表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/740

吸血種の英雄

前回のあらすじ


魔法についての例外を知り、その過程で『吸血種』は千年前から存命だと言う。加えて社会的地位もあると知り、内心荒れに荒れる晴嵐。テティは五人の英雄の話に移り、その中にいる吸血種について話、彼の中の吸血種に対するイメージ改善を図る。

千年前の五人の英雄……『五英傑』

 そのうちの二名は晴嵐が敵視してしまう種族、『吸血種』という。一体どのような英雄なのか? 晴嵐が偏見を振り払うのに値する人物なのか……じっと語り部の少女を見つめる。


「じゃあ『無限鬼むげんき』様から話すわね……さっきも少し話したけど、彼女はすべての『吸血種』の始祖なの。千年前では、常に最前線で戦っていた人よ」

「バリバリの武闘派か……しかも女……」

「種族として優れた能力もあるけど、無限鬼様は鍛えてるからね……有名なのは『亜竜種の戦士との百人組手』ね。全員峰打ちで彼女が黙らせたとか」


 確か亜竜種は武人気質で、近接戦闘に優れる種族だったか。その百人に対し一人で勝利……字面だけ聞いても冗談にしか思えない。


「イカレとる」

「他にも武勇伝はたくさん。気になるなら後で調べて欲しい。色々と揉めるけど、大体戦いの後に和解する話が多い」

「殴り合っての青春じゃあるまいし……」

「正解。女性だけど『剣で語り合う』気質の人ね」


 相当な女傑と見受けられる。性別を間違えて生まれたのだろうか? そもそも吸血鬼ならば、剣ではなく牙と爪で襲い掛かりそうなものだが……

 いかんいかんと己を戒める。自分の持つイメージが偏見なのだ。払拭するための話を、真剣に耳に入れねば意味がなくなる。

 頭を振り終えると、テティは瞳を合わせてから続けた。


「彼女の二つ名の由来は、その得物にあるの。『無限刀むげんとう』と呼ばれてる」

「なんじゃそりゃ? 全身に刀でもしょってるのか?」


 一瞬思い浮かべた、とある坊主の従者の像は、テティの不思議そうな顔で掻き消える。……武蔵坊弁慶とは違うようだ。


「無限鬼様の武器は長期戦に向かない。長く戦うと切れ味や強度に難のある武器だけど……彼女の『無限刀』は、永遠に敵を切り続ける武器とされてるわ」

「それは『測定不能の異能力』とは異なるのか?」

「違うとされてる。真相はわからないけど」


 ざっくりとした感想だが……この『無限鬼』と言う英雄は、無限に敵を切れる刀を持って最前線で戦い続けたのか。


「恐ろしい話よな。『鬼』と呼ばれるのも納得だ」

「敵にしてみればね。味方には慈悲深い方なのよ? 弱気を助け悪を挫く! を地で行く人だし。優れた戦士を『吸血種』として蘇らせた実績もある」


 この『無限鬼』だけが、『吸血種』を増やせる存在。以前の解説と英雄譚がかみ合い、彼の脳にピンと来た。


「今生き残っとる『吸血種』は――英雄に認められた奴なのか」

「そう。千年前の英雄と共に戦い、死なせるには惜しいと祝福を賜った人。それが現在の吸血種の立場なのよ」

「なるほど、敵意を抱くなぞ恐れ多いわけだ」


 つまり吸血種は一人残らず、千年前の英雄と肩を並べた人物なのだ。長寿のおかげで、現代まで存命とは驚くばかり。となると、『無限鬼』本人も生きている? 行く末を訊ねると、少女は目線を宙に泳がせた。


「わからない。生きているとも、死んでいるとも……この人放浪癖があるみたいで、ふらっと世界を歩いては、悪党の前に出て介入するそうよ。決め台詞は『控えよ、この無限刀が目に入らぬか!』」

「……水戸黄門か?」

「誰それ?」

「あー……似たような偉い人物が、わしの世界にもいてな」


 刀といい、独特の口上といい、英雄のイメージが女傑の着物女に代わってしまう。流石にそれは無い……ないよな?


