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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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何故、自分なのか

前回のあらすじ


狂信者との戦いに勝利し、文明復興組に希望が見えたかのように思えた。

しかし、余裕を失った終末世界の環境と、人員の受け入れに納得できない内部の人間が、リーダー格を暗殺してしまう。最後の希望も砕け散り、それでもなお生き延び続けた晴嵐。すべての話を終えた彼が、テティに問う事柄とは……

 世界が壊れていく様を、全て吐き出した晴嵐。

 この後は、ぽつぽつと生きていた人類が、緩やかに着実に絶滅した。大組織が全滅し、孤独に備えて来た人間が、寿命と時間を浪費していくだけだ。

 何も変えられなかった。

 何も止められなかった。

 朽ちていく世界の中で、自分は何もできなかった。

 後悔に意味はないのに、気がつけば一人すすり泣く夜が増え、直接的に、間接的に、殺害した人間の幻影や、恨み事の幻聴に悩まされることも増えた。

 手慰みに、人間以外の生命体を愛でたりもしたが、本当に自前勝手な動機だと思う。その情を同族に向けれれば、未来を変えられたかもしれないのに……

 だから……彼の心に強く、ある一つの事がのしかかっていた。


「なぁテティ……なんでわしじゃったと思う?」

「……何が?」

「何故わしが……わしなぞが、若返ってこの世界にやって来たのか……」


 今までは『この世界で生きなければならない』と、必死に集中してきた。

 けれど拠点を得て、少し余裕も出て、考えることが増えてくると……これが本当に腑に落ちない。

 どうして自分が蘇り、異世界で命を繋いでいる? 


「わかるじゃろ? わしは……本気で世界を救おうとした人間を、救えなかった。出来ることも、努力することも……なんなら手を伸ばすことも、不可能ではない立場じゃった」

「……セイラン」

「どうしてわしなんじゃ。わしよりも奥川か宇谷の方が、ずっとずっと志のある人間じゃった……もう一度を与えるなら、あいつらの方が価値のある人間じゃろうに!」


 ガン! とテーブルに拳を叩きつけて、唇に血が滲む。鉄面皮が壊れ、自分でも信じられない程溜め込んだ感情が、雫となって瞳から溢れた。


「わしは……自分の死にも納得しておった。あのまま死んで地獄行きでも、何にも文句なかった。最初は生きて苦しめと、どっかの誰かの、趣味の良い計らいかと思ったわ。だがここは……わしの知ってる地獄と比べ温すぎる」


 未知の環境、未知の世界に投げ出された晴嵐。常識外に悩まされ、感覚の違いや謎に戸惑った。なれど……シエラやハーモニーのような『お人よし』な人間が、そう珍しくない世界なのは間違いない。それに外部から敵が、常に文明を脅かしてもいない。

 終末世界の地獄と比較して優しすぎる。あの世界を経験した人間ならば、全員が同じ印象を抱くだろう。良い環境を素直に享受できない……俯く晴嵐を眺める、テティの目が据わった。


「違ってたらごめんなさい」

「……何が?」

「あなたもしかして……死んで楽になりたかった?」


 ありえない……反射的に口は動いたのに、喉はかすれた空気を通過させるだけだった。

 痙攣する指。乾く唇。直視を避けた己の闇に、全身が強張って硬直した。

 無力さも惨めさもその身に溜め込み、石にかじりついて生きてきた。死にたくないと何も考えず、必死に命を繋いできた。

 半面――胸の内には、もう解放されたい心象もあった……のだろう。目を逸らした願望を暴かれ、現実の彼は視線を外す。

 ぐっ、とテティは前のめりに踏み込み、晴嵐に淡々と突きつけた。


「……残念だけど、あなたがこの世界に来た理由はわからない。私も、なんで以前の記憶があるのか、今も分かってないの」

「……」

「けれどこの世界で生きてくのに、何ら不自由を感じたことはないわ。そんな理由なんてわからなくても、生活には支障ないもの。でも……その謎を解き明かすことを、張り合いにするのは悪くないんじゃない?」

