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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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狩りと捜索

前回のあらすじ


 時間が少し経過し、虐待を受けた令嬢が目を覚ますも荒れている。そんな中屋敷に赴いて伺いを立てたのは、『懲罰奴隷』と『人食い熊退治』の案件だった。

 数日後の募集に応募する、ハーモニーと晴嵐。首輪付きのオークも交えつつ、狩りの日に備える。

 翌日の朝九時、兵舎前には約七十人の人が集まっていた。

 相互に連絡し合うための『旗持』と、周辺に立ち入り禁止の誘導をかける兵士たち。獣の痕跡を追い、獲物を殺す役割のハンターだ。

 事前の募集で集まった彼らは、五人一組で行動に入る。十のチームに別れ、森に圧力をかけながら、人食い熊を探し出すのだ。


「こちらメイジ。異常なし」

『テティです。こっちもさっぱり』


 旗を持った兵士で連絡を取り合い、情報を共有しつつ網を張る。相互通信を利用する様は、まるでトランシーバーを用いた連携のようだ。何度か感じていたが……この世界の住人は、遠隔での通信技術、その重要性と利便性をよく理解している。


『こちらロビンソン、同行者が痕跡を発見! 位置情報を伝える。近場のチームは至急集合されたし』

『『了解!』』


 明確に異なる異界で、現代めいたやりとりを交わす。返事をしない旗持の男は、別のメンバーと交信に入った。


「ハズレの隊へ、遺体の捜索に入るぞ」

『りょーかい』

『はは、楽な仕事だな』

「正直、あまり気のりしないが」


 晴嵐に割り振られた隊は、熊を見つけたチームと、かなりの距離がある。事前の打ち合わせにあった、別の仕事を担当することになりそうだ。

 人食い熊を発見したチームと、その周辺の部隊で包囲網を敷く。しかし発見した隊と距離があり過ぎる場合、合流を諦めて……最低二人はいるであろう、熊の被害者の捜索を行う段取りになっていた。

 紫の首輪を装着された、緑の禿げ頭の男が口惜し気に言う。


「せめて熊のツラを、拝んでやりたかったですがね」

「他のチームが仕留めれば、犯人を見れるだろう」

「そういうことじゃあ、ありゃあせん」

「……今のは無遠慮だったか」


 この場にいる唯一の知った顔。懲罰奴隷のオークが顔を険しくした。

 犠牲者の一人は、部族の一人と推察される。首輪付きとは関連を匂わせていた。遠慮がちにオークが問う。


「猟師のダンナ……確かダンナが見つけたって……」

「あぁ。ハーモニー……あの時連れの女エルフと、一緒にのぅ」

「え? あの人エルフだったんですかい? 全然そうは見えやせんでした。あっしらオークに厳しい目を向けるって……」

「少なくとも、ハーモニーはそういう女ではないな」


 時々立ち止まり、晴嵐は鼻を上げて臭いを探す。目的の臭いは見つからず、晴嵐は兵士に指図をする。


「オーク達をどう追撃しておった? 出来ればその方角に進んでくれ」

「……役に立つのか?」

「もちろん。わしは死体を軽く見分した。腕に矢が刺さっておったから、討伐の時はぐれて逃げた奴で間違いない。となれば……多少方向にブレはあるが、村の兵士に追い立てられていた。追い方が分かれば、ある程度は絞り込める。近くまで来れば臭いで発見できよう」

「となると……禁域方面か?」


 方向を変え、五人は森の中を進む。晴嵐は先頭を進み、顔を上げ、風に乗る悪臭を探した。晴嵐以外は半信半疑で見つめている。定期的に足を止め、鼻を頼りに探す彼に、オークがぼそりと質問した。


「ダンナは獣人じゃねぇですのに、鼻が利くんで?」

「わしに限らず、狩人は嗅覚に優れるぞ。獣のクソを探して追う事も良くある」

「わーお……」

「それと……念のため聞いておくが、お主ら腐敗した死体は大丈夫か?」


 嫌な顔をしつつも、オークだけは腹をくくっている。旗の持ち手と二人の兵士は、いまいちピンとこないらしい。晴嵐は頭を掻いた。


「わしが見つけた時点で、ハラワタが食われておった。あれから時間が経っておる。間違いなく腐っとるハズじゃ。自信がないなら顔を背けておけ」

「舐めてるのか? 我々も戦闘で敵を殺す事はある。死体の見たことも別に……」

「『舐めてるのか?』はわしのセリフじゃ。それは出来たてホヤホヤの死体じゃろ。腐敗の進んだ悪臭の肉塊は、五感にクるグロテスクさがある。目の当たりにして泣きべそかくなよ」


 凄みのある声に固まる兵士たち。実際に晴嵐は、終末で惨い死骸を何度も見て来た。多少の耐性はあるが未だに慣れはしない。彼らは初見のようだが、ゲロらなければ良いが。

 沈黙する彼らの中で、最初に口を開けたのはオークである。覚悟は決めていても泣きそうだった。

 

「あっしは……耐えれるかわかりやせん。背恰好は覚えてて?」

「どうだったかの……お主よりは一回り小柄だった気がする」

「そうですかい……」


 見分中に森に悲鳴が響き、その後猪との対決で印象が薄い。他の問題として、晴嵐には種族の違い程度しかわからず、顔つきで個人の特徴を捉えられない。地球基準で例えるなら、外国人の顔を大雑把にしか判別できない事だろうか? なのでこの程度の事しか言えなかった。

 気を遣えない晴嵐は、死体を探す事しかできない。無言で捜索に入る彼らの耳に、他チームの情報が魔法の旗越しに入ってくる。


『ハーモニー! 追え!』

『あ、あの野郎! 腕で防ぎやがった!?』

『怯むな! て!!』


 盛り上がる現場をよそに、こそこそと裏方仕事を続ける彼ら。

 程なくして……晴嵐が足を止める。

 風に乗る微かな死臭は、少しだけ覚えのある物だった。

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