魔法の理
前回のあらすじ
この世界の独自技術『魔法』についての解説を聞き始める晴嵐。二つある方式のうちの一つ、『魔導式』について学び、今度は『魔術式』について学習する。
一旦宿屋の下に降りた二人は、亭主に軽食を注文しつつ、講座を再開していた。
魔法の自我を持つロボットこと、ゴーレムのテレジアと
テティの母親、ターニーの視線を背中に受けながら、である。
「やりづらいの……部屋に戻るべきか?」
「もう手遅れでしょ」
目撃された時点で、噂になるのは諦めねばなるまい。それはまぁ良しなのだが、母親からの視線は、晴嵐にはプレッシャーめいた圧力を感じる。
宿屋の部屋から男と二人……気が気でないのは分かるが、想像している事は全く起きていない。お互いに中身を知っていては、その気なんて起こりようがないのに……
彼の心情に共感し、テティは小声でささやく。
「前もちょっと話したけど……母様は女手一つで育ててくれたからね……」
「にしても過保護な気もするがの。あれではお主、男友達とも付き合えんのではないか?」
「普段はああじゃないのよ? でもあなたとはホラ、経緯が経緯だし、余所者だし。その割に私は気を使ってるわけで」
「誤解されるのもやむなしか……」
二人きりで話していると、つい忘れそうになるが……お互い見た目は「若い男女」だ。色々と噂になるのも無理はない。仮に真実を説明しても、頭を疑われるのが関の山だろう。妙な噂が流れようとも、受け流すしかないのだ。
「だからササッと終わらせるわね」
「あぁ。お互いややこしい事になる前にの」
「で、今回は『魔術』についてだったわね……発動するのに『輝金属』が必要なところまでは『魔導』と同じ。けれど手軽には使えないの。二つ必要なモノがあるわ。わかる?」
目にしたメモ書きを思い返すが、中々頭の中でまとまらない。一応片方は口にできた。
「一つは『魔法を使うための動力』……なんじゃったか?」
「えーっとそれは……正式な名前は無いの。みんな感覚で使ってるから、大雑把な言い方しかできないのよ。『やる気』とか、『精神力』とか……一番メジャーな言い方は『気力』かしらね?」
「本人の精神に関わるモノか」
テティも一旦間をおいて、伝え方を考える。
「そう。これは解釈の一つなのだけど……『自分から何かをする』『自分を動かす』って、大変よね? 基本人間って、自分からは新しい事に挑みたがらない。それは新しい行動を起こすには『やる気』とか『根気』とか『気力』と呼ばれるものを大きく消耗してしまうから……そう考えられているわ。
自発的な行動、自分から変化を求める活動には、すべて『心の力』が使われていると考えられているの。これは人間だけではなく、動物も同じではないか……なんて人もいるわね
この『自分を動かす心のエネルギー』……呼び方は人によって違うけど、これを消費して発動する魔法……これが『魔術式』よ」
分かるような、分からないような説明である。もう少し詳しく……と言いたくなる気持ちを抑えた。彼女はこれでも、精一杯表現したのだろう。
魔術式の根源……心から生じる『気力』『やる気』『精神力』……呼び方もバラバラで、あやふやだが仕方ない。何故ならそのエネルギーには形がない。計測が出来ないのだ。
けれど心当たりはある。例えば活動的な人物、活発な人の事を『エネルギッシュな人』と表現することがないだろうか? ユニゾティアに限らす地球でも、気力に満ちた人間と、落ち込んだ人間の差は、確かにある。
人の持つ活力――それが『魔術式』の発動に必要な動力源か。知った顔を思い浮かべ、試しにテティに聞いてみる。
「スーディアは『魔術式』を使えそうだな」
彼女のために剣を取り、今は亜竜自治区へいるオークの名前を上げてみる。軽く肩を揺らして、テティは満面の笑みで答えた。
「ほぼ間違いなくそうね。でも、外見上は『魔術式』か『魔導式』かは、外から見るとわからないの。輝金属を通すのは同じだから」
「だからひっくるめて『魔法』と呼ぶのか」
「そうよ」
方式は微妙に異なるとはいえ、不可思議な力な事は違いない。まとめて呼称しても、大きな問題も起こらないのだろう。
「魔導式と魔術式……他に違いはあるか?」
「『魔導式』と比べた時『魔術式』は……本人の意志やイメージを、より細かく反映してくれる点が大きいわ。『魔術式』は良くも悪くも『使用者の影響を受けやすい』の」
晴嵐は腕を組む。要は『魔導式』はカートリッチによる補助で、簡略化して発動する魔法。『魔術式』はすべて自前で行う代わりに、細かな調整も可能……ということか。
「となると……こっちの住人もいきなり『魔術式』は使えないのか」
「だんだんあなたも分かって来たわね。実際、初めて魔法を使う人には『魔術式』はオススメできない。まずは『魔導式』で魔法に慣らして、その後は理論や仕組みを学んで、そしてから『魔術式』を実践する。それでも上手く行かない人も多いけど」
「じゃろうな。でなければ『魔導式』が廃れている」
少しずつ、この世界の技術形態が読めて来た。
この『魔法』と呼ばれる未知の技術には、特殊な金属『輝金属』が必要だ。
発動方式は『魔導式』と『魔術式』の二種類がある。
魔法の電池『カートリッジ』を通すことで、理解のない晴嵐でも使える『魔導式』と。
本人の精神のエネルギーと、魔法に対する知識、理解によって行使できる『魔術式』。
外部から見ると、どちらなのか判別がつきにくい。故に総括して『魔法』と呼ぶのか。
「ふぅむ……例えば、敵が魔法を使うのを封じたいなら『輝金属』を破壊すればいいのか?」
「有効な手段の一つね。私の旗も折られると使えなくなる。一部例外もあるけど」
「今度はその話を聞きたい。頼めるか?」
「そうね。この宿にも縁がある事だし、ちょうどいいかも」
なんのことか分からず、晴嵐は首を傾げる。
テティがチラ見する視線の先には、この宿の主人の姿があった。
用語解説
『魔術式』
この世界で魔法を発動する方式の一つ。当人の精神力を消費し、かつ魔法や現象を深く理解することで発動する形式である。魔導式と比較して、良くも悪くも術者の影響を受けやすい。
『魔法』
魔術式にせよ魔導式にせよ、輝金属を通して発動することには変わりない。外部から咄嗟に判別できないため、ひっくるめて『魔法』と呼ぶ。
なお、どちらの形態にしても『輝金属』を通さねば発動不能のため、『輝金属』を破壊したり、手から叩き落とせば、ほとんどの場合封じる事が可能である。
しかし『魔法』の発動には、一部だけ例外が存在する。




