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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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今生の覚悟

前回のあらすじ


強気に強気で返した所、レオはたった一枚の存在に臆することなく全投入オールインで勝負を仕掛けて来た。ひぃひぃ言いながら、残った全員が勝負に乗る。

結果は……そう都合よく52分の1など握っている訳もなく。ブラフと圧の賭け合いをしただけであった。それでもレオは、楽しかったと締めくくる。

「やー楽しんだ楽しんだ! みんな! ありがとね!」


 賭博場の一角を使った身内大会を、主催者のレオが締めくくった。

 船員たちも、そうでない生粋の勝負師たちも、彼女の頭を下げれば軽い拍手が起きる。ここを取り仕切る運営側の者たちも、暖かい目線を送っていた。


「うっし! じゃあスカーレッド私掠船団! 引き上げるわよ!」


 今宵を遊びつくした、レオ含む船団の者たちが引いていく。晴嵐もそれに続くが、一部の者の顔色が、深い寂寥せきりょうを宿している事に気が付いた。


「どうしたドグル? 随分寂しそうじゃないか」


 同室のドワーフもその一人だ。わびしさを漂わせているというか、後ろ髪を引かれる奴の気配を出している。少し話した時も「あまり遊ばない」と自身で発言していたのに、だ。楽しんだ奴が祭りの終わりを惜しむのは分かるが、観客寄りのドグルまで『そう』なのは違和感がある。晴嵐の言葉を、彼は哀愁たっぷりに肯定した。


「……うん。これが、みんなと今生の別れかもしれない。から」

「何?」

「あれ? セイラン、聞いてない?」


 死を予感させる単語に、晴嵐は訝しんだ。軽々しく口にする単語ではないし、それを隠されているのは良い気がしない。促すまでも無く、ドグルは船員たちに迫られたある決断を話した。


「これから……『悪魔の遺産の新型』の案件に入るって。本当に危険だから……戦闘が苦手な人と希望しない人は、船を一旦降りる。代わりに……腕のいい人や、覚悟のある人が乗る」

「船員の入れ替えか……」


 何か隠し事をされているのか? と邪推した晴嵐だけど、内容を聞いて納得した。これなら彼に告げなかったのは頷ける。何故なら晴嵐に、降りる選択はあり得ないからだ。

 レオ・スカーレッド率いる『スカーレッド私掠船団』は……現在ある事変の応対に追われている。どうやら海賊たちの間で『新型の銃器あくまのいさん』が流通しているらしく、それの出所を突き止めたいのと事。現在晴嵐はその協力者、技術者として同じ船に乗っている。初対面の時――不幸な事故とはいえレオ達と敵対したのに、奇妙で複雑な経緯を経て、ここにいる。


 彼女たちと一戦交えた際、晴嵐は海中に落下してしまい……人魚族に救助された。そこで私掠船と海賊との違いを知り、不可抗力とはいえ戦闘してしまったのはマズいと判断される。ほとぼりを冷ますために、人魚族のホームステイに偽装し過ごしていた晴嵐だが……水中用の亜種を所持した奴に襲われてしまう。対処した晴嵐は『専門家』と検分に立ち会う事になり……そこでレオ達と『運命の再会』をしてしまった。

 ただ、この再会は不幸とも言い切れない面もあった。晴嵐は『悪魔の遺産』の件を『地球人関連の何かがある』と考えており……接触出来れば、何らかの真実を得られるだろうと感じている。おまけに一般的に『悪魔の遺産』は忌避され、簡単に探りを入れられる話ではない。

 加えてレオ側から見ても……晴嵐は荒事をこなせ、加えて検分の際に『新型』に対しても知見を見せている。様々な面から見ても、レオ達と晴嵐の利害は一致していた。


「まぁ、わしは『その一件を追うために』船に乗ったからのぅ……降りる話を振られないのも自然じゃろう」

「そっか。じゃあセイランとも、お別れ」

「お主は降りるのか」

「うん。ぼく、すっとろい、から」

「口調だけだろう。それは」

「うぅん。荒事も得意な方じゃ、ない。足引っ張るの、目に見えたから……」

「……そうか」


 感情が見えにくいドワーフの彼だが、今回ばかりは口惜しさが見える。自分の実力不足を痛感しているように見えたが……至らぬ己を自覚している者を、晴嵐は嫌いになれなかった。


「自分の不出来のせいで、他人が死ぬのを見るしかないのは辛いぞ。余計なプライドは不幸の元になる。この世に最悪なタイプの人種がおってな。自分の無能や悪癖を自覚していない奴がいる。他人に災厄をばらまく癖して、厄災の根源は被害者面。そういうクソより遥かに良いよ」


 それは晴嵐の過去。老い果てたジジイとなった彼の経験に基づいていた。

 かつての地球で文明を復興させようとしていた者達がいた。だが彼らは……助けたはずの無能共によって内側から崩されてしまった。晴嵐は中立を保っていたがために、破滅は免れたものの……その後の人生も決して心穏やかでは無い。

 未だに晴嵐は引きずっているのだろう。今をユニゾティアに馴染めないのも、過去の悲しみを振り切れずにいるからか。

 過去に意識を向けた晴嵐だが、呆然と見つめるドグルと目が合いハッとする。喋り過ぎたと慌てて口を噤んだ。


「すまん、嫌味に聞こえたか?」

「うぅん。何か……感じた。晴嵐の、感情」

「………………」


 あまり打ち明ける物ではないし、見せびらかす物でもない。誰かに理解されないと知りながら……つい、自分の後悔を誰かにして欲しくないと願ってしまう。

 いったいぜんたい、晴嵐は何様なのだろうか。何も出来なかった地球での人生を、偉そうに誰かに伝える気か? 引き締めようとしたいのに、ドグルは彼の何かをくみ取ったらしい。晴嵐が何かをかき消す前に、離脱する彼は言い残す。


「――祈っておくね。みんなの無事を。船長も、ヒルアントも、マルダも……もちろん、セイランの無事も」

「…………うむ」


 こんな事を言われて、否定的に返せるわけもなく。内側にある物を押さえて彼を見送る。

 どうやら――遊びはこれで終わりらしい。賭け事に興じる前、晴嵐に銃器を支給した理由も分かった。いよいよ新型の『悪魔の遺産』への対策が、本格的に始まろうとしている。

 引き締めるように息を吐いて、晴嵐は船へと戻っていった。

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