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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第二章 ホラーソン村編

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群雄割拠

前回のあらすじ


 晴嵐の世界を破壊した元凶『吸血鬼サッカー』について語り始める。人を襲い、同族の化け物へ変異させていくソレについて、修羅の影を見せつつ、晴嵐はおおよそすべてを話した。

 崩壊していく世界の中で『足掻いていた』の発言を拾うテティ。終末に抗い、死んでいった者たちについて、晴嵐は話を移した。


 冷たい灰色の世界、常に死と隣り合わせの世界の事を、今も晴嵐は忘れたことがない。

 身体が若返ったところで、魂に刻み付けられた傷跡や痛みは、簡単に癒えるわけもなく……一つだけ、未だに強く悔いを残す事柄が、彼の心に残っていた。


「お主の言う通りだ。何とか政府組織を、文明を、あの世界の人間を、どうにかして延命しようと……極めて前向きに努力するグループは、いくつか記憶しておる」


 尤も……名称や詳細まで、未だにはっきり覚えているのは一つだけだ。

 ほとんどのグループは……日和見や烏合の衆、現実逃避者の集まりで、数年持たずに壊滅していた。

 覇権主義者の、暴力的で分かりやすい統治や

 終末カルト宗教による、頑迷な結束力と比較すれば……この手の組織は弱くなりがちだ。人間の悪意に対して、どうしても反応が遅れやすい。

 こうした極端な連中が、頭角を現す理由は明白だ。

 極限状況においては『複雑で高性能なモノ』より、『単純で頑丈、低い性能でも安定して動作するモノ』が有利である。道具であれ、統治方法システムであれ、それは変わらない。


「覇者を目指す暴威的組織や、現実逃避とイカレ具合を掛け算したカルト集団……暴力的、狂信的な連中が台頭し、ただの夢想家共は喰われていった。その中で一つだけ……渡りあえてるグループが、一つだけ存在していた。

 グループのリーダーを務めていた理想家は、複雑で高性能な『政府の復旧』を目指した、大馬鹿野郎だ。資源リソースも足りておらんし、周辺組織との対立で激化する最中じゃ。窮地も一度や二度ではない」

「…………詳しいじゃない。仲良かったの?」

「……一応言っておくが、わしはどの組織とも同じ物資価値レートで取引していたぞ。中立を維持していた」

「聞いてないし。今更言い訳しなくてもいいのよ?」

「……チッ」


 口にしてから、饒舌な自分に気がつく。晴嵐は物資を運ぶだけの、中立な交換屋トレーダーだったが……心情的には入れ込んでいた。


「トップの夢想家は……信じられない程の甘ちゃんでな。ただ、副官がかなり優秀な猟犬じゃった」

「人望のあるトップに、組織に睨みを利かせるナンバーツー……よくある組み合わせね」


 低く笑う晴嵐にも異論はない。終末では珍しい形態だったが、崩壊前なら良く聞いた話だと思う。組織内の空気も、比較的崩壊前に近い彼らの事を……晴嵐は『文明復興組』と呼んでいた。


「最終的には……その文明復興組と、腕っぷし第一の覇権主義者と、吸血鬼を信奉する狂信者の三すくみになった」

「四すくみじゃない? 化け物を含めれば」

「……そうとも言えるな。一応弱小勢力もいるにはいたが、迎合したり、どっちつかずでふらふらして、最後は叩き潰されたり……あとはわしのようなトレーダーが、点在する環境になった。

 三つの大組織と、化け物の入り乱れる乱世……それが起こったのは確か、わしが中年に差し掛かったころ。40後半から50代に起きた事じゃ」


 群雄割拠の時代と表現できるが……客観視する誰かがいるなら『争っている場合ではない』環境下だと思う。

失われる物資、人的資源。老朽化で破損する構造物。更には明確な人外の脅威に晒されてなお、あの世界の人間は一つになれなかった。

 

「各勢力の推移は大まかに知っておる。結果を言えば……全滅した」

「……順番は?」

「まず、覇権主義者たちが崩壊した。内部でも『力がすべて』の統治形式なもんで、代表者が背中から刺される事態が多発した。そして頭が変われば、方針もガラリと変わるせいで、下っ端が組織に振り回された。脅威度が高かったのは、この集団立ち上げた初代だけじゃな。後はずっと右肩下がり。最後は頭数が減ったところを、吸血鬼共に襲われて全滅した。その後は文明復興組と、狂信者との全面戦争に突入しておったな……」


 苦々しい思い出なのに、想起すれば懐かしい。こんなものに感傷を覚える自分にうんざりしつつも、語り口は止まらなかった。


「この狂信者が言うのは……確か……ゴホン。

『吸血鬼は人間の罪科が生み出した存在である! 天におわす神々が、罪深い人間を浄化すべく、遣わした滅びの使者なのだ! 神のご意思に従い、全ての人を吸血鬼に変えて罪を贖おう! そして我々もまた……最後は吸血鬼へと成り、天の意思に従うのだ!!』

 ……と、こんな事を教義として掲げ、信奉しておるイカレ野郎どもじゃ」


 それっぽく声真似する晴嵐に、テティは汚らわしい物を見る眼差しで吐き捨てた。


「何を信じるかは勝手だけど、他人を巻き込まないで欲しいわね」

「全くじゃ。わしもこことの取引は用心した。オブラートに包んだ言い方で『貴方も吸血鬼になりませんか?』と薦めてくるのは本当に困る。当人は善意のつもりなのだから、なおの事たちが悪い」

「……その抗争で、文明復興組が全滅したの?」


 晴嵐は、静かに首を振る。少女がきょとんと眼を瞬きさせる。

 続きを紡ごうとした唇が、まごつくだけで言葉にするのを躊躇う。

 こんなに、胸に深く残っている事だったのか。自覚不足を呪いながら、人類が滅びていく過程の最後を、彼女へと話して聞かせた。

用語解説


『文明復興組』

 終末中期に出現した組織の一つ。崩壊した政府や、文明の復興を目標に掲げていた。やや甘ちゃんのリーダーと、優秀な猟犬の副官の下、唯一生き残ったマトモなグループ。晴嵐としても、比較的付き合いやすかったらしい。


『覇権主義者』


 一言で言うなら『ヒャッハー!』な連中だが……初代が強い力と、規格外のカリスマを保有していたグループ。しかし初代が倒れた後は『力がすべて』の統治形態が災いし、まとまりを失って崩壊した。逆に言えば、初代が極端な能力を保持していたともいえる。


『狂信者』

 吸血鬼を『神が遣わした天罰の代行者』と崇め、全ての人間の吸血鬼化を『救済』と呼んでいたグループ。一応晴嵐も取引していたが、受け答えも含め、かなり用心していた模様。

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