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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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テティの前世・2

前回のあらすじ


テティの前世語りが始まる。彼女の世界は……この世界とも、晴嵐の世界とも、全く異なる世界だと言う。十一番目の姫君にして、妾の娘だった彼女は、立場に甘えることを否として、政治家として国に貢献することを目指した。

 そこでテティは晴嵐に問う。「私はどんな政治家だったでしょう?」

 問いかけや合いの手を挟みつつ、晴嵐は少女の過去を聞く。

 その中、突如として放たれた出題『テティの前世は、どんな政治家だったか?』……彼は鼻息を漏らしつつ考えた。

 ――まず、テティは成り上がった父親の娘であり、妾の娘であったこと。11番目の姫君と自称した。

 となればだ。兄弟姉妹の中で、序列はさほど大きくない。

 生まれた順番で運命が定まる理不尽に対し、彼女なりに抵抗し政治家の道を志した。

 基盤がある分、不可能ではないと思う。が血筋の順序を考えると、中央や中枢に食い込めるだろうか? 確証を得ないまま、声に出しながら考えを纏める。


「お主は……他人と腹黒い会話を交わす役職であろう」


 最初威圧を受けながらの問いに、晴嵐が『政治家』と答えた根拠の一つだ。

 彼女は非常に話し上手だ。晴嵐に向けた常識の話も、この世界の歴史の話も、比較的分かりやすかった……と思う。

 そして聞くのも上手だった。オーク拠点から逃げ出した直後、ぼんやりと正体を明かした会話も、テティの家で晴嵐の『別の世界』の会話の時も、彼女は中々キレる部分を見せていた。

 ただ頭が良いのではない。勿論自頭の良さもあるだろうが、他人と言葉を交わす事に慣れている感触がある。

 そしてもう一つ重要なヒントがある。彼女は『作り話』も巧い。

 オーク拠点から逃げ出した後……彼女は即興で口裏合わせの話を作りあげた。絶妙に真実を立てて、隠したい部分を遠ざける言い回しは、未だに誰にもバレていない。自分たち二人がうっかり漏らしでもしなければ、外部に気づかれることはないだろう。

 

「お主は話が巧い。どこかと交渉するような役割じゃった……と想像しておる」

「そう思うの? フフフ……では私は何でしょう?」


 解答を急かすテティに、一度視線を地面に向けて考え込む。まだ決めきれないが……自信なさげに解答した。


「お主は……商人と国の流通周りの担当ではないかと予想する。名前を知らんので、ぼかした言い方になるが……商人と腹黒い会話や駆け引きを交わしつつ、自分の国を守る……そういう役職と予想するが、どうじゃ?」


 ニンマリとテティは笑ったまま、彼女は何も答えない。ゆっくり前のめりに晴嵐を見つめ、長く長く間を溜めた。

 返答を焦らされ、気がつけば彼は手を握っている。晴嵐の緊張を楽しんだテティは、申し訳なさそうに両手でバツを作った。

 がっくりと晴嵐は部屋の天井を見上げた。的中の予感が胸から霧散し、毒の少ない舌打ちを漏らす。気を取り直し正解を聞いた。


「正解は『外交官』でした。考え方は間違っていない。あと一歩ね」

「ぬぅ……交渉の相手が違ったか……」


 国と商人ではなく、国と国との調整役だったか。もう少し手がかりがあれば、たどり着けたかもしれない。

 口惜しげな彼を察したのか、テティは人差し指を立てて片目を閉じる。


「ほとんどノーヒントだし、私も正解すると思ってない。そう気を落とさないで」

「真剣に考えて失敗すれば落ち込む」

「今のは箸休めの話題よ」


 真面目な反応を見て笑う少女。男はむすりと顔を背けた。拗ねる晴嵐に対して、テティはじっくりと言い聞かせる。


「そうね……もし見抜くなら『私が歴史好き』な所に目をつければ、答えにたどり着けたかもね」

「歴史? 外交官と歴史が関係あるのか?」

「ありあり大ありよ! 歴史の見解の違いや、衝突の軋轢で問題が起こるなんてよくある話。自分の国の歴史を知ることは、今自分の国の立ち位置を深く知ることに役立つ」


 若干声量を大きくして、晴嵐に強く告げる。微かだが怒気を感じたが分からない。渋い顔を表に出し、まとめきれないまま口に出す。


「そう言われてもな……わしの壊れた世界では余裕はない。んなモン学ぶ時間あるなら身体鍛えたり、道具を作ったり直したりする時間に回すがな」

「あなたの環境は特殊過ぎ……」


 それはそうだ。彼のみならず崩壊前の人間は、社会が壊れるなんて夢にも思わない。

 だが崩壊前の事を思い出すと、国同士の問題で『歴史』は重要な一要素となっていた覚えがある。


「文明が生きていた時期には、そういうやりとりを必要とした事もある。全く分からなくはないが……縁遠いことじゃな」

「教養も?」

「犬にでも食わせておけ」


 にへもない返事に目眩がしたのか、くらりと少女の身体が揺れた。しばらくうめき声を上げた後、ぼそりと一言。


「なんで私達、問題起きなかったのかしら」

「人の黒いところを認めているからではないか?」

「嫌すぎる共通点ね……」


 苦々しく笑うテティに、つられて男も合わせる。ひとしきり談笑を挟んだ後、話を本筋に戻した。


「他にも歴史は、外交にとても役立つ」

「問題になっていなくとも?」

「そうよ。例えば相手も人間だから、ずっと真面目な話ばかりだと疲れちゃう。軽いトークや時間を潰したい時は『相手の国の偉人』をネタにすると受けがいいのよ」

「あー……比較的使いやすい話題なのか。じゃがその偉人を個人的に嫌っていたら?」

「不機嫌になる程度よ。しつこくやると怒られるから、察して別の偉人の話に切り替えれば何とかなる。それで相手の性格を探ったりもできる……」

「おお……怖い怖い」


 なまじ容姿が整っているだけに、笑みの黒さはより際立つ。ぞくりと走る悪寒を抑え、少女の話を素直に聞く。


「幾分かは私の趣味だけど、歴史の学ぶのは色々と効率が良いの。

 物事の順序を学べば論理的な思考力が、

 偉人の性格や人格を学べは人の心が、

 諸説ある過去を調べ検証すれば、多角的な思考力が身につく。その全てが教養として自分の血肉になる。役に立つしオススメよ」

「……そうだな。悪くない」


 無難な返事だが、晴嵐の腹の内では『千年前の過去』が頭をよぎった。自分で真実を探すのならば、今上げた彼女の要素は参考になる。男の心情を露とも知らずに、少女は昔話に戻る。


「私は外交官として、私の国や父親を支えた。一つ大きな問題があったからね」

「ふぅん……パッと見、問題を抱えてそうな親父ではあるが」

「逆よ『問題を解決し過ぎて』問題な父だった。いつもワンマンで解決するから、周りの役員が育たないのよ。私も立て直しに加担したけど……間に合わなった」

「何に?」

「……大きな戦争」


 またかと呆れる反面、人の世に争いはつきものと理解する。

 千年前でもない、晴嵐の世界でもない、三つめの世界の戦争の話が始まる。

用語解説(今回は人物の深堀です)


テティ・アルキエラの前世・1

 成り上がり者の父親。その妾の姫君として生まれ、生活していた人物。彼女はただ養われる事を嫌い、外交官として国に貢献することを目指した。

 晴嵐への歴史についての説明や、時折見せていた話の巧さの根源は、前世の外交官として、その経験を生かした物である。

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