表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/741

虚空を穿つ弾丸

前回のあらすじ


 目の前で知った顔が殺されても、淡々と見つめる猟師。オークのヤスケが食って掛かるが、彼は冷徹に生き残るための選択を決める。恐怖に震えながらも、ヤスケもまた道を選び……

 一方射手の目には……実体のない亡霊が映っていた。

「ダ、ダダダダンナ! なんですかこりゃあ!?」

「わからん……ともかく、今は動くな!」


 未だに森で潜伏する二人は……敵の変化に震えていた。

 晴嵐は『煙幕を囮にし、敵と根競べをする』選択肢を取り、ヤスケは『全面的に晴嵐の行動に追従する』道を選んだ。彼はこう言う。

 

“ダンナが一番、冷静に判断できやす。あっし一人じゃ生き残れやせん。これが多分……一番良い選択と思いやす”


 こちらの世界の人間は、銃器への対処を良く知らないと見える。晴嵐に追従するというのも、なるほど選択肢の一つであろう。故にヤスケは、晴嵐の隣で木の裏に潜伏中だ。

 彼が最後の煙幕を投げ放ち、攻撃する射撃手。しばらく観察を続け、根競べの体制に入った二人。だが敵は突如異常な行動に移ったのだ。

 最初は予想通り、囮につられて銃弾が飛んでいた。一定間隔で響く破裂音に、じっと木陰で耐えていた。だが途中から……明らかに射撃音の感覚が乱れた。まるで何かに怯えて、必死に引き金を引く新兵のように。

 既に煙幕は晴れている。普通なら様子見で、何もしないのが正解のはず。だがなぜが銃声が鳴りやまない。いったい何を撃っている?


「気でも触れやしたかね? 今なら逃げれる……?」

「……と、わしらが気を抜いた瞬間、ブチ抜く腹かもしれんぞ」

「これも演技なんですかい!?」

「わからん。だがこの武器も弾切れ……あぁいや、魔導式みたいに、カートリッジ切れを起こす武器のはず。無駄使いにしてはやり過ぎな気もするが……」


 ヤスケの言動からして『悪魔の遺産』こと『銃』は、こちらの世界で忌避されている節がある。ならば銃弾も貴重な消耗品と予測がついた。それを浪費するとは思えない。

 軽く空を見上げてから、彼は提案する。


「次の音の直後に、一瞬だけ顔を出し確認するぞ」

「大丈夫ですかい!?」

「聞いとるならわかるじゃろ? 敵の武器は連続で使えん」


 連射可能な銃器もあるが、それなら煙幕に弾幕を張るはずだ。一発ずつ撃つはずがない。念のため発射音の直後に顔を出し、次弾までに引っ込めれば大丈夫。不安を煽る生存本能を抑えこんで、二人はタイミングよく顔を出した。

 ――そこには亡霊がいた。

 何度か夢に見た、赤茶錆びの穴あきの亡霊。

 終末世界の始まりの日に見た、あの幽鬼が森の一部に立っている……!


(な、な、な……! なんでアレが……!?)


 さっと木陰に隠れた晴嵐の顔は、蒼白に転じていた。

 今まで現実にアレを目にしたことはない。同じ展開の悪夢の中しか、アレと出会った覚えがないのに……何故アレがこの森に居るのだ?

 変貌した晴嵐と裏腹に、ヤスケは険しい顔を変えずこう言った。


「なんもありやせんね……何を狙って……?」


 次の弾丸も虚空を飛び、着弾音も酷く遠い。誘いの浪費でもないと確信するも、二つの事実に絶句した。


(射手やわしには見えていて、ヤスケには見えておらんのか!?)


 ソニック音は亡霊を狙っている。視認した晴嵐は確信したが、ヤスケの顔は不安なまま。

 増えた情報を元にして、選択肢を頭の中で搾る晴嵐。胸に手を当て、心音と呼吸を整えてから、ヤスケの手を軽く引いた。


「理由は知らんが……敵はわしらから意識を逸らしておる。音を立てず、大きく動かず、敵が狙っとる位置の逆側に逃げるぞ」

「い、いや、大丈夫ですかい!?」


 亡霊が見えていないヤスケには、この方針転換は納得いかない。少しだけ強引に晴嵐は事を進めた。


「わしはここでこっそり逃げることに賭ける。お主は一人残るか? 好きに選べ」

「そんな殺生な! あぁくそ! 死んだら化けて出てやりますぜ!!」


 口論もそこそこに、四つん這いの低姿勢で森の中を密かに逃げ出す。

 残った死体と亡霊が、銃声の森に取り残された。


***


「は、早く逃げるんだ! ミー以外みんな死んだ!」

「落ち着けヨセフカ! 今他のチームに離れるように連絡入れてる。上からの指示も待たないと……」


 グロテスクな死体を眺めたせいで、遠ざかった旗持。その直後『悪魔の遺産』の使用音が鳴り出し、怯えながらもその場で兵士は待機していた。

 程なくして逃げて来たのは、同じチームのヨセフカ。顔面を恐怖で崩壊させて、旗持を見つけると泣き崩れ、しばらく動かなかった。

 彼の主張によれば、あの場に残った四人は『悪魔の遺産』の脅威に身を晒されたと言う。命からがら逃げだしたヨセフカは、今すぐ逃げるべきと必死に訴えた。

 旗持の兵士は迷う。非常事態と感じはしても、このまま逃げていいのだろうか? まずは連絡の後に、兵士長か軍団長の指示を仰ぐのが正しい対応ではなかろうか……


「ともかく少し休んでろ」


 待機を選んだ旗持に、不満を見せるヨセフカだが……疲弊も頂点なのだろう。木にヘリに座って、ぐったりと汗をぬぐう。

 まだ鳴り響く破裂音の度に、びくびくと身体を震わせている。反射的に恐怖をもたらす音に、怯えてしまうのも無理はない。

 未だ自分で決められず、旗を持った兵士は報告を先に行った。仲間たちは熊退治の後始末中で、どうにも反応が鈍い。もう一度強く叫ぼうとしたその時、森の中から静かに二人組が飛び出した。


「!? 無事だったのか!?」

「危うかったがな……っと、おい待てヤスケ!」


 飛びかかる寸前に、晴嵐が腕を伸ばして止める。怒りの矛先を猟師に変えて、オークは吼えた。


「なんで止めるんですダンナ! こいつ……こいつは……!」

「揉めるのは後にせい! おいお前、連絡を入れ続けろ。森の禁域を封鎖するように伝えるんじゃ」

「し、しかし権限が……」

「んなこと言っとる場合か! わしらもここからすぐ撤収するぞ! また狙ってくるかもしれん。ともかく無駄な犠牲者を増やすな!!」


 切迫した瞳が危険を訴える。旗持が各所の旗持に情報を飛ばし続け、懲罰奴隷はヨセフカから目を背けて、ドカドカと大地を踏み鳴らして歩く。

 最後尾、二人を置いて先に逃げたヨセフカは、びくびくと恐怖を滲ませ付き従う。生存の安堵から顔を緩めた瞬間、狩人は胸倉を掴みあげて告げた。


「今は追及せん。じゃが貴様を赦した訳ではないぞ?」


 猛獣めいた瞳が、臆病者の心を突き刺してから背を向ける。

『悪魔の遺産』が鳴りやまぬ中で、生き残りの四人が、森に潜むナニカから撤収した。

用語解説


謎の亡霊

晴嵐と射手には認識できて、ヤスケの目には見えていない。しかし晴嵐は『現実に亡霊を見ていない、見たとしても夢の中』と言っているが……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