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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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滑空

前回のあらすじ


敵船に追い立てられるスカーレッド私掠船団。撤退しつつ、反撃の大砲で応戦する。ユニゾティア式の着火方式の大砲を装填し、晴嵐も手伝う。けれど早々当たるものでもなく……徐々に距離をつめられ、さらなる苦難がやって来た。

 空を飛ぶ魔法の存在は過去、緑の国・聖歌公国間で起きた戦争で目にしていた。

 ホームステイを終えた晴嵐は、今なら分かる。人魚族たちがやっていた三次元的な挙動は、水中戦の経験や感覚によってなされていたのだと。だから他種族が空戦に割り込む事かできなかったのだ。

 魔法を用いてしか三次元的に動けない陸の種族と、常に三次元的な感性を必要とする水中での生活をする『人魚族』……経験値が違いすぎて勝てるわけがない。

 なのに――晴嵐の目の前には、両手『両足』を広げて迫る人影が映っていた。高度は自分たちの目線より、5メートルほどの高さだ。


「なんだありゃ……⁉」


 恰好は……雑に表現するなら『滑空するムササビ』が近いだろうか? もしくは……古いアニメの忍者が使うような、飛行用のたこにしがみつくような姿が近い。違いはムササビの膜、あるいは凧に当たる部分が、魔法で構成されたであろうモノに変換されているところか。絶句する晴嵐の脇で、女性船員のルイスが叫んだ


「上から来るよ! 対空戦闘用意! 船に乗せないで!」


 飛んでいる奴らは、特に攻撃を仕掛けて来る気配はない。上空から直接船に乗り込む算段か? みすみす許す訳には行かないと、晴嵐含む甲板の船員たちが一斉に『悪魔の遺産』を抜き放つ。

 大急ぎでマスケット銃を取り出し、装填作業に入る。火薬、弾丸を入れ、棒で突っついて固定し、着火用の輝金属の金具を起こす。他数名の船員たちと共に、晴嵐の銃器も火を噴いた。

 が……誰の攻撃も手ごたえがない。理由は明白。切り詰めた銃器では射程が不足しているのだ。おまけに相手は上空で、弾丸を重力に逆らって発射する形。空振りの初撃に呆然としているいとまはない。次弾装填作業に入りつつ、晴嵐が苛立ち混じりに叫んだ。


「おい! これ当たるのか!?」

「数を撃って当たりを見込め! 一斉に引き金を引くぞ!」

「何か迎撃用の魔法は⁉ 雷か何か落としてやれんのか!?」

「んな事したら船に引火するだろ! それに射程も足りない! 限界まで寄られた時の最後の手段だ!」

「弾が落ちるのを予測して、上側を狙って発砲しろ!」

「そうは言ったって……」


 晴嵐には特に厳しい注文である。彼は信じられないほど、銃器を使うセンスがない。地球の終末世界では『数を撃って』何とか補っていたが……単発式かつ射程の短い銃で、弾の落下を見越して偏差射撃しろ……なんて無理だ。そもそも他の面々も当てれていない。もう少し引き付けてから……と考えていた所に、甲高い一発の銃声が鳴り響いた。

 直後、ぐらりとバランスを崩して敵の一体が落ちる。銃声の主を見れば、大柄のオークが握るマスケット銃の長身から、白い煙が立ち上っていた。


「マルダさん!」


 船員たちが歓喜の声を上げる。晴嵐も信じられない物を見た気分だ。彼が『無理』と判断した標的を、一撃で射抜いて見せたのである。紛れもなく神業の類なのだが、本人は平静にそのものの声で話しかけた。


「落ち着いて弾幕を張れ。挙動が乱れた所をオレが撃ち抜く」

「すいません! お願いします!」

「流石だ……」


 狙撃の腕は知っていたけど、改めて近い武器を使って……その化け物ぶりが分かる。しかも涼しい顔でやってのけたのを見るに、マルダにとっては造作もない事らしい。惚れ惚れする技量だが、感心する余裕はない。後続の奴らが、ゆらゆらと揺れるように飛んできていた。晴嵐は動揺を隠せずにいる。


「どういう事じゃ……? 空を動き回るのは、人魚族に限られた事じゃ無かったのか!?」

「『飛ぶ』のはな! でも滑空なら出来る!」

「高台なんてどこに」

「船の見張り台! マストの頂点にあるだろ!」


 呆然と目を剥く晴嵐。確かにこの高さからなら、滑空飛行なら可能なのか? 魔法の力もあるのだろうけど、本当に常識が通じやしない。一人を撃墜したのはいいけれど、まだまだ空飛ぶ奴らがうようよいる。パッと見で十人近くいるか? 同船する者達も声を荒げていた。


「おいマジかよ! 何人突っ込ませる気だ⁉」

「それだけルーフェ海賊団が勢いをつけてるって事だろ⁉」

「ここで船沈められたら、次は俺達の番になっちまう。死ぬ気で落とせ!」


 内容を把握しかねる晴嵐。こっちに乗り込んで、船を狙うのは分かる。例えばこれで操舵室に乗り込まれようものなら、艦船の航行がままならなくなる。接舷せずに突入できるなら、それなりに有効な一手に思えた。咄嗟に晴嵐がこう切り出す。


「こっちに同じ装備無いのか? 敵船に乗り込めば――」

「どーやって戻って来るんだよ! ありゃ天国への片道切符だ!」

「地獄行きの間違いだろ! 乗る前に落とされるか、乗り込んでも数人道連れにして八つ裂きだよ!」

「じゃあなんで目の前に居やがる⁉」

「脅されて無理やりだろ! 今すぐ死ぬか、ワンチャンスに賭けるかって!」


 捕虜か奴隷か、何にせよ近い立場に追いやられた者が、背中に銃器を突きつけられて脅されて……か。とはいえ同情してやれない。ここで撃たなければ、次にああやって無茶な突撃をさせられるのは自分たち――


「ったく嫌になるな‼ しかも当たりやしない!」

「どんどん迫って来る! マルダさん! 早く!」

「焦らせないでくれ……!」


 敗北時の嫌な未来があの姿……一方的に射撃の的になり、敵陣へ使い捨ての突撃を命じられるなんて冗談じゃない。弾幕を張る船員たちが必死になるのも分かるし、マルダだって出来るだけ早く装填を進めている。だが『マスケット銃』では、どうしたって装填が遅く、単発ずつしか発射できない。数が少なければ何とかなるが、ここで最悪な景色を突きつけられた。


「九時方向からも滑空してくる奴らが!」

「あぁもぅ!」

「手数が……手数が足りない!」


 空中から乗り込もうとする奴らへの対応をしたいが、人員は船の操舵に加えて、大砲による応戦にも人手を取られている。マルダが外さずに敵を落としているが、それでも明らかに足りていない……!

 ついにすぐ傍まで接近を許し、必死の形相の相手が映る。銃器の装填に気を取られ、マルダの死角から迫る影に――

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