「張り合い、とは?」


『分かってるくせに』と呟いた言葉を、晴嵐は聞き流したかった。テティは彼を甘やかさずに、彼の内面に語り掛けるように、強く告げる。


「今は……この世界の常識や生活に慣れるのを、優先していいと思う。けれどその後は? 生きる意味や理由、目的を作らないとマズいわよ」

「……人間にそんなモンはない。そんなもんは錯覚じゃ。一人ひとりに意味はあるのだと、思い込みたいだけじゃよ」

「それはあなたが死ぬ前の話でしょ? 一連の話を聞いた感想だけど、諦めるのもやむなしの状況だと思うわ。あなたが荒んでるのも、正直納得した。

 でも今は違う。身体は十代か二十代に見えるし、社会だって生きてる。老いて死ぬには五十年は猶予があるでしょ? それだけの時間、無価値に過ごせるの? あなたは」


 痛烈な正論に、頭皮に当てた手に力が入った。くしゃくしゃに髪が乱れ、晴嵐の表情が苦悶に揺れる。

 世界を知り、常識を知り、人を知り……その後自分はこの世界で、どう生きていけばいいのか。その先は自由に、晴嵐が決める事だ。

 足が、すくんだ。

 どこにでも行ける? 好きにできる? 冗談じゃない。指針もなく行き先もないのなら、自由はあまりに広くて途方もない。大海のド真ん中で、当てもなく彷徨うようなもの。

 だから彼女はこう言ってるのだ。


『地図の見かたや船の動かし方に、今は集中していい。それが終わった後は、行き先を自分で決めねばならない……』


 進むべき道は定まらずとも、いつか自分の足で踏みださねばならない。この世界の生き方を……生きがいを持たねばならない。でなければ危険だと、テティは忠告をくれているのだ。

 迷いながらも、自分自身に刻み込むように……晴嵐は顔を上げた。


「わしは……ただぼーっと生きていく事なんぞ出来ない」


 ならばいっそ、自殺して楽になるか?


「自死も許されん。あいつらに……未練を残して逝った者どもに、顔向けができん」


 ならばどうしろと言うのか。この異世界で自分は、どこに向かえばいいのか?


「常識を覚え、まとまった基盤が出来たら……わしは、この村を出てみようと思う」

「ふぅん? 目的もなしに?」

「この村が生きやすい事は認める。が、もっとわしの水に合う場所があるかもしれんからな。それとわしの性分なんじゃが……一か所にとどまり続けるのが、出来ない人間での」

「世界を跨いで徘徊老人?」

「旅をするとうてくれ」


 先程までの影を内側に押しやり、年不相応に表情の強張らせた顔に戻る。一安心したのか、テティは緑色の石ころを投げてよこした。『ライフストーン』だ。


「私のおさがり。古いからすぐに調子が悪くなると思う。余裕が出来たら買い替えて」

「中身は大丈夫か? わしに読まれて困るモン入ってないか?」

「私的なメモは消してあるし……メール機能は、本人宛のメッセージしか読めない仕組みよ。だから大丈夫。

 でもメモは仕込んでおいたわ。内容は魔法について。一人の時に目を通しておいてほしい」

「ありがたい」


 ちらと外に目線をやると、雨音は止んでいた。今にも振り出しそうな天気模様だが、宿に戻るなら今だろう。


「長話に付き合わせて悪かったな」

「気にしないでよ。興味深い話だったし」

「今度はお主の身の上話を聞かせとくれ」

「嫌味になりそうで怖い」

「聞いてから判断するわい」


 それこそ嫌味たらしい口調で、終末の老人は扉に手をかける。

 彼の足取りに迷いはあれど、危うさの影は消えていた。

分かりずらかったと思いますので、大まかな終末年表を用意しました。基準は晴嵐の歳を基準にしています。気になる方は確認どうぞ


晴嵐 二十歳 

 世界の崩壊が始まる。外部の国との連絡が途絶、混乱は起こるものの、政府組織は健在。何とか世界を持ち直そうとしていた


晴嵐 二十代後半 

 外部との輸入が途絶え、資源の生産が困難になり政府組織が立ち行かなくなる。一部の人員が雲隠れ、および行方不明になったことを原因に、国を当てに出来なくなった人民も、己のために行動を始める。(この混乱が起こる前に、晴嵐は情報や知識を集め、準備をしている。動機は、奇妙な亡霊の夢を見た事)

 混乱が収まるまで待機し、グループとして人が集団を作ったところで行動を再開。交換屋トレーダーとして個人で活動を始めた。


晴嵐、三十代後半

 各所に「吸血鬼サッカー」が出没。分裂した世界を大混乱に陥れ、人間の数が急激に減少。


晴嵐 四十代後半~五十代前半 

『文明復興組』『覇権主義者』『狂信者』の三すくみによる、終末群雄割拠の時代がやってくる。あくまで晴嵐は中立の立場を守りつつ、心情的には『文明復興組』に気を引かれていた。


晴嵐 六十代?

 群雄割拠の終わり。吸血鬼との掃討戦と『狂信者』との戦いの二方面作戦を成功させ、『文明復興組』が覇権を握る。


晴嵐 六十六歳 

『文明復興組』内部で分裂。リーダー一派が暗殺されるが、新しいリーダーは引き継ぎに失敗。唯一生き残った副官が組織にトドメを刺し、全てのグループが全滅


晴嵐 八十四歳 終末世界にて死亡。十年単位で人影を見ていないとの事。よって七十代の頃に、自分以外の人間や吸血鬼は、ほぼ絶滅したと考えられる。

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