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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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窯に籠る龍

前回のあらすじ


五英傑について語り続けるテティ。三人目は以前話した『歌姫』で、四人目は『測定不能の異能力』を停止させた英雄だった。その後も世界に貢献する在り方に、晴嵐は共感を覚えたようだ。

 今までの英雄たちは、どれも壮大過ぎてしっくりこなかった。

 やれ無限に敵を切れる刀だの、やれ初めの大魔導士だの……この世界の過去に起きたであろうことは、晴嵐の頭で処理するにはスケールが大きすぎる。作り話もかぐやの情報量に、終末の老人は目が回った。

 必死に呑み込む物語の中で、現れた一人の英雄は……どこにでもいる一人の人間。自らの命が尽きるまで、世界を良き方向に導こうと歩き続けた、一人の人間の話だった。


(こういう人間が、もう少しだけわしの世界にいればな……)


 異能云々は分からないが、この英雄の持つ『異能審判』は、欲深き者ども限定の能力である。世界を賭けた戦いが終わればお役御免。そのまま隠居するのが自然だろう。

 それでも……この人物は止まらなかった。馬鹿なやつと思う反面、見どころのある人とも思う。終末で失敗したリーダーの顔が浮かんでは消え、彼は無意識に唇を苦く結んだ。


「……そろそろ再開していい?」

「ああ。待たせた。最後の一人は……『真龍種』だったか?」


 過去の郷愁から目を背け、今この世界の話を取り込む。一般教養と常識が無ければ、生活はおぼつかないままだろう。彼の内面を知ってか知らずか、柔らかな微笑みと共に、テティは最後の一人の名を告げた。


「そうよ、この方も存命中。今もドワーフと深い親交を持つ方ね。仇名は『窯籠り』」

「……全然想像つかん」


 今までも晴嵐の常識外ばかりだが、連想の難しい名前である。籠っていて英雄になれるわけがない。そもそも龍ではなかったか? 混乱する晴嵐に、テティは苦笑を重ねた。


「この方は炎の龍。赤い鱗に四枚の羽で空を飛び、火山のマグマを風呂代わりにして、口からは火炎を噴き出す」

「ハハ……その能力で戦ったのか?」

「初期のころはね。途中からは鍛冶仕事も兼任したの」

「あん? 鍛冶?」


 口から炎を吐く伝説のドラゴンが? 闘うならともかく、裏方仕事を担当する? 意味が分からない。何故金属を鍛える必要が――そこまで考えを巡らせたところで、晴嵐の指が止まった。

 必要がある。そうだ、千年前は『輝金属』が必要になった時代ではないか……


「その龍が『輝金属』を精練したのか」

「正解! この人が『黄昏の魔導士』の剣を元に、初めて『輝金属』を作り上げた人。二つ名の『窯籠り』は、独特の精製方法が由来ね。

 さっき火を噴くことが出来て、溶岩を風呂代わりにするって言ったでしょ? 要はこの人……炎を司る龍だから、自在に扱えるし耐性もある。だからね――『自分の噴く炎を炉心にして、巨大な窯の中に籠って金属を打つ』事で輝金属を鍛えたのよ」

「………………もう、何が何やら」


『ミノル』という五英傑以外、どいつもこいつも雲の上の存在……いやもっと遥か高みにおわす方々としか思えない。一応一つだけ腑に落ちたのは、この龍の仇名の由来だ。

 自分を窯に閉じ込めて鍛冶を行う。故にその二つ名は『窯籠り』。時に前線を龍の姿で戦い抜き、時に輝金属を精製し、もう一度魔法を取り戻した英雄……

 壮大な昔話を受け、晴嵐は目を回しつつも……その骨組みを妙に思った。

 千年前の文化や技術が、今の段階まで色濃く残っている。当時の英雄が存命だからか? それだけの年月があれば、もう少し世界は発展しそうなものだが……

 けれども、祀られるに値する人物と思う。世界を守るだけじゃない。今この世界に普及する技術、その雛型や大元を作り上げた人々……マスターのようなファンが生まれるのも、順当な所と言えよう。

