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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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ユニゾティア製大砲

前回のあらすじ


暗雲に偽装した迷彩で、攻撃目標の海賊が逆に仕掛けて来た。我が物顔でナワバリをうろつかれ、たまたま目についた自分たちが反撃の対象になったらしい。多勢に無勢、増援を要求しつつ離脱を図るが、簡単に逃がしてくれないらしい。

 ユニゾティアの辿った歴史上、火薬や爆薬に加え、これらによって生じる破裂音・炸裂音に関する忌避感は強い。関連して雷や電気への忌避感にも繋がっているようだが、海賊や私掠船は例外のようだ。まさかこの世界で……こんな派手なドンパチを目の当たりにするとは、晴嵐は夢にも思っていなかったのである。


「ったく! 随分と賑やかな歓迎じゃな!」

「同感だ! パーティーの主役になった気分だよ‼」

「メインディッシュの間違いだろ‼」


 水しぶきは二方向から上がり、もうすぐそこまで迫っている。相手の狙いが悪いのか、砲の精度の問題か……何にせよ、まもなく相手側の射程圏内に入ってしまうだろう。


「このままじゃローストチキンだ! 左側面の敵船から沈めろ!」


 危険な展開を察知して、すぐさまスカーレッド私掠船団も応対する。晴嵐含む船員が向かうのは、甲板部と船内側面部に装備された大砲だ。

 素人の晴嵐でも一目で理解できだ。映画でしか見たことのないようなアンティークな『ザ・大砲』が、甲板部に五門備え付けられている。真っ黒い筒状の鉄の塊が艦船に固定されていた。


「装填急げ! 弾種は通常砲弾!」


 船員たちが慌ただしく吠えると、大砲の近くの床一角が開閉し、下から鉄製の砲弾と厚い鍋蓋のような形状の布地、そして何か注ぎ口がある鉄筒が運ばれてくる。形状は独特で……胃の模型のような形が近いだろうか? 口の閉じられたソレに詰まっているのは、お恐らくは火薬だろう。

 晴嵐は船のまだ構造を完璧に把握している訳じゃない。が、弾薬庫は中心部近くだった気がする。推察するに、下の船員が弾薬庫から真下の部屋に運び、上側に引き上げて輸送する仕掛けか。点検作業の内職ローテーション時は分からなかった意味が、晴嵐の脳内でやっと繋がる。平時には意味がない部屋は、戦闘時のみに役立つものだったようだ。


「急げ急げ!」


 一人が火薬袋の口を開けて、砲の前側から火薬を入れる。銃器に関する発展が遅いユニゾティアでは、爆薬をまとめた『薬莢』の概念がまだ浸透していないのだ。だからわざわざ前側から、砲の中に火薬を入れる方式を取っている。


「火薬を入れた! 次は――」


 砲の口径にほぼ近い布を中に入れる。まるで料理に使う綴蓋とじぶたのようだ。今までは見ているばかりだったけど……何をするのかをぼんやり察した晴嵐は、砲の傍にある『長い押し棒』を手に取って待機した。


「よい……しょっ……と!」


 他の奴が砲弾を中に入れる。これで砲の底側から『火薬』『蓋の布地』『砲弾』がセットされた。次にすべき事を把握している晴嵐は、続いて砲の中に押し棒を突っ込みつつ聞いた。


「どれぐらい押し込めばいい?」

「布を噛ませてるから爆発はしない。ガッツリ力を入れて固めてくれ!」


 古い仕組みの大砲は――装填の方法自体は『火縄銃』と大きく変わらない。火薬を入れ、弾丸を入れ、棒で押して固めて装填完了だ。違いは火薬量の多さから、変に荒っぽく棒で固めると刺激でうっかり暴発しかねない点か。だから大砲の場合は布を挟んで、火薬と砲弾が直接触れない工夫がされているようだ。

 グッと深く晴嵐が押し込めば、晴れて砲弾の装填は完了。共に装填作業を行っていた船員の一人が、砲を両手で握って狙いをつける。完全に自由ではないものの、ある程度上下左右の角度を付けられる構造だ。弾を入れた晴嵐も少し距離をとり、装填者と共に敵船を睨みつける。砲の後ろ側にある取っ手を思いっきり引くと、次の瞬間に大砲が火を噴いた。

 轟音が響いたものの、反動がほとんど感じられない。砲の下部に濃い茶色の光を鈍く放った。これは確か……衝撃を吸収し、放出する魔法の『アースレイジ』か? 大砲に仕込む事で、事実上の無反動で運用しているようだ。


(魔法の金属の応用か……銃器と同じく、コイツの着火も輝金属か? 便利なものじゃな)


 それだけじゃない。海賊・私掠船の面々が使う銃器は……輝金属によって点火する方式に改造されている。かつての名の由来である『火縄』を用いて引火させる必要が無い。専用のレバーを引くだけで点火するらしい。これならほとんどタイムラグ無しに発射が可能だろう。


「次弾装填!」


 下側からハッチが開き、次の砲弾セットが運ばれている。晴嵐ともう一人が装填作業に入る中、後方から砲弾が追い越して……すぐそばに着弾した。

 慌てて二人して背後を見ると、以前より敵船の影が大きくなっている。慌てて晴嵐は叫んだ。


「後ろ側! 追い付かれるぞ!」


 今のはたまたま敵の狙いが悪かったからか……それとも操舵で回避したのか? どちらにしても、敵の射程に入りつつある。しかも側面からの敵も迫っているのだ。二方向から撃たれるのは非常にマズい。分かっているが、現実をそう安々と変えられる訳もなく――


「んな事分かってらい! でもこれ以上船の速度は上げられなんだよ!」

「どうする!?」

「側面の敵を潰すしか……セイラン、あんたは大砲の装填に慣れてない。戦闘は出来るんだろ? 空から乗り込んで来るヤツの警戒を頼む!」


 適材適所を言い渡されたが、意味をすぐに噛み砕く事ができない。怪訝な顔で晴嵐が空を見上げるのと、船員が「来たぞ!」と叫んだのは同時だった。

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