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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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自滅

前回のあらすじ


 崩壊していく世界の中で、晴嵐の世界の人間はグループを作り、対立を深めていた。『覇権主義者』『文明復興組』『狂信者』の三つと、『吸血鬼』の四竦みで覇権争いを始めたという。覇権主義者が脱落した後の争いについて、晴嵐は暗い顔で、終わりを語り続ける。

「抗争に勝利したのは、文明復興組の方じゃった。被害もかなり被っておったがな。吸血鬼の掃討を兼ねながらの、苛烈な二方面作戦を成功させたのが大きい……あれは本当によく凌いだと思うわい」


 完全に当事者の口ぶりに、テティはクスリと笑みをこぼした。セイランはもう隠さずに、当時の行動を振り返る。


「わしはあくまで中立じゃが……吸血鬼の定期的な駆除や、出現情報を流す仕事も請け負っていた。その時は対価を頂いて、文明復興組が計画した、大規模な吸血鬼掃討作戦に参加していた」

「二方面作戦の片方ね……」

「わし個人の資源も出し惜しみなしで、トラップや障壁も全部仕込んだ。あれは見ものじゃったぞ? 地獄の悪鬼共が、自分たち人間の肉へ喰らいつこうと……凄まじい数で飛び込んでくる。わしら人間も必死こいて、血みどろの戦争に身を投じた」


 想像して、この世界の少女は顔を青ざめた。

 元人間の化け物集団VSセイラン含む文明復興組の人々。凄惨な戦いを繰り広げたのだろうが……饒舌な彼に影は見られない。


「相手は三百はおった。こっちは五十いたかどうか……あれで被害が二割だったのは奇跡よな。あの瞬間だけはわしも、希望があると錯覚したからの……」


 ちょっとした武勇伝を語る顔に、感傷と陶酔と、悲哀が溢れた。

 そうだ……この後彼が手を貸した組織は、全滅したと言っていた。想定できる状況は一つある。


「本体の方が……狂信者を打ち倒し損ねた?」

「いいや。そちらも上手く行った。かなり疲弊こそしたが……文明復興組は、狂信者グループを解体した」

「解体? 殲滅じゃなくて?」


 返って来たのは黒い声。痛烈な敵意と後悔を孕んだ、老人の嘆きだ。


「あぁ。わしも副官も『一掃すべきだ』と本音では思っておった。だが奥川……いや、リーダー格の男は『下っ端は洗脳されていただけで、彼らに罪はない』言うて、残党の一部は組織内に受け入れたんじゃよ……」

「……本当に理想家ね」


 少女は綺麗事と感じた。が、その側面は否めない。

 晴嵐の環境は世界のバランスが崩れた事で、多くの人が精神的不安やストレスに晒された。狂信的な宗教家につけ込まれやすい下地は、確かにあったのだと思う。

 ただ……それで丸く収まるかと言えば、話は別だ。

 全面戦闘と表現した事、犠牲者が出たことを鑑みれば……『文明復興組』の人間は、はいそうですかと、元狂信者グループを受け入れはしない。『罪がない』とは思えないのだ。よっぽどのお人よしか、理想家でもない限り……

 テティには、その後の展開が読めてしまった。


「……内部分裂が起きたのね」

「近いが違う。……リーダー格の暗殺事件が起きた」

「あぁもう……最悪じゃない! せめてワンクッション置きなさいよ!」


 内ゲバは読めたが、暴力的な手段に訴えるのが早すぎる。少女が上を向て顔を覆うと、終末から来た男は、懇切丁寧に世界の空気を教えた。


「あの世界……人を襲う化け物がうろつく環境下におると、みんなストレスで神経質になってくる。どうしても攻撃的になりやすい上、暴力が如何に分かりやすい解決方法か、嫌でも自覚しておるんじゃよ」

