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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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模型鑑賞会

前回のあらすじ


英気を養い、メンバーを入れ替えたスカーレッド私掠船団は……改めて『新型の悪魔の遺産』を追う任に就く。標的の情報などを共有する中――『新型』との交戦の可能性も示唆された。対峙した際の注意点を、希望者は実体験をした者から指南を受けれるらしい。思い違いがあっては怖いと、晴嵐の念のため出席することにした。

 スカーレッド私掠船団は出港し、目標海域に向けて海原を進んでいた。

 たった一日……いや、半日ほど陸に戻っただけなのに、慣れたはずの磯の匂いが濃く感じる。まだまだ晴嵐は海に慣れていないのだろう。前の世界からほぼほぼ陸で生きて来た彼には、まだ磯の匂いが馴染んでいないのだ。

 そんな彼と比較して、この場に来た他の四名は慣れた様子だ。甲板上で堂々と立ち並ぶ偉丈夫の姿は、むさ苦しさも含めてさまになっている。だがほんの少しだけ……晴嵐に近い後ろ暗い気配も感じなくもない。裏稼業に慣れた歴戦の者達な事は、肌で察しがついた。

 気さくに晴嵐へ話しかけたりする者もいないが……あるいは彼らも『匂い』を感じ取ったのかもしれない。距離を保ったままの沈黙は、船長の到来によって破られた。


「うし! よく来たわねマジメ共!」


 潮風の吹く甲板の上で、獅子型獣人のレオが声を上げる。傍らに控えるのはサイズの小さいロボット……いや『ゴーレム』の人物だ。何故が右手だけが綺麗に見える。そこだけ部品を交換して新調したのだろう。


「今回の一件、アンタ達が招集された通り……危険な案件なのは間違いないわ。多分、身構えていても死者が出る」


『新型』の危険度を改めて伝えるレオ。だが、交代で入って来た面々は……ただ話すだけでは納得していなかった。


「レオ。ここは普段からそういう仕事では?」

「だな。悪魔の遺産で撃ちあう以上……毎回無傷とはいかない」

「ウチのマルダがやるように、奇襲の狙撃で一撃……ってのも珍しくない。船長。そこん所はどうなのですか?」


 晴嵐が体験した業務は――『嫌われながらも、海の不法行為を取り締まったり注意勧告する』程度だが、最初の遭遇時のように『敵対海賊との戦闘』も含まれているのだろう。時に死者の出る仕事なのは、容易に想像がつく。『自分たちは危険に慣れている』と自負があるのだ。

 ともすれば慢心に繋がるが……こうして『真面目に』話を聞きに来ている時点で、ここにいる面子は違うだろう。現にレオは怒ったりせずに、彼らの意見を受け止めていた。


「そうね。死のリスクなんて今更の話ね。でも……危険度まるで違うのよ。いくつか模型を用意したから交えて説明するわ。ミッチー!」

「こちらデス!」


 ゴーレムが背中側から――独特な形状の物品を取り出した。晴嵐は見覚えがあるので『一目で』理解したが、他の面々は反応が少し遅れている。が、流石に『覚悟のある者』を呼びつけて入れ替えただけあり、察するのは早かった。


「こいつが『新型』ですか?」

「の模型ね。完品はまだ入手できてないの。アタシらが目にした実物と……辛うじて確保できた部品の一部を元に作った物。要はハリボテね」


 レオが模型を手に取り見せつける。人目で『よくできている』と晴嵐は思った。

 後ろ側のストックと、銃の前側、そしてマガジン部はちゃんと木目色の加工がされているし……引き金やグリップもしっかりと再現されている。特徴的な形状の銃身部、弾丸を射出する銃口部バレルの上には照準器アイアンサイトがニョキッと立ち、先端部のやや後方から鉄筒が斜め上に枝分かれ。もう一本の管となって並行して銃本体と接続している。

 知っている奴なら――一目で『最も世界ちきゅうで普及してしまった銃器』と分かるだろう。銃器にさほど詳しくない晴嵐でさえ、その武器の名称と形状は知っていた。

 が、しかし『マスケット銃』『フリントロック銃』で発展が止まっている世界の住人には、この武装はこう見えたらしい。


「『悪魔の遺産』に間違い無さそうだが……」

「なんで管が二つ? 筒の中を二つ弾が通って二連射できる……とかか?」

「合流部分を痛めるだろそれ。暴発しそうで使えたもんじゃないだろ」

「引き金の後ろの奴は……握りやすくするためか。でも引き金の前側についているアレなんだ?」


 ユニゾティアの住人には、まだ弾倉マガジンの概念がない。だから、その意味や構造が分からないのだ。元の世界では『バナナ型』と呼称されていたが……私掠船の面々はこう表現した。


「ああいう形状に切り分けた菓子があったような……なんだっけ?」

「え、オレ知らないかも。どんなヤツ?」

「元々は丸っこいっつーか、ドーナッツ状っつーか……」

「……バウムクーヘン?」

「「「それだ!」」」


 危うく晴嵐は噴き出しそうになった。だが言われてみれば……茶色の色味と形状からして、そういう風に見えなくもない。笑いそうになる内側を押さえつつ、彼らの話に晴嵐も合わせた。


「だとしたら……切った奴ヘタクソ過ぎるな」

「はっはっは! 確かに! バウムクーヘンの四分の一にしちゃあチョイ大きいし」

「かといって三分の一より小さいよな」

「失敗がバレて、後で絶対モメる奴だ」

「ますます分からん。なんでこんな半端な部品を?」


 和気あいあいと、勝手に喋る者達。未知のモノに想像を膨らませるのは、なんだかんだで楽しいものだが……次の瞬間、刺すような殺気が船長の側から発せられて――


「「「「――っ‼」」」」


 全員が鋭く反応した。

 晴嵐は身を低くしながら転がり、もう一名も伏せつつ銃を抜いた。

 別の一名は横に飛び退き、二名は『水の壁』を出現させて身を守った。

 染みついた対『悪魔の遺産』の動き……熟練の私掠船の面子と晴嵐は、よく訓練された動きをしている。模型と説明されていても、殺意に対する対応力は確か。しかしレオは、水壁を展開した二人を差して叱責を飛ばした。


「はい、そこの二人……多少威力が減衰しているだろうけど、実戦だったら『被弾』してるからね? 他の三人も運悪いと死んでるわよ? 全員まとめて、ね」


 晴嵐目線では『伏せた奴は恐らく生き残って反撃できただろう』と思うが、レオの意図を察して口にしない。新武器に対する注意喚起なのだから、多少大袈裟に脅すぐらいが良いだろう。何より他の面々は、それをレオの極端な誇張と気づかない。情報に差があるのだ。

 彼女はそれを埋めようとしている。ならば邪魔をすべきではない。晴嵐も見落としがあるかもしれない。しばらくは彼らに混じり、レオの言葉を聞くとしよう。

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