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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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後方を狙え

前回のあらすじ


新型について詰め寄られ、大人しく知っている情報を明かす晴嵐。聞いた話、戦闘に直接関係しないと前置きして話す内容は『新型は極めて簡単な構造』な事。生産が容易で、出回って物も不法・劣化コピー品である可能性が高い。危険な代物、拡散を止めるべきと意志が合致しているのを、晴嵐とレオは互いに再認した。

 二度目のレオの講習会も終わり、未経験の熟練船員にも『新型』の情報が行き渡った。

 晴嵐も出席し、明らかに一回目より面子が増え、真剣度も増していたと思う。これで全員が『新型』を認知しただろう。自分たち『マスケット銃』と比較して、あまりに性能差があり過ぎる事を。不幸中の幸いは、防ぐ方法が用意できたことか。それが無ければ、晴嵐も無謀だと止めたに違いない。

 その後も数日間、海原を警戒しながら進んでいたが……ほとんど何も起こらない。ローテーションの役職をこなす中、甲板上で警戒する晴嵐にレオが話しかけて来た。


「はぁい、セイラン。指輪は馴染んだ?」

「なんとかな。習慣が無かったもんで、未だに少し違和感じゃが」


 軽く手を振る左手の中指に、藍色の指輪が嵌められている。支給品の一つ『圧縮水壁を発生させる魔導式の指輪』だ。海賊・私掠船間で銃撃を防ぐ『水壁の魔法』の強化版で、ヒルアントが使いこなしていた道具である。

 これは晴嵐も体験するまで知らなかったが……銃弾って奴は、水を通すと途端に殺傷力を失うらしい。それを見抜いたユニゾティアの人間たちは、水の塊を生成する魔法を使い、銃弾の盾にしているようだ。

 ただし……それはマスケット銃や、拳銃から放たれた弾丸の話。レオ達が追っている『新型』の弾丸は――模型の形状から見ても、彼女たちの体感の話を聞いても、それらの弾丸より貫通性能が高い。既存の水壁魔法では、防御力に不安があるそうだ。

 そこでより圧力を高め、対『新型』用の防壁魔法が開発され……今回の一件を追う者達に支給された。晴嵐は今回の一件のみに付き合うメンバーなのだが、例外は無いらしい。


「魔導式なのもそうだが……念じた瞬間に展開できるのがありがたい。普段お主らがもちいている物もそうか?」

「当然よ。瞬時に防御出来なきゃ、命がいくつあっても足りないわ」

「……だな」


 引き金一つの操作だけで、火薬で加速された金属が飛んでくるのだ。頭で念じると同時に身を守れなければ遅い。完全な暗殺の場合、抵抗の間もなくられる危険性もあるが、軽量で確実な防御手段があるだけ『向こう側』よりマシだろう。


「準備は出来た。となると、いよいよ仕掛けるのか?」

「その予定よ。結構前から、ルーフェ海賊団が根城にしている海域に侵入している。いつ接敵してもおかしくないのに、数日間ずっと空振りなのよねー……」


 こればかりは仕方あるまい。いくらライフストーンを使った地図や、座標の把握ができるとはいえ……広大な海原の中で、狙った船と接触するのは難しい。思考を巡らせる彼を見てレオが低く笑った。


「セイラン、アンタ今『海賊行為働いている所をカウンターすればよくない?』とか思ったでしょ?」

「人の心を読まんで……いや、ちょっと考えれば思いつく事か」

「素人さんの指摘って感じね。そっちは別の私掠船が担当してる。期待は薄いけど、海賊行為への取り締まりも本来のお仕事だもの」

「運よく一石二鳥が出来れば……そう上手くはいかんか」

「まあね」


 海賊から一般人を守るのが私掠船の基本業務。新型で暴れる馬鹿どもと対峙しつつ、あわよくば奪い取れれば……と誰だって考える。それが出来れば苦労はしない。


「だからアタシ達は敵地の奥……補給を担っている船を狙っているの。カートリッジ・弾薬は消耗品でしょ? 現物の補充もしているでしょうし」

「加えて暴れている奴らと比べれば、戦闘に慣れてもいないだろうが……あの武器が相手では油断できんな」

「……そうね」


 これは『新型』に限らず、銃器全体の特性と言える。戦闘に不慣れの者であっても、平然と熟練の戦士を殺し得る武器だ。輸送用に積んでいた物を、襲撃時に開封してくる可能性も高い。純粋な戦闘員でなくとも危険だ。レオも同じ認識で、表情は険しい。二人して話しているところへ、副官役のマルダも加わった。


「セイラン、サボリか?」

「ちょっとちょっと! アタシが口説いてるトコに割り込まないでくれる?」

「見張りはやってるさ。ここ数日暇だがな」

「……スルーも堂に入って来たわね」


 マルダが数度咳払いして、呆れた目つきで船長を見つめる。肩を竦めて、レオはスタスタと船室に戻り、彼女の仕事を再開したようだ。


「で、どこまで聞いた?」

「後方の奴らを狙って、敵地のナワバリでうろついてるって所まで。今の所空振りらしいがな」

「そう言うな。補給線を断つ意義は大きい。私掠船を動員して海上を、ガミウメ氏傘下のシーフロートで海中を、両面から洗いざらい探している」


 ユニゾティアには人魚族がいるから、海上だけでなく海中も輸送ルートたり得る。その両方を塞ぐのは容易ではないが、人海戦術で実行する気らしい。


「……力技だな」

「上もやっと重い腰を上げたのさ。後方の奴らをシバけば……武器を降ろしている黒幕の拠点を吐かせられるかもしれない」

「? 情報が記憶から消されるんじゃ無かったか?」

「人の記憶はな。でも『船そのものを確保すれば、ライフストーンなどの機材から航行を記録』を抜き取れかもしれない」

「なるほど。そこに敵拠点の座標があるかもしれん訳か」


 人の記憶や情報は消せても、人が残した記録までは消せないかもしれない。後方の補給部隊を潰すのは、様々な面から見て合理性がある。頭で一つ整理を終えた所で……晴嵐の視界前方に暗雲が見え始める。

 何か妙だと感じたのは、彼だけでは無かった。

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