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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編
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襲撃

前回のあらすじ


焼いた兎肉を晴嵐とシエラの二人で平らげ、色々と話し合った。何故か通じる言語、自分がこの世界で今も生きている意味、悩みも疑問も無数に湧き上がり、迷う晴嵐。けれど今を生きるべきだと決意し、彼は防犯用の『呼び鈴』と、いくつか準備してから眠りにつく

 刺すような冷たい空気と、灰色の空の下で彼は息を潜める。

 日の光が珍しくなった世界だが、それでも吸血鬼サッカーは日中の活動を嫌う。流水は平気なのか、雨が降ってもお構いなしに動き回るが、夜行性なのは好都合だった。

 五感の鋭い吸血鬼に、忍び歩きで距離を詰める。

 路地裏で眠る敵に突き立てるのは、愛用のサバイバルナイフ。銀の杭は存在しなくとも、首を落とすか心臓を穿てば奴等は死ぬ。銃弾でも効果有りだが、急所に直撃させるのは至難の業だった。仮に倒せたとしても、銃声が別の吸血鬼サッカーを引き寄せてしまうだろう。故に、ナイフで一匹ずつ仕留めていくのが有効だ。

 男と女の二人組に、手早く心臓を突き刺し絶命させる。横たわる二人の死に顔を見て震えた。

 皮鎧の女兵士と、晴嵐 大平――自分の顔をした死体が、虚ろな目線でこちらを移す。理解不能に陥り、狂乱と共に叫びそうになった瞬間……

 パリン! と瓶の割れる音がした。

『呼び鈴』で悪夢から飛び起きた晴嵐は、同じく目を覚ました女兵士と視線が合う。空が白み始めているが、まだ視界が悪く木々の先を見通せない。

 女兵士は鞘から剣を抜き、晴嵐は火勢の落ちた焚き木近くで、寝る前に準備した道具を取り出した。

 ちょうど握れる大きさの木に、ゴブリンの腰巻を巻き付けた棒は、同じくゴブリンから奪い取った油瓶を染み込ませてある。後は火をつければ、即席松明の出来上がりだ。

 手早く着火し、高く炎を掲げて呼び鈴を鳴らした犯人を捜す。闇にうっすらと浮かび上がったのは野犬を一回り大きくした黒い影だった。しかも複数。


「狼か!」


 女兵士の声に混じり、獣の唸り声がいくつも響く。火を恐れてはいるが、今にも群れを成して飛びかかってきそうだ。空気を張りつめる人と獣。緊張を破ったのは、女兵士の剣だった。


「下がっていろ!」


 細身の西洋の剣の表面で、パチパチと静電気が爆ぜるような音がする。いや『ような』ではなく、事実剣が雷光を放っている……!

 なんだあの武器は。瞠目する晴嵐。更に衝撃は続く。

 飛びかかる狼の腹へ剣を打ち据えると、バチン! と漏電した時のような音と、激しい火花が暗闇に散った。湯気を立て、痙攣し、横たわる狼は感電死している。

 しかし狼共の数は多い。何匹か動揺したが、一匹の狼が軽く咆えると、統制を取り戻しじりじりと距離を詰めてくる。思考を巡らせ、晴嵐はゴブリンの死体を見つめた。


「時間を稼げ」

「わかった!」


 剣を掲げ、鋭く狼を指向した瞬間……今度は稲妻が周辺に放射される。飛び散る雷撃は何体か直撃したが、威力は落ちるのか倒せていない。

 このままではジリ貧。額に冷たい汗を流し、女兵士は震えを抑えこむ。緊張を保った均衡を破るのは晴嵐の投擲だ。

 腐り始め、粘度の高くなった血液を振りまきながら投げつけられたのは、彼が殺したゴブリンの足。念のためにと寝る前に、程よい大きさの肉塊に変えていた。獣たちには手軽なエサとなり、よほど飢えていたのだろう……狼たちは我先にと肉を貪りだす。

 そのまま四肢を投擲した晴嵐は、前方に飛び出した。

 野犬や狼の群れには、集団の場合リーダー個体が存在する。見分け方として「全体の事を気にする」「大きく力強い」「遠吠えや仕掛ける時、先頭にいる」等があり――一匹だけ、肉を貪る狼たちをなだめようとする個体を、晴嵐は狙い撃ちにした。

 意識を逸らすリーダー狼へ、ゴブリンから奪ったナイフを投げつける。頭の側面へと突き刺さり、頭の狼はきゃんっ! と悲鳴を上げた。

 リーダーの悲鳴に食事をやめ、慌てて振り返った無能な集団が目の当たりにしたのは、喉を下からナイフで突き刺され、致命傷を負った群れの長の姿だった。

 こひゅーっ……とかすれた吐息と血液を漏らし、絶望した眼差しが虚ろに漂う。狼たちは怒りも恐怖もなく打ちひしがれ、ただただ立ちつくしていた。


 彼は全く容赦しない。群れへ続けざまに晴嵐はナイフを投げつけた。長が殺され、仲間が嬲られ、未だに殺意をばらまく彼の姿は、狼たちには死神の様にしか見えなかったのだろう。情けない悲鳴を上げながら、狼たちが散り散りになって森の奥へと消えていった。

 深追いはせず、この期に及んで食事を続ける愚鈍に絞ってナイフを投げつける。統制を失った狼たちは脆く、女兵士も近場の敵と、雷撃でスタンした獣目がけ剣を振り下ろした。

 流石に鈍い輩も逃げ出し、残ったのは人間二人と薪の爆ぜる音。そして二人が仕留めた狼たちの死体だけだった。気配が消えたのを確かめ、二人は武器をしまい、一息ついた。


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