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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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仮説

前回のあらすじ


人食い退治の報告書を読む、軍団長のアレックス。無事に退治できたのはいいが、晴嵐の隊が『悪魔の遺産』による攻撃を受けたと知る。アフターケアの方針を定めた軍団長は、『休暇が欲しい』とぼやいた。

「と言うわけだから……村の人に今回の事は口外しないでね。納得いかないでしょうけど……」


 むすっとした顔つきのまま、一室の椅子に座る晴嵐は頷いた。

 銃撃を受けてから丸一日が経過し、今日は宿屋『黄昏亭』で身体と心のメンテナンスに努めている。手持ちの道具を手入れしていると、テティが用事があるとやって来た。

 話の内容は『森の一件』と『悪魔の遺産』に関すること。

 公にしたくない案件のようで、またもや口止めを要請された。俯きがちなテティに、優れない顔色で答える。


「いや……アレの脅威は身に染みておる。隠して当然よな」

「あとこれは個人的なお詫び……ううん、言い訳なのだけど……」

「『悪魔の遺産』についてか?」

「……えぇ。隠していたつもりはない。けど結果的にそうなったわ。ごめんなさい」


 ペコリと頭を下げる少女に、晴嵐は頭を掻いた。


「不幸な事故みたいなモンじゃろ。わしも生き残っておるし問題ない」

「……ついでにもう一つ悪い知らせ。私も含めこの世界の住人は『悪魔の遺産』について詳しく知らないの」

「なら知ってる範囲で教えてくれ。それとお主の口から魔法関連についても聞きたい」

「お安い御用よ」


 一つ咳払いをしてから、テティは『悪魔の遺産』について喋り出した。


「『悪魔の遺産』は千年前にやって来た『異界の悪魔』『欲深き者達』が製造、使用したとされる特殊な武器類よ。効果については割愛していいわね?」

「うむ」


 実体験に勝る物はない。加えて以前の世界で心当たりもある。下手をすれば彼女たちより、晴嵐の方が詳しいかもしれない。

 彼が知りたいのはこの世界『ユニゾティア』で、『悪魔の遺産』がどのような立ち位置かだ。


「『悪魔の遺産』は恐ろしい兵器として知られている。千年前の戦いで各勢力に打撃を与えたり、真龍種の方も何人もやられたらしいわ。そんなものだから……世界各国で持つことも、研究さえも禁止されているぐらいよ」

「ふむ……『異界の悪魔』と同列に忌避されておるのか」

「うん。最初期の頃は研究されてたけど……この武器持ってると、憑りつかれるらしいのよね」

「?」


『銃』を想像していた晴嵐には、突然のオカルトめいた単語に困惑を隠せない。少女はあえてスルーし解説を続けた。


「この『悪魔の遺産』は、遠隔で簡単に人を殺せる道具。だからその……すごく攻撃的になるし、態度も傲慢になる傾向が見られるわ。まるで『欲深き者ども』に憑りつかれたように……そうした背景もあって、レプリカさえ作られない曰く付きのモノよ」


 顎に手を添えて擦り、晴嵐には腑に落ちることがあった。

 以前彼は『終末世界の人間は、神経質で攻撃的』とテティに説明した。邪魔者は殺してしまえばいいと、荒んだ発想を当たり前にする人々だと。

 この世界において『悪魔の遺産』は、所有者をそうした心理にするのか。身の丈に合わない力や武器を持つと、気が大きくなる事はあろう。突然の変化を『憑りつかれた』と表現した……そう晴嵐は解釈して飲み込む。


