約として問題ないなかろう」

「そ、そうか? なんだか罪悪感が……」


 真面目過ぎるシエラを半眼で見つめつつも、晴嵐はモノの修復を続ける。そもそもこれは売り込みなので、あまり高い代償で始めては意味がない。

 何度か繰り返している内に、今度はヤスケからも依頼が入る。それを見た別の兵士が、晴嵐に物を頼むようになった。

 こうして物資を集めつつ交換し、自分に必要なブツを手元に残していく。終末世界式の交換屋稼業に精を出し、一通り食器類や調理器具。それと長旅向けの大容量のバックも手に入れた。オンボロだったが、他の雑布系の残骸と合わせて修復している。

 次の準備……と言うより期待せずやる事だが、晴嵐はスーディアとラングレーに対し、メッセージを送る。

『ライフストーン』に文章を綴り、顔と名前を思い浮かべて、緑色の石を黄色の巨大水晶『ポート』に触れさせる。一瞬緑の石が黄色に発光し、送信した事を伝えた。

 相手の顔を知っていて、姓か名が明白なら無事に届くらしい。機械のメールと異なりいい加減でも、反映してくれるのは魔法の力のおかげか。

 内容は近況報告と、自分がこれから『緑の国』に向かうこと。そしてこれから晴嵐は、世界の歴史について調べていくと伝えた。

『調べる余裕が生まれたり、面白そうな情報があればこちらに流してほしい』

 と末尾に書き込み、亜竜自治区のオーク達に連絡を入れる。このメールが届くのは、彼らがポートに触れた時だが……重要度は低いし、時間の空いた時に確認する程度で良いだろう。

 メッセージを送り終えると、近場のベンチで一息ついた。何気なく座った隣から、心底疲れ果てた溜息が聞こえる。

 軽く目線をやると、暗い表情の人物に驚いた。晴嵐の知った顔だが、深い苦悩と暗鬱な表情……晴嵐は初めて見た。


「あ……」

「ハーモニー? 珍しいな」


 まだ幼さを残し、いつもの明るい表情が欠片もない。隣に座るまで気がつけぬ程に、まるで別人めいた気配を発していた。


「あはは……まぁ、そんなこともあります」


 緑色の石ころを手に握り、背中に鉛を抱いたような顔で俯く。晴嵐と同様に、誰かとメールのやりとりをしていたのだろうか? 実は晴嵐としても、彼女には個人的な用事がある。ここで会話を重ねて、とっかかりにしてしまおう。無難な切り口でエルフに踏み込む。


「誰かと連絡を取っているのか?」

「……」

「話したくないなら別にいい。詮索する気はないからな。じゃがその様子だと、上手く行っておらんのか」

「あはは……まぁ、はい。……両親とね、上手く行ってないんです」

「ほぅ? となると……この村に親はいないのか」


 唇を結んで、何度か挙動不審に四肢を揺らす。躊躇いがちに表情筋を動かし、子供のように不器用な言葉を使う。


「飛び出しちゃったんです。『緑の国』を。上手く言えないけど……我慢できなくて」

「きっかけは?」

「わからない。わからないんです。いつもと同じ日、いつもと同じやりとりをしていたと思います。でもそれが……嫌になって。なんて言えばいいのかな……空気が濁ってて、息ができないんですよ、あの国の空気は。だから、一も二もなく逃げたんです。あはは……」

「……」


 とりとめもない言霊は、やりきれない思いに満ちている。『緑の国』はエルフ以外の差別が酷いと聞いているが……エルフ内でも問題があるのか? より深く聞き出すため、そしてこれからの自分のため晴嵐は彼女に告げる。


「わし、これから『緑の国』に行くつもりなんじゃが……」

「えっ!? な、なんでまた!?」

「野暮用じゃよ。極めて個人的なモンじゃがな」

「いやいやいやいや! あんまり言いたくないですけど、やめた方が……」


 あからさまな拒否反応。何が問題か知らないが、ハーモニーにも『緑の国』は良い場所ではないらしい。

 晴嵐はそれでも怯まない。否、怯むに値しない。終末を生きた彼にとって、大半の環境は温いのだ。集団生活が成り立っている時点で、晴嵐は『問題ない』と判断する。

 けれど彼女の反応を見て、彼は使える要素と判断した。軽く驚いたふりをしつつ、ハーモニーとの用事を済ます。


「気持ちはありがたいが、わしの予定は変えられん。そこまで言うなら雑で良い。注意すべき点を教えてくれるか?」

「う……参考になるか微妙ですよ? ボクはエルフ側ですから、他の民族の人と比べたら全然……」

「無知よりマシであろう。礼と呼ぶには些細じゃが……お主の両親の様子を伝えても良い」

「!」


 はっと顔を上げたが、すぐに視線を手元の石に戻す。悩み考える若者を急かさず、じっと晴嵐は反応を待った。


「多分、すごく失礼なこと言うと思います。ボクの親は」

「罵詈雑言なんざ慣れとる。それとも会わせたくないか? わしとお主の親を」

「誰とも会わせたくない。本当に」

「……こじらせておるの。なら遠目で観察してお主に伝えるのは? 仮に顔を合わせても、ハーモニーの名前は出さない。赤の他人として接する。これならどうじゃ?」

「……」


 迷いが見て取れたが、今までの様子と違う。頼んでいいのか躊躇している。気配を察し、晴嵐は背中を押した。


「メッセージ見て落ち込んでおるんじゃ。後ろ髪を引かれていない……とは言わせんぞ」

「……いいんですか? 大変だと思いますけど」

「気にするな。情報料代わりじゃよ」

「釣り合ってない気が……」

「わしなりの流儀じゃ。『タダで物は貰わない』。貸しだ借りだで、後々ゴネたくないからの。で、どうする?」


 一度天を仰いでから、ハーモニーが目を合わせる。僅かに明るさを取り戻し、誠意を込めて晴嵐と向き合った。


「ありがとう。お願いします」

「うむ」

 

 晴嵐と言えど内部の情報なしに、新しい国に入るのは恐い。『緑の国』はエルフ中心の国と聞いていた彼は、ハーモニーからの内々の話を期待して探していた。

 彼女が悩んでいるのは予定外、そしてこの頼み事も予定外ではある。が、彼女の両親の様子を見て報告する……それを対価に引き出せるなら安い物だ。情報を提供するハーモニーも、より真剣になるだろう。

 打算まみれの晴嵐に、親身になって『緑の国』について語るハーモニー。

 チクリと胸に走った痛みから、晴嵐は目を逸らした。

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[気になる点] 一章のオーク村襲撃はおもしろい。 二章の60話~90話ぐらいが 主人公の世界説明 この世界の背景説明 テティの前世 とかのひたすら説明ばっかでつまらなかった。 章すべてを通して説明章み…
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