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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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一枚を巡る攻防

前回のあらすじ


参加すると、何故か冷や汗が流れる様な盤面ばかりが出来るというヒルアント。流石にオカルトと思いたかったが、同卓し体感して思い知った。不思議な力でそうなるらしく、対策しても意味がない。そして今回は……まさかの盤面に準最強役が顕現するという奇跡が起きてしまう。これでは勝負にならないと流そうとする晴嵐だが――

「そ。じゃ、次はアタシの番ね? ――賭けるわ」

「「⁉」」


 次の手番はレオ・スカーレッドだ。チップを積むか積まないか、それとも勝負を降りるかの選択。盤面で準最強役の『ハートの2~6の五枚連番絵柄統一ストレートフラッシュ』が完成していると言うのに、まさかのチップ上澄みである。しかも――


「よーし、アタシ大判振る舞いしちゃおっかなー!」

「ちょっ⁉ 姫ェ⁉」


 ただでさえ『賭けて来ること』が想定外だったのに……加えてこの女、自分の手持ち半分を投入して来やがったのである。これにはギャラリー達もざわついた。


「おいおい、なんで賭けてるんだよ? もう盤面で準最強が完成しているんだから……勝負にならない。これ以上に強い役なんて……」

「……あるよ。一枚だけ。一枚だけこの場に出たカードの役より、強く出れる札が」


 聞き覚えの有る声が解説に入る。確か晴嵐と船で同室の奴、ドワーフのドグルだ。あまりポーカーで遊ばないと言っていたが、ルールは把握しているらしい。まだ遊び慣れていない晴嵐は、密かに聞き耳を立てた。


「『ハートの7』……もし船長がハートの7を握ってたら、一枚差で勝てる。ポーカーは……同じ役でも、数字が大きい方が、強い」

「あぁ……一枚組ワンペア出来ても十二クイーンより十三キングの方が強いものな。そうか、それと同じ理屈で……」


 なるほど……もしレオが『ハートの7』を握っていた場合、盤面の2~6の準最強役が、3~7の準最強役に変化し……この一枚の差で勝利をもぎ取れる、と言う事か。

 まだ駆け引きは終わっていない……晴嵐の気を抜いたような様子見チェックは迂闊だったか? リカバリーの手段を探すべく、外野の会話に耳を傾け、晴嵐は情報収集に努めた。


「でもよ……そう都合よく『ハートの7』なんて握ってるか? 52分の1だぞ? 十中八九ブラフだろ」

「それで勝負して、もしハートの7があったら……レオ船長の、総取り」

「う……けど、けどよ、ブラフだったら……今まで積んだ自分の賭け分を無くすようなモンじゃねぇか。ハートの7を持ってなきゃ引き分けだ。掛け分が全部戻って来る」

「それだけじゃない。途中で降りた人たちのチップを、残った人で山分け。ちょっとだけお得」


 まとめるとこうだ。現在、盤面にハートの2~6の五枚連番絵柄統一ストレートフラッシュが完成している。もう勝負にならないと思いきや、誰かが『ハートの7』を握っていた場合に限り、ソイツ一人の勝利になる。レオがチップを賭けたことにより、レオが『ハートの7』が手札にあるかどうかの読み合いが発生したのだ。

 手元にある可能性は52分の1……こんな肝心要かんじんかなめの場面で、ピンポイントで掴んでいるとは思えない。しかしだ。もしもレオが『ハートの7』を握っていたら、勝負に乗ってしまうと……追加のチップごと丸々奪われる事になる。

 かといってだ。たった52分の1危険性にビビって降りた時、レオが『ハートの7』を持っていなければ……つまりこの賭けが『降ろすためのブラフ』だった場合、降りたヤツば丸損だ。勇気を出して勝負に出ていれば、イーブンどころか僅かに得を出来たのに、である。


 危険性はほんの僅かに思える。外野は突っ込んじまえいいと言うだろう。けれど――自分の金を、タダで失うには重い物を賭けている立場では……ほんの微かに感じるリスクすら苦しい。出した勇気が匹夫の勇ならば、余計に出血が激しくなるかもしれない……

 けれどそれは、守りに入ろうとする弱気の姿勢ではないのか? ここで圧力をかけて降ろすのが狙いでは……?

 テーブルに座る物たちの胸内に渦巻くのは、失う恐怖と……賭けた物を取り戻し、取り返し、さらに勝とうとする渇望。

 答えの無い思考の渦の中で……晴嵐もヒルアントも、レオが仕掛けたギャンブルの重圧に焼かれる。レオは安全圏で悠々としやがって……と内心晴嵐が毒吐くが、彼女も彼女で焼かれていたと観客の言葉で気づく。


「このルール、すごいよね。盤面にほぼ最強が出来ても、駆け引き勝負になる」

「仕掛けたレオも流石だけどよ……これ、ヒルアントかもう一人が『ハートの7』握っていたら、自爆する事になるよな? そこんとこレオは怖くなかったのか? まぁ、レオがハートの7を所持していたら安心して勝負に出れるけど……ブラフなら絶対頭によぎるよな……?」


 彼女はチップを積む前に、何の動揺も見せなかった。いつも通りのレオの態度で圧力をかけてきたが……もしもこれが降ろすためのブラフなら、勝負の前ににこんな葛藤があったはずなのだ。


 もしも晴嵐かヒルアントがハートの7を所持していたら……この賭けは何の圧力にもならない。それどころか出血を自ら増やすことになる――


 そんな葛藤や恐怖も無しに、気さくに勝負に出る奴がいるか……と言いたいが、全く表情に出さなかったからこそ圧力はますます増す。もちろん本物の可能性は残っているが――嘘だとするなら、全く見事な『ホーカーフェイス』だ。


「船長の事だから……駆け引き勝負を楽しみたくて仕掛けたのかも。破滅も覚悟で、全力をぶつける気持ちで」

獅子心臓ライオンハートは伊達じゃねぇなオイ……」


 その二つ名も納得の強心臓だ。しかしならば……ここはいっそ、仕掛けてみるのも一興かもしれない。反撃の手立てを一つ得た晴嵐の前で、ヒルアントが苦悶していた。


(気持ちは分かるがヒルアント……そんな態度じゃ『自分はハートの7を持っていません』と言っているようなもんじゃぞ)


 表情に出やすいのは、初対面からそうだったが……ことポーカーでは致命傷になり得る。現にレオは満面の――猛獣の圧の有る笑顔で見つめている有様だ。完全に狩る側の態度である。


「え、えぇいやったるわい! 同額コールや!」


 なけなしの勇気か、レオの行動をブラフと踏んでか……少なくない額を供託に乗せる。

 その動きに被せるかのように――晴嵐も動いた。


上乗レイズ!」

「「「「――はぁ!?」」」」


 ここでの選択肢は、同額を乗せて勝負に乗るか……棄権と感じて棄権フォールドするか。その二択に思われていた。悩ましい場面の中で、晴嵐はまさかの『手番が着た瞬間に、迷わず額を上乗レイズする』という無法の一手を繰り出したのだ。これこそが、最善の一手と信じて。

 ヒルアントが頭を抱えた。さっきまで『レオの上乗レイズに伸るか反るか』で心を焼かれていたのに、晴嵐から『もう一回やれ』が飛んでくれば、そりゃ泣きたくもなるだろう。

 既に顔がくしゃくしゃのヒルアントには目もくれず、まだ挑んで来るであろうレオに、 悟られぬよう無表情で目を合わせると……彼女はあでやかに笑っていた。


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