「どう? 吸血種の印象は変わった?」

「うむ……あまりに別種よな」


 幾分か誇張もあるだろうが、晴嵐の知るケダモノの印象は祓えたと思う。紫の瞳を細めて、彼女はもう一人を紹介した。


「もう一人吸血種の『五英傑』がいるの。彼の二つ名は『黄昏の魔導士』……」


 ぴく、とカウンター奥で働く亭主の手が止まる。この宿の名前『黄昏亭』の事を思い出し、宿泊客は肩を揺らした。


「亭主はファンなのか?」

「もうマニアとかソムリエのレベル」

「で、あろうな……」


 よほど好いていなければ、自分の持つ店に名づけはしない。心なしか従業員たちも、生暖かい気配を発している気がする。


「この方は今『緑の国』にいる。千年前の功績は『輝金属』をこの世界に持ち込んだことよ」

「持ち込んだ?」

「『無限鬼』もそうだけど……『黄昏の魔導士』は『異界の悪魔』と、同じ世界から来たとされている。やって来たのは……」

「悪魔どもの奇襲攻撃の直後!」


 突如カウンターから飛ぶ声に、テティは軽く咳払い。慌てて顔を背けて、亭主は再び仕事に戻った。


「幸い吸血種の方々は、最初からユニゾティア側よ。離反までの間、かなり『無限鬼』様が敵を押しとどめていたとか」

「その間『黄昏の魔導士』は?」

「裏で『歌姫』様たちが逃げ出せるよう、段取りを整えていたみたい。魔法の封殺も既に行われていたけど、彼だけは魔法を行使出来た。腰に差した……何でしたっけ?」


 ド忘れしたのか、それとも振りなのか。視線を亭主にやると、ウッキウキの顔で得意げに答えた。


元型輝金属アーキメタル・レーヴァテインな! 見た目は真っ赤なレイピアだ」

「あぁハイ、どうも。おかげで彼だけは『魔法』を使えた。そして彼の輝金属を解析して量産、もう一度魔法の発動を可能にしたの」


 冷やかに応じるテティを尻目に、晴嵐は首をひねった。封じられた魔法を再発動させた……大きな実績だと思うが、本人より道具の功績に思える。


「それだけじゃと、いまいち影が薄くないか?」

「んなワケねぇよ! あの方は悪魔の技をコピーして、正しく使って下さった方なんだぜ?」

「……例えば?」

「遠方への瞬間移動や物資の転送、天候の変動や制御、そして歌姫様の『完全和解』さえ身に着けておられる! 他にもだな――」

「警告、業務効率の悪化を検知」


 べらべらと饒舌に語る亭主に対し、見かねたゴーレムが眼光をぶつける。無機質なのにその目線は妙に鋭い。若干怯んだものの、亭主はぐっと前に出た。


「こ、ここで止めんなよテレジア! まだ足りねぇのに!!」


 熱くなりっぱなしの亭主を無視して、淡々と業務をこなすべく二人に提案する。


「お二方……申し訳ありませんが、続きは彼の部屋でお願いします」

「……しょうがないわね」

「うむ」

「そんな殺生なー!」


 大の大人の情けない悲鳴を背に、二人の見た目若者が室内に戻る。

 ……しばらく聞こえる口論に、中身老人の二人は小さく笑った。

用語解説


無限鬼むげんき

 この世界で唯一吸血種を増やせる『始祖吸血種』にして、最前線で敵を切り続けた女傑。性別を間違えたとしか思えぬほどの、バリッバリの武闘派。『戦って相手の心根を計る』を地で行く人のようだ。

千年前では、共に戦った優れた戦士を吸血種として蘇らせ、自身も、無限に敵を切り続けられる刀『無限刀』を振るい活躍。現在は所在や生死が不明だが、悪党の前にどこからともなく現れ、決め台詞と共に成敗すると言う。


『黄昏の魔導士』

この世界に『輝金属』を持ち込んだ吸血種にして、特級の魔法使い。『緑の国』にて存命の人物である。

以前紹介した『歌姫』が、欲深き者どもから逃げ出せるよう取り計らったり、欲深き者どもが行使した『測定不能の異能力』の一部をコピーし、自前で発動可能だと言う。

 なお全くの余談ではあるが……現在晴嵐が宿泊中の宿『黄昏亭』のマスターは、『黄昏の魔導士』の大ファンである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