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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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事後処理

前回のあらすじ


 突如狂ったように、虚空を攻撃し始める敵。ヤスケと晴嵐が確認すると『晴嵐だけに亡霊が見えた』

 そして敵の狙いが『亡霊』と判断した晴嵐は、少々強引に敵を振り切る。残りの人員にも通達し、晴嵐たちは森からの脱出に成功した。


 ようやく終わった熊退治の報に、やっと腰を下ろして休めると、アレックスは思い込んでいた。

 討伐チーム複数の包囲を受け、猟師達の矢の雨を受けて弱ったが……最終的には兵士たちも魔法の防壁で、突進を防止するなど緊迫した局面もあったという。

 約一時間の格闘の末、計七チームの連携によって、人食い熊の討伐に成功した。かなり大きな体躯の熊は、その後の処遇に悩む案件でもある。

 何せ「人を喰った熊」なもので、食肉に加工するのに抵抗感がある。専門の人々によれば「一応は問題ない」らしいが……コレは心情の問題だ。

 しかし毛皮として使うには、矢傷が大量についている。残念ながら、一つの大きな毛皮として剥ぎとれないらしい。それでも十分な価値になるそうだが、もう一つ浮かんだ案が待ったをかけた。それは――


「この熊を、剥製にしましょう!」


 若いエルフがそう提案すると、周囲にいた参加者たちは好感触を示したそうだ。

 経過報告書を読んだアレックスにも、大捕り物な事は伝わってくる。領主の館か商人に掛け合い、展示するのも悪くない。一旦防腐処理を施した上で、対応を保留している。

 軍団長を悩ませる問題は……遺体探しを担当した五人が、禁域から『悪魔の遺産』による攻撃を受けたとの報告にある。


「また彼か……」


 担当チームの名簿を見て、髭面の男が両手で頭をおさえる。猟師の名前は「セイラン・オオヒラ」……ここ最近の出来事に、妙にかかわっている男である。


「全く、何かあるのか? この男?」


 愚痴を垂れ流す軍団長の隣で、金髪紫目の旗持が進言した。


「そういう星巡りの人……なのでしょうね」

「テティ、庇っていないだろうな?」


 彼女は以前借りを作っている。軽く肩を竦める女性は、呆れた様子で首を振った。


「客観的に見ているつもりです。犯人がいる仮定で疑うなら、旗持の兵士が先ではないですか?」

「何?」

「五人で旗持だけは攻撃を受けず、連絡用の旗を持って安全な場所に避難していました。彼を疑わずセイランに疑念を向けるのは、それこそ身内贔屓ではなくて?」

「………………」


 冷や水をかける言葉に、アレックスはため息を吐いた。

 印象の不穏さに引きずられ、余所者の晴嵐に向けた疑いを引っ込める。


「となると彼も被害者か。事が事だ、口止めもせねばな」

「それは私から言い聞かせます。幸い話が分かる人です」

「……うむ」


 秘密の依頼も口外しておらず、猟師として今回も参加したに過ぎない。関係のある彼女が出向くなら、アレックスとしても不安を抱かずに済む。

 一瞬緩んだ軍団長に、金髪の少女は腕を組んで続けた。


「問題はヨセフカとヤスケですよ……はっきり言って最悪です」


 先程よりも皺を深くして、両手で顔を覆い天を仰ぐ。不可抗力とはいえ頭の痛い案件だ。

 ヨセフカ・カレッジ……『悪魔の遺産』によって理性を失い、恐怖のあまり一人逃げ出した兵士だ。

 仕方ないとは思う。あの独特の破裂音は、この世界の住人なら等しく身が竦んでしまう。電撃や雷に対する忌避感も、大気を震わせる轟音に対し、極度の恐怖を覚えるのが原因だ。

 結果、電撃系の『ボルトレイピア』も煽りを受けた。高性能な武器であることも、ヘイトを買った要因かも知れない。シエラ兵士長並みに使いこなせれば、多少は偏見も緩和されるのだが……

 脇道に逸れた思考を片隅に留めつつ、軍団長は唸った。


「不可抗力ではあるが……犠牲者が出てしまった以上、ヨセフカに甘い顔は出来ん。正直、ヤスケの肩を持ちたいのが本音だよ」

「危うく殴り掛かる寸前だったそうです、セイランが止めたと聞いています」


 盛大に肩を落とす軍団長は、中間管理職の悲哀に満ちていた。

 懲罰奴隷の立場なので、ヤスケはこちらに対して、攻撃的な行為は出来ない。猟師が止めなくとも首輪が無理やり止めただろう。その不均衡が、より溝を深める要素になりえた。

 死の危険にさらされたのは誰もが同じ。懲罰奴隷も猟師も、激怒する案件だと思うが……


「彼、冷静でいてくれたのか」

「ですね。窮地を脱した後も、全員の撤退と周辺封鎖を指示しています。もう彼が上司でいいんじゃないですか?」

「はっはっは……はぁ」


 部外者が最も冷静なのだから、まったくもって情けない。せめて後始末は、きっちり自前で済ませなければ。

 心労を察したテティが、軍団長の肩に手を置く。ほんの少しだけ和らいだ気分で、これからの方針を決めた。


「ヤスケは兵士長に、ヨセフカは私が、猟師へは君が事後処理を頼む。後は領主様に秘密裏に対処するよう取り計らって貰い、犠牲者の遺族には『熊退治中に犠牲になった』と通達……これで大丈夫か?」

「当面は平気かと。早めに遺体を回収したいですが、事が事だけに難しいですよね。上手い時間稼ぎを考えましょう」


 積み重なる厄介ごとに、哀愁を漂わせ軍団長は呟いた。


「あぁ……まとまった休暇が欲しい」

「この処理が終われば取れますよ……多分」

「だといいがな……」


 悲しきかな中間職のさだめ。数年分老け込んだ顔で、もう一度軍団長は溜息を零した。

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