 何度か頷く晴嵐に対して、晴れ晴れとした顔でテティは言った。


「ふぅ……これで全部よセイラン。お疲れ様」

「全部、とは?」

「種族と魔法、そして歴史……細かい習慣は色々あるけど、常識の骨組みは一通りオシマイ。困る事は無い……と思う」

「わしも特に質問はない。後は自分で調べるとしよう」

「ふーっ……やっと肩の荷が下りたわ」


 やりきった顔で、大きく息を吐くテティ。これですべての『常識』の基礎を、晴嵐に伝え終えたという。本気で胸をなで下ろす様を見て、晴嵐はカラカラと笑った。


「そこまで気負うことは無かろうに」

「恩人の一人だもの。真剣にもなるわ」

「お陰で助かった。こんなことお主以外には頼めんわい」

「でしょうね」

「ただ……一つ質問いいかの?」


 紫の瞳がきょとりと見つめる。質問はないと言った直後では不思議に思うだろう。彼が聞きたいのは『この世界の歴史』についてではない。


「わしに話すためだけに……ここまで詳しく学んだのか? お主は話し上手、聞き上手なのは察しておる。が、情報量といい理解度といい、一朝一夕の物ではあるまい?」


 彼女は――この世界の常識と歴史に『詳しすぎる』

 知識や情報を人に伝達するには、深く事柄を理解する必要がある。テティの澱みない解説は、深く深く知恵を得た物と言えた。

 常識だから知ってて当然……と言う認識は甘い。むしろ常識だからこそ、深く理解せず『とりあえず使っている』人間も少なくないのだ。さながら『魔導式』の魔法のように、便利に使うが理解は浅いまま……たいていの人間はそうだ。

 テティは違う。この世界を深く把握している。ちょっと勉強して話しただけ……とは思えない。


「そうね。今は密室だし……私の与太話をしましょう」


 数回頭を動かして、少女は紫の瞳を閉じた。吸った空気が胸を上下させた後に、ゆっくりと改めて男を見つめる。

 力の強い目――こちらの底まで射抜く痛烈な目力に、晴嵐は反射的に構えそうになった。

 この場において、彼女は武器を持たぬただの小娘だ。何も怯える必要はない、もめ合いになっても負けはしない、なのに何故か――震えが止まらない。

 まるで女王に鋭く威圧されるかのような……異質な圧迫感の中で、テティの声だけが頭に響く。


「あなたに問います、姫君の意義とは?」


 大した質問ではない。ありふれた問いなのに、晴嵐は口ごもった。

 甘い発言や浅い発言を許さない、人を縫い止めるような言霊に凍りつく。姫より女王めいた圧に、口の中が渇いていた。

 洞窟での初対面の時の、強い意志を宿した両目がある。あの時は奥底に慈愛が含まれていた気もするが、今の彼女の視線に慈悲の欠片もない。

 これが、この気迫が『前世』の目か。むき出しになる「姫君」の圧の中で、晴嵐は彼女を真っすぐ見据えて一言。


「……政治家」


 ただ祀られるだけのお飾りが、人の心をこうも威圧することはできまい。返答に満足したのか、先ほどまでの威厳は一瞬で掻き消えた。


「及第点ね。安心した」

「……何か違ったか?」

「姫君全般の意味だとちょっとズレてるわ。私のことを言ってるなら満点だけど」


 指に手を添え、クスクスと少女は微笑む。

 片方の眉を上げる晴嵐に……「生まれ変わりの少女」は、昔話を始めた。

用語解説


『窯籠り』

 五英傑最後の一人は、炎を司る龍である。口から火炎ブレスを吐き、四枚の羽で空を飛び、千年前の戦争初期には前線にいた。

 後期からは『黄昏の魔導士』から提供された『元型輝金属』を元に、『輝金属』の生産に務める。その際『巨大な窯に自分ごと籠り、ブレスを吐いて金属を鍛える』方法を取ったため、『窯籠り』と呼ばれるようになった。

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