「邪魔な奴は殺してしまえ……か」


 かくいうセイランも良く言えば慎重、悪く言えば神経質な所が見受けられる。セイランの世界で暮らしていた人は、大なり小なりこの傾向を持っていたようだ。

 今まで聞く話でもイメージ出来る。ストレスにさらされ、荒れた世界と精神なら……短絡的なやり方に慣れてしまう。周りの敵を倒しても、心を変えることは出来なかった……


「そうだ。笑えてくるのは……中心グループ以外が大よそ賛同し、抹殺を黙認していた事よな。ま、無理もない。敵の殲滅は終え、これから復興だとリーダーは息巻いていたが……道のりはまだまだ遠く、具体性を欠いていた。

 加えて敵勢力に押し付けやり過ごしていた不満が、今度は内部の代表者たちに矛先を変えてしもうた。トドメの悪材料は……元狂信者どもじゃ。基本指示待ち人間が多いせいで、足を引っ張られる事が多発したらしい。苛立ちと対立で歪んでいく組織。希望は多少の癒しになったが、ストレスを軽減してくれんかった」


 終末の淀みを引き受けた溜息が、長々とセイランの身体から吐き出される。聞くだけで憂鬱になる話につられ、テティも同じ顔で首を振った。


「と、大まかな流れを宇谷うたに 遊坂ゆさか……副官だった男に聞いた。コイツも暗殺対象じゃったが、なんとか逃げおおせたらしい。

 後の流れは、もう簡単よな。トップの変わり目でゴタつく組織は、吸血鬼の応対に手間取るようになった。理想家とはいえ実務経験のある人間に、新しいポッと出のトップが追いつくはずもない。勝手に殺して、勝手に後悔して、組織の空中分解が見えた所で……この副官が古巣にケジメをつけて、それで終い。人類の希望はそこで潰えた。わしが六十五か六の出来事じゃな。そっからは……年を数えるのをやめた」


 滅びに至る話は、重くテティの胸にのしかかった。もう一度水の飲み干し、老人は素行悪く恰好を崩す。これが彼が辿った道……世界が滅びるまでの歴史の話か。

 日頃彼が持つ後ろ暗い空気も、物騒に研ぎ澄まされた気配や、荒事への慣れも……壊れていく世界へ適合した結果か。

 その最中で、彼は知ってしまった。

 行為の代償として、首を絞めると分かっていても……それでも争うことをやめられない。分かりあえない人々を、人類の業を目の当たりにして生き延びてきた……それが彼だ。

 紫の瞳が憐憫を宿し、慰めようにも適切な言葉を見つけれない。

 取り返しのつかない破滅を抱え、異世界に来た彼は、今何を思うのだろう?

用語解説


『奥川』


 文明復興組のリーダー。晴嵐曰く『甘ちゃんで理想屋』しかしグループを纏める能力は持っていた。人間の三つの勢力の中で、一番存続したことを考えれば、決して無能な人間ではない。

 しかし狂信者グループを制圧した後、無事な人員を『洗脳されていただけ』と受け入れてしまった事が悲劇の始まり。今まで外側に向けていた不満が内側に向くようになり、いつ死ぬかもわからないストレス環境が人を攻撃的に変え、はるか遠い目標に人がついてこなくなってしまう。結果、リーダー一派の暗殺事件の引き金になった。その際死亡。


宇谷うたに 遊坂ゆさか


 文明復興組の副官。晴嵐曰く『優秀な猟犬』と呼んでいた。事実、暗殺事件で抹殺対象であったが、彼ひとりだけは逃げ延び、中立の晴嵐の位置まで離脱している。

 その後、即座には復讐に走らず、遠巻きに行く末を監視していたが……あまりにもなってない引き継ぎ組を見て、古巣にケジメをつけた。

 これによって、全てのグループは全滅。夢も希望もすべて潰えた、終末末期へと至ったのである……

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― 新着の感想 ―
[一言] 奥川の甘さは吸血鬼が出現するより前の世紀末世界なら強みになる場面もあったかもしれないけど 荒廃した世界に追い打ちかけた吸血鬼という人類種全体に対する脅威が現れた後の世界では毒にしかならないも…
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