「一般には流通しとらん武器なのか。じゃからわしへの説明を後回しにした」

「そうよ。完全に裏目ったけど。だって所持してるだけでも罰則あるモノなのよ? この早さであなたが遭遇するなんて、想像出来たら予言者の類よ……」

「安心せいテティ。わしは慣れておる」


 顔を上げるテティに、男は不敵に笑って見せた。


「突然不幸が降りかかるなんざ、わしの世界では珍しくない。その世界を生き延びてきたのがわしと言う人間じゃよ」

「過酷な環境なのは聞いてるけど……」

「それにの、あの程度の状況は絶望的なうちに入らん。わしが気にしておらんのじゃ。勝手に落ち込まんでくれ」

「……慰めてくれてるの? もうちょっと伝わるようにしてくれない?」


 そっぽを向いて鼻を鳴らす。どこまでも可愛げがない晴嵐に、少女はやれやれと首を振った。逸らした顔の裏で冷徹に思案を巡らせる。

 共に銃撃を潜り抜けた懲罰奴隷や、兵士たちやテティの反応からして……『悪魔の遺産』に対する忌避感は想像以上に大きい。

 だから――彼は胸に沸いたとある疑念を、胸の内にしまい込んだ。


(『悪魔の遺産』は、わしの世界の銃器である事は確実……)


 そう……『悪魔の遺産』の攻撃は、間違いなく『銃器』によるものに違いない。発砲音といい、弾丸の掠める音といい、体験した晴嵐には解る。あれは絶対にライフル銃の射撃だ。

 それを明かすべきかどうかは……正直、かなり迷いどころではある。

 近い立場の彼女なら、理解を得られる可能性もゼロではない。けど失敗した時のリスクを考えると……ここで博打するには危険と晴嵐は考えた。

 それにまだまだ疑問も残っている。


(テティは千年前と言っておった。厳密には何年かは知らんが、年月に大きなズレがあるとは考えられん……仮に地球の千年前から来たとしたら、レーザーサイトなぞありはせん)


 仮に、仮にだ。千年前の『ユニゾティア』に銃を持った人間が来ていたとする。

 だが千年前に来た奴が『どうして近代火器を保有しているのか』?

 レーザーポインターもそうだし、発射間隔はあったものの……マスケット銃ほど遅くはない。つまり近代の銃器、少なくとも『地球の千年前に当たる技術水準の装備ではない』。時間計算で帳尻が合わないのだ。


(じゃがもし……『この世界の千年前に地球人が来ている』と仮定するなら……言葉や金の単位が同じとか、所どころに見える向こうの発想が『崩壊前の地球からやってきていた』と説明がつく)


 ――今まで強く違和感を覚えていた事柄に、強烈な説得力を持たせる仮説だ。

 もし千年前に来た連中が、崩壊前後の地球出身の連中ならば

 今まで生じていた無数の違和感……通じる言語や、どこかで聞いたこと、見たことのあるような単語や単位の由来が分かる。

 晴嵐の用いていた地球の基準が、千年前に持ち込まれていた――その可能性が出てくるのだ。


(この世界の千年前……いったい何があったんじゃ? そしていつ、どうやって、地球人はこの世界に来たんじゃ……?)


 テティが不審げに見つめるのも承知の上で、無言で低く喉を鳴らす。答えの見えない問題を考え続ける晴嵐に、傍らの少女が声をかけた。

 

「何を悩んでるか知らないけど……魔法についても聞いていきなさい。質問も受け付けるわ」

「あぁ。頼むぞテティ先生」

「本当に……もうちょっと態度どうにかしたら?」

「余計なお世話じゃよ」


 露骨なあくどい口調に、紫色の瞳が据わる。

 睨まれながらも真剣に、晴嵐は魔法についての講座を受けた。

用語解説


悪魔の遺産

 千年前、世界をめちゃくちゃにした者たちが残した迷惑な置き土産。『破裂音を発生させ』『鎧や防壁を容易に貫通し』『遠隔から攻撃できて』『視認は不可能』

 この兵器によってユニゾティアは大打撃を受けた。世界のどこでも、所持するだけでも罰則がある代物で、さらに模造品の製造や研究さえ禁止されるほど。それほどこの武器に対する嫌悪感は強い。

 その正体は『文明崩壊前に存在した銃器』と晴嵐は確信している。

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