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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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例外たち

前回のあらすじ


まだまだ続く『ユニゾティア』講座。この世界の魔法は輝金属を通して発動し、二つの方式が存在する

『魔導式』――魔法の電池を使って、晴嵐でも軽く念じるだけで発動できる方式と

『魔術式』――知識と本人の精神の力を消費して、発動する方式の二つがある。

しかしテティは、例外が存在すると言う……

『魔法』周りについての解説を聞き、『輝金属』が必須と覚えた晴嵐。

 しかしテティは『例外』があると言う。一定の法則の外側の存在……それはこの宿『黄昏亭』とも無関係ではないらしい。全く想像できない晴嵐に、クスクスとテティは肩を揺らしている。


「ホント、いい趣味しておるの……」

「ごめんなさいね? でもこれは私の特権だから」

「……ほどほどにしてくれ」

「ハイハイ」


 彼女は面白がっているが、知識のない晴嵐には死活問題である。今まで嘘を吐いていないし、その辺りは自覚しているとは思うが……

 一瞬物騒な気配が出ていたのか、紫の目を細めて伝える。


「あなたを本気で怒らせる気はないから。リスクリターンが合わないもの」

「……後々借りは返す腹じゃよ」

「下手なコトすると、返す物が恐ろしい物になりそう」

「良く分かっておるではないか」


 頬杖をつく晴嵐に対し、砕けた態度で話すテティ。肩の力を抜いた会話だが、やはり彼女には妙な品がある。前世の影響か? 

 脱線しかけた道筋を戻し、少女は『魔法についての例外』を喋り出す。


「『魔法』は『輝金属』を通して発動するモノと話したわね? これは今現在の常識だけど、どうも昔は違ったみたいなの」

「何?」

「具体的には千年より前の話になる。このころは『輝金属』なしで、訓練すれば魔術式で魔法を使えた時代……らしいわ」

「魔導式は?」

「存在していなかったみたい。魔法の発動に、輝金属を必要としていなかったそうよ」


 ……つまり特殊な金属無しでも、緩い制限で魔法を使えた時代があった。

 特別な工夫無しでも神秘を発動できるならば、『輝金属』も『魔導式』も、開発する必要がない。となれば何か問題が起きたのか? 早速質問してみる。


「……じゃあ何故、輝金属使う必要が出た?」

「『欲深き者』達が原因とされてる。よくわかんないけど……魔法を使うための感覚、感性を破壊したそうよ。『測定不能の異能力』でミームを破壊したとか汚染したとか……ごめん、話してる私も上辺だけしか知らないの」

「千年前の連中余計な事しかせんな。そりゃ嫌われるわい……」


 愚痴りつつも、晴嵐の心の中は冷や汗でびっしょりだ。

 やはり『千年前の人物たちと、自分の生まれと関連がある可能性』を漏らすべきではない。あまりにも『欲深き者ども』の印象が悪すぎる。これだけ遠慮なくボロクソに叩かれるのなら、誰から見ても『悪者』なのだろう。


(下手にバレたら、晒し上げられてしまうわい……)


 信用できる人間にしても、明かすのは『別の世界から来た』までに留めよう。謎はまだまだあるが、これだけ忌避される連中と『出自が同じ』と言い出せば……世界中から追い回されかねない。

 唸る晴嵐が落ち着くのを待って、テティは改めて講座を続ける。


「だから『千年より前から生きている』人の一部は、例外的に輝金属なしで魔法を使えるわ。効果は低めだけど……不意打ちとしては十分だから気をつけてね」

「千年以上存命……となると『エルフ』と『真龍種』か?」

「あと『吸血種』ね」

「奴ら寿命も長いのか……」


 露骨に嫌悪感を滲ませると、少女は苦く口を結ぶ。つい『吸血鬼サッカー』を思い浮かべてしまう晴嵐を、ひそひそ声で咎めた。


「セイラン、酷な事だと思うけど……混同は危険よ」

「わかっておる。別の種な事は……」

「わかってない。この世界で『吸血種』は、基本高い地位の方々なのよ」

「あぁ?」


 ドスの聞いた低い声を、つい反射的に出してしまう。「そういうところよ」と訴える紫の目に射抜かれ、強い舌打ちの後にふて腐れた。ぐいっと飲み物を煽り、不機嫌を隠さない。


「何故?」

「『千年前の戦争』で、大きな功績を遺した二人の『吸血種』がいる。今生き残っているのはすべて、このうちの一人――『無限鬼むげんき』様の眷属よ。『始祖吸血種』とも呼ばれることもあるわ」

「物騒な名前よな……ん? 待て、眷属は吸血鬼……じゃなかった、『吸血種』を増やせないのか?」

「何言ってるの? 同族に出来るのは『無限鬼』様だけ。死に際に口づけを賜る事で、『吸血種』として蘇る。それが唯一の『吸血種』の増え方よ」

「聞いとらんぞ……」


 以前の説明にない事柄に、晴嵐は目を回してしまう。テティも「そうだっけ?」ととぼけたような顔だ。

 あの時の事を思い出すと、確か晴嵐は『吸血種』の存在に声を荒げ、冷静さを失っていた。少女も他の種族についてを優先し、細かな説明を避けたのかもしれない。


「『始祖吸血種』以外は仲間を増やせないのか。地位と何か関係が?」

「この『始祖吸血種』の方は『五英傑』の一人。ユニゾティアのために闘った、千年前の英雄たちの一人よ。つまり――現存するすべての『吸血種』の方々は、英雄に認められた人物なのよ。基本的に敬愛されている状態ね。あなたには辛い事でしょうけど」

「………………」


 血を吸う化け物が英雄か。全く目眩のする話だ。

 分かっている。こうして社会に溶け込んでいる以上、自分の知っている吸血鬼サッカーとは別物だ。なのに殺意を抑えられない。もう反射的に『血を吸う化け物』に対し、敵意を抱いてしまう。

 眉を怒らせる彼へ、不安げにテティが顔を覗き込む。


「セイラン?」

「……その『五英傑』とは?」


 とても持ち直せないが……無理やり話題を逸らし、英雄譚に意識を切り替える。遥か昔のおとぎ話でも聞けば、少しは溜飲を下げれるかもしれない。

 

「なんとか受け入れる努力をしたい。大げさに頼むぞ」

「責任重大ね……」


 劇場の朗読者のように、少女は大げさな動作で髪を弄る。

 そして彼女の口から、千年前の話が始まる『魔法』や『輝金属』と、大いに関係のある五人の英雄の話が、朗々と語られた。

用語解説


輝金属なしでの魔法の発動について。


 ユニゾティアの千年前は、現在の『魔術式』が、輝金属を通さずに行使できた時代のようだ。原因の詳細は不明だが……『欲深き者ども』『異界の悪魔』が関わっていることは確実。なので、千年以上生存している人物の一部は、今でも輝金属無しに魔法を行使できるという……


『五英傑』


千年前に活躍した、高名な五人の英雄たちのこと。

うち一名は『始祖吸血種』であり、結果として吸血種の人物は『千年前の英雄に認められた人物』なのだ。そのため、敬愛される社会的地位にある。

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