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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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人らしい英雄

前回のあらすじ


かつて世界を救った英雄たち、吸血種の英雄の二人の事を話す。一人の女剣士と、一人の魔導士の話を続けていたが、マスターが熱くなって解説を始めてしまう。勤務中のゴーレム、テレジアに停止され、テティと晴嵐は再び部屋に戻ることにした。

 階下に響く喧噪をよそに、二人は再び宿屋の一室に籠る。少し罪悪感でも抱いたのか、セイランは少女に耳打ちした。


「……わし、あの言い方はまずかったかの?」

「あなたは知らないし、しょうがないわよ……マスターは『黄昏の魔導士』の事になると、歯止めが利かないから……遅かれ早かれこうなったんじゃない?」

「そ、そうか……」


 両目を細くして身体を揺らし、軽く顔が引いている。正直あの状態のマスターはちょっと怖い。テティも彼と同じ気分だ。

 気を取り直し、部屋の椅子に腰かける。向かい合ったセイランは、伝説の続きをせがんだ。


「吸血種二人と……残りの三人は?」

「ヒューマンが二人、真龍種が一人よ。全員二つ名を持っているわ」


 再び両目を細くして、無言で『胡散臭い』と訴えるセイラン。おとぎ話めいていると思っているのだろう。残念ながら、この世界では紛れもない『史実』である。


「まず『歌姫』様。彼女の説明は以前したから飛ばすわね。もう一人のヒューマンから話すわ。以前ちょっと話したけど、この人も『歌姫』様と同じ空から降って来た人たち。ほら、歌姫様と一緒に離反した人の一人」

「あぁ……何人かいると聞いた」


 離脱する歌姫に賛同した、マトモな感性の来訪者たち。つまりそのヒューマンも『規格外の異能』を保持していた。


「彼の名前は『ミノル』。持ってる異能はかなり特殊で、それがそのまま二つ名になってる。『異能審判ジャッチメント』と言って……誰かが『測定不能の異能力』を犯罪や悪事に使うと、その人間の位置を完全に特定、能力を任意のタイミングで封じる……異能力に対する対抗能力よ」

「デタラメを封じるデタラメか……となると、離反後すぐ決着はついたのか?」


 テティは首を振った。


「そうはいかない。この能力に対抗するべく異界の悪魔は『悪魔の遺産』を作ったのよ。前もちょっと話したけど『材料に手をかざすだけで、完品を成形する』異能力者がいたのがまずかった。道具を作る能力は『異能審判』で中々止めれなかったの」

「? その道具で非道行うなら黒じゃろ?」


 金の髪をかき上げ、少女は後頭部に手を当てる。彼にも伝わるよう話をまとめた。


「例えば……包丁で人殺しが起きたとする」

「なんじゃ藪から棒に」

「いいから聞いて。この人殺しについてだけど、包丁が悪いの? 人を殺した人物が悪いの?」

「そんなん、時と場合によるじゃろ。白か黒かすぐ分けれる案件ではない」

「じゃあセイラン、包丁を作った人は悪かしら?」

「どうかの……作り手は人殺しの道具として、この世に送り出した訳ではないだろうが……」


 逸れた話題を真剣に考える彼。やがて自分で気がついたのか、彼は顔を上げた。


「『道具を作る』だけでは、罪の有無を判別できない?」

「そうよセイラン。結局道具って『使い手によって変わる』側面があるでしょ? だから『異能審判』で停止するまで、かなり猶予があったの」

「……その猶予期間で『悪魔の遺産』を生産したのか」

「『悪魔の遺産』を生産する施設もね。今でもたまに、遺跡が掘り起こされる事があるとかないとか。だから裏市場でたまに『悪魔の遺産』が出回ることも……」

「あんな恐ろしいモンが……」


 脅威を肌に感じた彼には、身の毛のよだつ話だろう。その割に冷静なのは、彼は過去の体験で絶望に慣れているからか。


「とはいえ『悪魔の遺産』以上に恐ろしい異能は、山ほどあったみたいだからね……タチの悪い洗脳能力とか、時間を操る能力とか……ミノル様がいなかったら、勝利はもっと難しかったでしょうね」

「もう冗談のようにしか聞こえん」

「私も全部は信じてない。けれど彼の功績は、戦争終結後の方が大きいの」

「終戦後?」


 テティはいつも携帯している緑色の石、『ライフストーン』を取り出した。脈絡の読めない彼へ、見せつけるように掲げる。


「『ライフストーン』と『ポート』は、彼が主導して開発と普及を進めたモノなの。本人は同朋の罪滅ぼしと言って、戦後復興も積極的だった」

「この石ころを……」

「他にも……ゴーレムが自分たちの権利要求をした際に、いち早く賛同して一緒に自由を訴えた。他にも細かい事はたくさんあるけど……亡くなるまでずっと活動し続けた人よ。いまいち地味だけど」

「他が異常過ぎるだけじゃ。偉人と呼ぶ事に違和感はない」


 ゴーレム以外の民族だと、あまり評価を受けていない五英傑である。セイランの受けも悪いと思いきや、不思議と目を閉じて聴き入っていた。

 目を合わせ、彼の内面を掘り出そうとする。異界の彼は……だからこその視点で答えた。


「わしにしてみれば、他が規格外な分『ミノル』と言うにんげ……ヒューマンは、好感が持てるな。いや、親しみが持てると言うべきか」

「初めて聞いたわ。あなたの肯定的な意見」

「むしろ評価が低いのが納得いかんな。この英傑は獲得した名声に甘えておらん。自分の足を最後まで動かし続ける人間……こういうヤツは敵に回したくない」

「そういう評価基準?」

「実際手ごわいぞ? この手の輩は諦めが悪い。いくら打ちのめされても、何度でも立ち上がってくるタイプじゃろ」

「当たってるわ。なんで分かるのよ……」


 セイランの顔が露骨に曇った。以前に見せた暗い顔、滅びた世界の住人の顔だ。


「文明復興組のリーダーがそうだった」

「……そっか」


 確か、世界を取り戻そうと戦った人間だ。

 ……その人間を、セイランは重ねている。


「亡くなってから偉大さが分かるタイプじゃな。となると短命だったか?」

「ううん。天寿を全うしたそうよ」

「そうか……」


 彼の瞳には安堵がある……初めて見る、穏やかな目つきだった。


「感動してる所悪いけど、最後の一人に移っていい?」

「べ、別に……何とも思っていない、訳ではないが」


 繕おうとして、口ごもるセイラン。

 語りがいのある相手に対し、少女はゆっくりと伝説を語り続ける。

用語解説


ミノル

 世界を救った五英傑の一人。『歌姫』同様、空から降ってきた人々であり、欲深き者どもから離反した一人である。『測定不能の異能力』を停止する能力、『異能審判ジャッチメント』で貢献したが、結果として『悪魔の遺産』を蔓延させるきっかけになった。とはいえ、彼がいなければ対抗出来たか怪しい。

 しかし『ミノル』は戦争終結後も、積極的に世界に貢献し続けた人物である。この世界における通信インフラ技術『ポート』及び『ライフストーン』を普及させ、さらにゴーレム人権運動にも積極的に参加し、世界のため『罪滅ぼし』と活動し続けた人物である。

 天寿を全うし、既に他界している模様。地味な英雄と呼ばれるようだが、晴嵐は高く評価したようだ。

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