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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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テティの前世・3

前回のあらすじ


テティのクイズに回答する晴嵐。正解は『外交官』であり、彼女の話の巧さ、歴史好きはこの前世の影響を大きく受けているという。過去について語り続ける彼女は……前世で大きく運命を変えた出来事、『戦争』について語り始めた。

「戦争が起きたのは、私が二十代中期……五か六の頃だと思う。放置された古城を占拠して、ある人々が突然襲い掛かった」


 晴嵐は首をひねる。それは戦争と呼べるのだろうか?


「わしは政治の事はよくわからんが……それは内乱やクーデターとは違うのか?」

「最初はその扱いだった。私も父様も、すぐに鎮圧出来ると考えていたけど……三か月近く滞っていて、流石におかしいと私がメスを入れたの。そしたらこの集団ヒューマンじゃなくて……最初少し言ってた『吸血鬼と吸血種を足して二で割った種族』だったのよ」

「……ややこしいな」

「便宜上『ヴァンプ』と呼ぶわね。彼らは血を吸って仲間を増やすけど、知性は保持したままの種よ」


 血を吸って仲間を増やす点は『吸血鬼サッカー』。知性を保持したままの点は『吸血種』に似る。なるほど確かに、足して二で割った種族と呼べよう。


「彼らは自分たちを新しい種族と名乗り、古い種……つまり私たちの世界のヒューマンを下に見て、自分たちこそが進化形の種だと主張し始めた」

「まるで『自民族至上主義レイシスト』だな……」


 なぜこうも、別の世界の話なのに似通るのか。不思議に思う晴嵐に対し、テティは暗く沈んだ表情を見せる。


「あなたの世界はどうだった? こういう主張をする人はいた?」

「余裕がなくなる前はいた。間違いない」

「そっか……なんでみんな『自民族至上主義レイシスト』的な発想をするのかしらね? 民族、種族、世界も違うのに、こんな共通項があるのが気持ち悪い」


 同感だと頷きつつ、彼なりの見解を述べる。


「物を考えられる奴は、『自分が一番だ』と思いたがる。それが発展して『自分たちの民族が一番だ』と悪化させておるのではないか?」

「……知性があるなら誰だって発症するって言いたいの? 『自民族至上主義コレ』を」

「少なくとも知性のない『吸血種』は、そんな事を言わんかった。思い浮かぶ共通項はこれぐらいじゃ」


 俯いたまま目線を泳がせ、反論を探すが見つからない。

 長く憂鬱な間の後に、悼むような言葉を漏らす。


「夫が聞いたら嘆きそうね」

「夫?」


 声に出してから気がついたのか、素の表情で動転するテティ。目線を泳がせた彼女に晴嵐は尋ねた。


「お主、既婚者だったのか?」

「前の世界でね」

「……想像つかん」


 勝手な印象だが、彼女は恋愛に熱を上げるようには思えない。ただ顔に出していたのはまずかった。機嫌悪く、強い口調で言い返す。


「何よ。別にいいでしょ? ババアになるまで生きたのよ? 隣に伴侶が居たら悪い?」

「い、いや、そうは言わんが……何故むきになる?」

「最後まで愛してたから」

「……」


 今まで散々黒い会話を重ねてきた。そのテティの口からの『愛してた』は、強烈な衝撃力を誇っている。あっけに取られる晴嵐を置いて、テティは一口にまくし立てた。


「私が死ぬ日にも、ずっと寄り添い見送ってくれた。彼も……最後まで愛してくれていたの」

「しかし恋愛する余裕があるのか? 戦争が起きたんじゃろ?」

「……戦争中に出会ったのよ」

「まさか相手は『ヴァンプ』か?」

「ううん。『真龍種』めいた人」


 何度目かの絶句。異種族の夫と愛し合っていた? 皮肉を言うことさえできず、むしろ軽く引いてしまう。彼の反応に傷ついたのか、また彼女は機嫌が悪くなった。


「悪い?」

「そ、そ、そうは言わん。わし側の都合じゃよ」


 顔を背けた後、感情を殺した声を震わせた。


「わしの世界では他人を養う余裕は無い。ハニトラや美人局つつもたせまがいの強盗も多くてな……どうも愛やら恋やらは胡散臭く感じる」

「……寂しい人ね」

「ほっとけ」


 彼の本音で手打ちとし、テティは過去の夫について話し出す。


「彼は『完全不死』だった。老いないのは『ヴァンプ』も同じだけど、首を切ったり脳や心臓を潰せば死ぬ。太陽光を浴び過ぎれば灰になるし、銀の武器や防具にも弱い。

 でも彼に弱点はない。頭潰そうが、全身を焼いて灰にしようが、毒物を盛ろうが……彼は絶対に『死なない』の。だから……私が老いた後も彼は若いままだった」

「今まで聞いた全ての出鱈目が、生ぬるく見えるな」


 突然の情報に頭がショートし、晴嵐は頭皮から湯気を噴き出す。理解を求めないまま、彼女は一気に話を進めた。


「私の夫は戦争にも関わってくる。『ヴァンプ』はやたらと夫を狙ってきてね。動機は自分たち以上の不死性に妬いたみたい。

 彼は……本当に私たちの種を超越しているというか。その、殺されることに慣れてるような人だった。最初の頃はかかってこいと『ヴァンプ』を煽ってたぐらいよ。それが増々気に障った節もあるわ」

