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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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「コイツの真価は別にある」

前回のあらすじ


レオの説明会の中、ずっと静かにしていた晴嵐。何か隠していないかと詰められたが、前提の知識について逆に晴嵐が聞く。どうも『本来ならついていない自壊による安全機構』のせいで、鹵獲は上手くいっていないらしい。はぐらかそうとする晴嵐に、もう一度詰め寄るレオ。誤魔化せそうにないと判断した晴嵐は――

 嘘や隠し事の気配を、こうも鋭く嗅ぎ分ける人物はユニゾティアで……いや終末の地球でもいなかった。

 晴嵐は途中から「確認するような質問で長引かせ、曖昧にやり過ごそうとしていた」節もある。理由はいくつかあるけれど、まずはレオが一番気にしている面から話すとしよう。


「お主が懸念している部分に関して……つまり『新型と敵対する際の注意点』周りの隠し事は無いと思う。戦闘で対峙した際の性能周りは、わしの知っている範囲との差は感じなかった」

「もしアンタも知らない事があったとしたら?」

「その時はわしも死ぬかもしれん」


 強く詰め寄っていたレオだけど、この返答には僅かに息をのんだ。知らない事は伝えられないし、もしもそんなことがあれば晴嵐さえも危険だと。

 この発言に、少しだけレオは溜飲を下げたように見える。しかしやはり、彼女に誤魔化しはきかない。絶妙にぼかした所に切り込んで来た。


「別の事についてなら、まだ言ってない事があるのね?」

「そうだ。だがこれは……遠回りな伝聞の話な上、戦闘に直接関係しない部分になる。正直に言えばわしも確信を持って話せない。それでも聞くか?」


 本当の事を言えば『この銃自体、実際に目にした事は無い』のだが……戦闘面での性能は、コイツが属している武器種と大体同じだ。伝聞相手も専門家だし『特殊部隊めいた奴ら』が、類似する武器種を運用した場面も知っている。だから武器としての性能については断言できた。

 が、これから話す部分は……世界が崩壊する前の『戦略的な運用面』と『事前準備』の部分が大きい。直接触った事も無いので、晴嵐自身も実感が持てないのだ。

 誤解を招きたく無いし自身も無い、そして戦闘には直接関係しない。これらの条件が重なったことが、晴嵐のあやふやな態度の原因を知って、やっと彼女は少しだけ緊張を解いた。


「参考程度に聞く事とするわ。で? どういう内容?」

「……生産面の話になる」

「あ、ソッチ系なのね」


 やっとレオが納得したような表情を見せた。そして晴嵐が渋っていた事も合点がいったようだ。『現場で対峙する際の注意点』ではないし、しかも確信の無い事なら無理に話したくない。その心証を理解したらしい。晴嵐も少しだけ肩の荷が下りた気持ちで、伝聞に過ぎない内容を語った。


「どうも、コイツの真価は別にある……らしい。何せ、悪魔どものいた世界でも……ソイツは最新型では無かったそうだ」

「アタシ達基準での『新型』なだけで、これと同格の武装がゴロゴロ出回っていたっての……?」

「コイツでさえ『小型の武器』の枠組みだったらしい。眉唾だと思うが……『空飛ぶ鉄の塊に乗り込んで人間が操り、おまけにコレをもっと大型にして連射できる武器』が装備されて、敵味方陣営で運用されていたとか」

「流石にファンタジー過ぎない?」


『機関砲を装備したヘリコプター』をイメージして伝えたが、簡単に一蹴されてしまった。そりゃユニゾティア基準で考えれば、空想科学にもほどがある。ミサイルに爆弾、ロケット弾などについて語っても通じそうにないと判断。脇道はここまでにして、問題の部分に触れた。


「ま、何にしたって……武器の開発競争なんてのは、追いつけ追い越せで苛烈化するもんじゃ。その中で新型はいくつも作られたが……ソレは五十年近く現役だったと聞いている」

「あり得ませんヨ」


 即座に脇にいたゴーレム、ミッチーが強く否定した。模型を作っただけあって、技師特有の感性があるらしい。


「武器が……道具が50年更新されないなんて、考えられませン。より便利に、より優れた道具を目指して、技術者たちは既存の物を更新し、改良していく生き物でス。そうした中で革新的な変化を発見すル。それが50年も起きないなんて……」

「コイツの問題はまさにそこなんじゃ。もちろん細かい改良や改善は行われた。だが基本形は早い段階で完成し、ほとんど手を加えられていないらしい。コイツが一番恐ろしいのはな……『構造が恐ろしく簡単な事』だそうだ」

「「簡単……?」」


 すぐに飲み込めない二人に、晴嵐は頭を掻きながら、何とか伝わるように話した。


「向こうの基準での話だが……三流の小さな工房でも、部品を一つずつ製造して組み立てる事が出来ちまったらしい」

「待ってよセイラン、この手の金属加工って……欲深き者の世界基準なら、そんな簡単に出来るの?」

「いや……専用の加工用機材が必要じゃったと聞いとるし、専門知識だって必要だ。お主達なら分かるだろうが……『悪魔の遺産』だって複数の部品を噛み合わせ、意味を持たせている精密な工芸品だ。いくら『向こう側』にしたって、手軽に『悪魔の遺産』を生産なんてできない。普通ならな」


 意味深な区切りに、技術者寄りのゴーレムは気が付いたようだ。


「まさか……それが出来てしまうト?」

「コイツに限っては可能らしい。設計の段階で、部品同士にかなり余裕を持たせているそうだ。だから三流工房の雑な金属加工でも、最低限機能する物品を作れると」

「馬鹿ナ……そんな雑な設計をしたラ、部品同士がかみ合わなくてガタつきます。暴発する危険だっテ……」

「実際一部の部品がぐらついたり、がたつくらしいが……それでも撃てちまうそうだ。なものだから、大量の劣化コピーや不法コピーが出回った」

「アタシたちが追っている『新型』も、劣化コピーだっての……?」

「確信は持てんが、多分な」


 自分たちが追い、恐れている『新型』が、雑な劣化コピー品である可能性……言葉を失う二人に、晴嵐は改めて口にした。


「正直に言えば……ただの情報だけなものだから、わしも自信が無い。せめて現物を……破損した物でもいいから、観察したりいじくり回せるならわしも確信が持てるが」

「……盗んだりしないでしょうね?」


 物理的でなく、技術的な意味合いも含んでいそうな問いだ。もちろん晴嵐は頷く。


「当り前じゃ。こんなものが拡散したらえらいことになる。なのに異様に拡散しやすいと来てやがる。徹底管理されているのもこの辺りが理由だろう。黒幕がいるとしたら、ブチ転がすべきじゃろう」


 立場や知識の違いはあれど『この武器の製造と拡散を止めるべきだ』の一点で、レオと晴嵐は意見が一致している。それを再認できたのと、晴嵐が隠していた内容を吐いた事で、やっとレオは納得したようだ。


「そ。じゃ、二回目の講座は出なくてもいいわよ」

「いや、ちゃんと面子を確認しておきたい。出席はしておく」

「真面目ねぇ……ありがたいけど」


 呆れられつつも、表情に悪意は感じない。やっと解放された晴嵐は、潮風を浴びつつ同室の者達の仕事に戻った。

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