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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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驚異の新型

前回のあらすじ


熟練船員を呼び出し、新型に対する説明会を開くレオ。情報に抜けが合っては困ると考え、晴嵐も参加する。出てくるのはよくできた模型で、知っている晴嵐から見ても『一目でその武器だ』と分かる作り。好き勝手言い合う初見の熟練者達に向けて、レオの殺気が振りかざされる。改めて、その武器の脅威が話されようとしていた。

 模型を見つめて好き勝手に喋っていた船員たち。どこか和気あいあいとした雰囲気は、殺気を込めたレオの挙動で破られる。空気を引き締めた彼女は、全員をひと睨みしてから嘲るような声を出した。


「良かったわねアンタ達。マジメに出たおかげで、実戦でいきなり『初見殺し』されずに済んで。色々説明すべき事はあるけど、まずはこの『切り損ねたバウムクーヘン部分』について解説するわよ」


 レオが不慣れな様子で模型を弄る。カチャリと弾倉部が外れて、別の弾倉の模型を取り出した。着脱ギミックまで再現されているらしい。他の者達は『何故そんなことをしているのか』が分からない。レオは僅かに苦笑を漏らして、今の一連の動作を端的に説明した。


「はい。今ので再装填完了ね」

「「「……は?」」」

「この部分が……そうね。魔法使う時のカートリッジが近いわ。それと同じ感覚で……これを入れ替えるだけで、『新型』は弾を込め直せるの」

「「「はい??????」」」


 そりゃあ『マスケット銃』を主力とする者にとっては『ふざけるな』だろう。一発一発、火薬を込めて鉛玉を込めて……と手間暇てまひまかけてやっている連中にとって、弾倉を交換しての再装填は圧倒的に早い。さらにもう一つ強烈な利点もある。


「おまけに、一回の入れ替えだけで……コイツは30近く連射が出来るの。だから例えば……アンタら全員が横並びになっていたら、こう」


 レオが薙ぎ払うように、両手で握った模型を振り回す。もしも『本物』なら、横凪に乱射された弾丸に自分たちは倒れていただろう。改めてデタラメな性能だけど、これが地球文明の基本的な武装なのだから笑えない。しかも――


「加えて貫通力も高くて、今までの水壁だと貫ぬかれるわ。幸い改良した圧縮水壁の魔法は開発完了してて、さっきの上陸で人数分は生産できたから関係ないけど」


 防御用の魔法は開発したから、自分たちはひとまず大丈夫……と安堵する奴はどこにもいない。連射が効いて、再装填が早くて、おまけに貫通性能も高い。サラッとレオは言っているが、自覚の薄かった船員たちはおずおずと尋ねた。


「じょ……冗談……ですよね?」

「マジよ。ちなみにこの圧縮水壁の防壁だけど、近場に水気が無いとうまく使えないわ。海や湖の近くとか、雨が降ってないと使えないらしいわよ。さて問題です。これがもし陸に渡って量産されたら? あ、当然だけと盾とか鎧の腕甲なんて簡単に粉砕するからね、コレ」

「「「………………」」」


 自分たちには防御手段があるからマシだが、陸ではその手段すら失われる。もしもこんなブツが陸で流行したら……と想像すれば、改めて事態の重さを推して知った。極めて雑な説明だが、それでも伝わってしまうのだから恐ろしい。

 だが――まだ彼らは知らない。レオですら気づいていないし、気づきようがないが……『コレ』の本当に恐ろしい点は、全く別の個所にある事を。

 晴嵐は言及を避けた。彼も『知識でしか』知らない事と、実物が無ければ、そして今回レオがしたように『体験しなければ』分からない事もある。何より今の段階で開示するには、早すぎると判断した。

 そんな彼の沈黙を、獣の直感で察したのだろうか? レオは呼び出した全員に指示を出した。


「アンタ達は……今回呼び出しに応じなかった馬鹿たちに、事態の重さを伝えなさい。それと晴嵐、アンタはアタシとマンツーマンよ」

「あれ? 船長、そう言えはコイツ誰です?」

「初対面だよな?」

「まぁ今に始まった事じゃないけど」


 さらっと馴染んでいたが……新たに入れ替わった者と晴嵐は面識が無い。レオは平気で他者を引き抜きそうな気質だから、いちいち気にしちゃいなかったのだろう。案の定、レオは雑な説明で流した。


「『新型』について断片的な知識のある技師よ。ちなみに、ヒルアントとナイフで一対一タイマン張れて、隙を見てアタシを羽交い絞めにした大型新人!」

「船長、冗談ですよね?」

「ね~? セイラーン!」


 近いやり取りは何度もしたけど、この馴れ馴れしさにはため息しか出て来ない。レオもレオで確信犯か? 思いっきり渋い顔で頭を掻いた。


「その相手に、なんでお主はフレンドリーなんじゃ……」

「……今に始まった事じゃないな」

「まぁ、なんだ、諦めろ」

「ハァ……」


 老人故だろうか? 中々割り切るのが難しい。他の呼び出された者達も、近い経験は下のだろう。中には軽く肩を叩きつつ、今回の呼び出しに応じなかった人間の所へ歩いていった。

 彼らの後ろ姿を、レオは誇らしげな目線で見送り……晴嵐とゴーレムの三人になった所で話しかけた。


「大した物でしょ? 初見でも反応したのは」

「……そうだな。突っ立ったままマヌケに死ぬ奴はいないだろう」

「でも一手違いで死ぬ武器よ。アンタは確か……知識だけはあるんだっけ?」

「そうだ。にしてもよくできた模型じゃな。知ってる奴なら一目でわかる」

「ガンバリ、マシタ!」

「ミッチーだったか? 良い技術だ」


 雑な作りの物を提示して、間違った知識が広まったら大事故が起こる。一目で分かる外見の印象も、決して軽視できない。

 そう『一手』の違いだ。この武器を相手にする際は、本当に一手の違いで数十人単位の生死が変わりかねない。だからレオは、晴嵐を呼びつけたのだ。


「何か隠してる事、無いわよね?」


 アンタがコレに対する対処法を知っているなら、隠さずにゲロりなさい。暗に詰めて来るレオに対して、晴嵐は慎重に答えを選んだ。

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