「超越した種か……」

「私の国は劣勢だった。貴族たち……政治家たちが『ヴァンプにしてやるからこちらに付け』と、不老不死を餌に引き抜かれて……私の兄弟姉妹もかなり裏切った

 けど彼は私の国に来訪中……人に混じって観光してたのだけど、やたらと『ヴァンプ』狙われて遂にキレた。私は最初、彼を利用するつもりで近づいたの」


 ぐらりと世界が揺れ、貧血で倒れそうになる。新たな種に目を回す晴嵐に構わず、少女は一息に喋った。


「あの人は……どこか遠くにいる人だった。世界を見る事を愉しみにしていて、自分の生命を無視していた。死や老いを気にせずに済むから、外を見る事だけに集中しているような人。彼の精神は間違いなく彼固有の物だった……そういうとこに惹かれちゃったのよね。彼も彼で恋愛は初めてで……そのギャップもカワイイ所」

「前世のノロケ話か?」


 どう反応しろと言うのか。今この世界に居ない人物の話である。その人物との愛や恋だのを晴嵐に語られても……その、困る。

 はっと正気に戻り、咳払いをして少女は筋を戻した。


「あー……ゴホン。ともかく私の国は、残った人員と私の夫の協力で、なんとか痛み分けの形に持ち込めた。『ヴァンプの国』の建国を防いだけど、私の国も崩壊した。一応交渉で抑えていたのだけど、第三国が横槍を入れて来てね……争っていた二つの人員は散り散りになってしまった」

「の割に顔色は悪くないが」

「どさくさ紛れに駆け落ちしたからね。父様だけは背中を押してくれたけど……ここから先はノロケ話よ。聞きたい?」

「……もう満腹じゃよ」

「何よ、スーディアは聞いてくれたのに」

「……」


 あいつにも同じ話をしたのか。彼女を囚われの身から救うため、剣を握った男もこの話を聞いたのか。じっと目を閉じて、別れたオークの顔を浮かべる。

 一連のテティの話は、奇妙な話とは思う。興味関心も引けなくはないだろう。

 だがやはり……命を賭けるほどだろうか。それともノロケ話の方に共感したのか? いずれにせよ晴嵐には、失われた感性でもある。

 胸の内で冷笑する傍ら、嘲る自分自身を嗤う、深い内面からの声がする。


“ならお前は一体、何に命を賭けれるのだ?”


 ……分からない。本当に。

 心が、情熱が、とうの昔に死んでいる自分は『死にたくない』と足掻くことは出来る。

 だが積極的に『何がしたいか?』と問われると、本当にわからない。生きることに手一杯で、そこから先をどうすれば良いのか……方針を立てる事が、難しいのだ。


「……セイラン?」


 ほうけた顔で固まる彼に、軽い声を寄越すテティ。

 彼は逃げ道を塞ぐべく、これから進む道を彼女に告げた。

用語解説


『ヴァンプ』

テティの世界に現れた種族。『血を吸って仲間を増やす』点は、晴嵐の世界の『吸血鬼』と。『知性を維持したまま』な点が『吸血種』と同一な種族。太陽光が苦手で、銀の武器や防具を極度に嫌う(ここは吸血種、吸血鬼とも同一の特徴)

人間を下に見て、建国を試みた様はまるで『自民族至上主義』。戦争で人間と痛み分けになった後、息を潜めたようだが、その後の行方をテティは気にしていない。


『テティの夫』

 前の世界で、彼女の伴侶だった男性。男性と言うが『真龍種』めいている上、『完全不死』というぶっ飛んだ能力を持つ。精神的にも既存の種を超越しており、テティはそんなところに惹かれたらしい。

 が、人間を低く見ていた『ヴァンプ』にとって、自分たちより上位の種族の存在は……彼らにとって我慢ならなかった。結果として彼は戦争に巻き込まれるが、最初は軽くあしらっていた模様。なおやり過ぎて逆鱗に触れ『ヴァンプ』の一派は大きく力を削がれる事になる。

 そのどさくさ紛れで、テティを連れて駆け落ちした。国も崩壊していたので、絶好の機会ではあったかもしれない。

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