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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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人食い退治の募集

前回のあらすじ


一通り『終末世界』の話を終えた晴嵐。俯いたままテティに問うのは『なぜ自分がこの世界に来たのか』。彼女は『わからない』と答えた上で、この世界で生きがいを探すべきと忠告を残す。

 テティに男が身の上話をした、二日後の昼。ホラーソン村の空気は、やや沈んだ空気を伴っていた。

 原因は……今まで昏睡状態だった領主の娘、ヴィラーズ・キクチ嬢が、意識を取り戻した事にある。一見朗報に思えたが、彼女は目を覚ました途端半狂乱。近場の道具を手当たり次第に、担当医に投げつけたらしい。

 悲運の令嬢の心には、拷問の記憶がトラウマとして刻まれている。ポーションは身体を傷を治せるが、精神や病気は治療できない。目を覚ました途端、また嬲られる恐怖に駆られ、ヴィラーズ嬢は養生を余儀なくされている。

 彼女の父親にして、村の代表者であるヨマル・キクチは、その変わりように胸を痛めていた。父親を強い言葉で罵り、元々あったヒステリー気質が、さらに悪化した節が見受けられる。

 心労を胸に溜め込みながらも、領主としての職務はこなすヨマル。その日軍の代表者として、アレックスとテティが屋敷に足を運んでいた。

 頬骨がこけている領主様に、二人がとある案件を伝えると……疲れ果てた大人の濁った目で了承した。娘の事を胸にしまい、公私を分けて軍部の行動を容認する。

 彼らが伺いを立てた話は二つ。

 捕縛したオークを『懲罰奴隷』として配分する手続きと、出没した人食い熊への対処として、軍民共同での害獣駆除の申請だ。

 無事に通った話は、すぐさま民間の人々……具体的には猟師の人々に募集として通達される。危険手当も出るその仕事に、『黄昏亭』から二人の人物が顔を出した。


「ハーモニー・ニール。セイラン・オオヒラ。では明日の九時に、兵舎前に集合してくれ。必要なら二割程度まで、先払いも可能だが……」

「わしは困っとらん」

「ボクも平気ですよ!」


 窓口を担当するのは、茶髪の女の兵士長。電撃のレイピア使い、シエラ・ベンジャミンだ。先払いの話は晴嵐に向けてだが、彼はそっけなく応じる。

 実際、彼の懐は余裕が生まれている。隣にいるハーモニーと共に、猪を売り払った金を山分けしたお陰だ。すぐに金に困るほど困窮していない。


「無理をしては……いないのか」

「お主が案ずることではなかろう? 別れ際にも言うたが、わしは気にしとらんよ」

「あれ? お二人は知り合いですか?」

「そんなところだ」

「いや別に?」


 頷くシエラ、首を振る晴嵐。ハーモニーは「えぇ……?」と混乱する。ボロが出る前に、晴嵐は強引に話題を変えた。


「そういうお主らも親しげに見えるが?」

「あっ! 分かります? ボクがこの村に来てから、シエちゃんにお世話になりっぱなしで!!」

「ニーニー……私はもう、ちゃん付けで呼ばれる年じゃないぞ」

「あははー!」

「はははは……変わってないな」


 困った笑みは、穏やかで生暖かい。置いてけぼりの晴嵐は、目を線にして数歩引いた。

 しばらく女同士で、姦しく話し合う二人。やはりお人よし同士彼女たちの息は合う。長くなりそうな話をよそに、晴嵐はもう一度兵舎内部に目を通す。

 最初訪れた時は薄暗く、テティを連れ帰った時は……遠目での観察だが、緊張を含んでいた。今はひと段落ついて、少しだけ気を抜いた空気に思える。人食い熊退治なんてのは、軍が本気になる相手ではなさそうだ。

 動き回る兵士たちを見つめると、かつて見なかった種族の姿が目に入った。

 オークだ。晴嵐も何度か目撃したし間違いない。数度ここに出入りしたが、初めてその男を目の当たりにした。鎧は拠点に居たオークの群れが、着用していた物と同種に思える。大きな違いは、首に紫色の首輪がつけられている点か? うっとおしく感じるのか、時々首を引っ掻いている。

 以前は居なかった人物に、若干の興味を抱く晴嵐。よそを向く彼へ、二人の女性の話が耳に入った。


「しかしニーニー、この仕事は危険だぞ。どうしてまた?」

「実は……人食い熊の情報を持ってきたの、ボクたちなんです。だから気になっちゃって」

「そうだったのか? 門番が狩人から聞いたと……君たちだったのか」


 初耳だと姿勢を変え、親密な気配を控えて、兵士の顔で詳細を訊ねる。晴嵐も一旦意識を切り、彼女たちの会話に参加する。


「少なくとも二人が犠牲になっています。姿は見てないけど……」

「足跡の大きさ、犠牲者の爪痕を考えると間違いないの。森の中で悲鳴が聞こえた」

「遺体があったのか。身元は?」

「ごめんなさい、猪が突っ込んできて……物は持ち帰れませんでした。けれどオークの方ですね。この前の討伐作戦の時、群れからはぐれた人……だと思います」


 ぴくりと、背景の首輪付きオークの肩が震えた。察したシエラが「作業を中止していい」と告げ、そのオークを手招く。

 ……顔色は優れないが、意思はあるようだ。シエラが二人に説明する。


「この前の討伐戦の時に捕縛し、今は『懲罰奴隷』として活動中の者だ」

「……ってことは、もしかして」


 首輪付きオークが、ばつが悪そうに答えた。


「あっしの知り合い……十中八九、同じ群れのやつでさぁ」


 また新しい単語に、身構えつつも想像力を働かせた。

 捕縛、懲罰、奴隷、そして知り合い……瞬時に考えつくのは、懲役刑だろうか? 奴隷と呼ぶには身なりがよく、首輪は管理用と想像出来る。懲罰は確か、罪を犯した者に使う単語……だった気がする。

 そのオークが、シエラに対し志願した。


「兵士長さん。その討伐戦、あっしも加えてくれねぇか?」

「……敵討ちするには分が悪いぞ」

「わかってやす。出番がねぇかもしれやせん。でも山狩りの最中に、遺体を見つけられるかも……せめて弔ってやりてぇ」

「……アレックス軍団長と掛け合ってみる。期待はしないでくれ」

「十分でさぁ。ありがとうごぜぇやす」


 粗暴な言い様でも誠意がある。シエラは一瞥の後に、改めて猟師達に通達した。


「それではまた明日。編成次第では私やこの者が、同行することになるかもしれない。よろしく頼むぞ」

「はい!」

「うむ」


 こうして、人食い熊退治へ募集をかけ、村の面々は翌日、グラドーの森にまた踏み込むこととなる。

 ――悪魔が爪を研いでいるとは、露とも知らずに。

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